祓っていいとも!

阿弥陀乃トンマージ

文字の大きさ
13 / 29
第1章

第3話(4)勇者の定められた力

しおりを挟む
「さあ、ともに戦おうではないか!」

「えっと……」

「さあ!」

「う~ん……」

「ともに!」

「いや……」

「参ろうぞ!」

「嫌です!」

「えっ⁉」

 わたしの大声による拒絶に、ジャッキーさんは困惑する。

「い、いや、すみません、いきなり大声出しちゃって……」

「そ、それは別に構わないのだが、何故にして嫌なのだ?」

「いや、嫌でしょ、それは……」

「何故だ?」

 ジャッキーさんは首を傾げる。

「何故って……」

「もう一度言うぞ、そなたは運命的な勇者なのだぞ?」

「いや、そう言われてもな……」

 わたしは鼻の頭をポリポリと搔く。

「運命なのだぞ?」

「大事なことを繰り返しがちですね」

「大事なことだからな」

「でも……」

「でも?」

「あくまでも“この辺で”なんですよね?」

 わたしは自らの下の地面を指差す。

「うっ⁉」

 うっ⁉って、動揺が極めて分かりやすいな。これで勇者が務まるのだろうか。

「だったら別にわたしじゃなくても……」

「そ、それでも運命だということには変わりない! そなたは運命に抗うと言うのか⁉」

「抗います」

「な、何のためらいもなく⁉」

 ジャッキーさんが驚愕する。

「ええ」

「な、何故だ……?」

「何故って……別に望んでなったものではありませんから……」

「ちょ、ちょっと待ってくれたまえ……」

「え?」

「勇者とはなろうとしてなるものじゃない……」

「『なろう系』ではない?」

「うん?」

「いえ、すみません、こちらの話です……」

「自然となっているものなのだ……」

「はあ……」

「分かるだろう?」

「いいえ」

「い、いいえっ⁉」

「そんなに驚かれてもですね……」

「分からないのか?」

「なんとなく言わんとしていることは分からんでもないですが……自然になるにしても、そういった兆候というものは見られるものじゃないですか?」

「ふむ……」

「……今のところ、そういった兆候がまったくないのですが……」

 わたしは両手を広げながら自らの体を見つめる。

「別に肉体的に極端な変化が生じるというわけではない……」

「ああ、そうですか……ではあれは?」

「あれ?」

「魔法とか……そういうのを使える感じじゃないんですか?」

「魔法を使える勇者は確かにいるが、全員が全員そういうわけではない」

「え~なんかつまんないな……」

「つ、つまらない⁉」

「あ、ごめんなさい。つい本音が……」

「……しゅ、修練次第だろうな」

「厳しいのはパスですね。遠慮しておきます」

「え、遠慮する……⁉」

 ジャッキーさんが愕然とする。

「……唖然とされていますね」

「そ、それは唖然とするだろう……」

「…………」

 ゴブリンがゆっくりとこちらに近づいてくる。

「ゴ、ゴブリンが接近してきていますよ」

「……共に戦えると思ったのに」

 ジャッキーさんはがっくりとうなだれている。

「……………」

「ジャッキー=バンバラバンバンさん!」

「……!」

「……ジャッキー=バラバンだ!」

「!」

 ゴブリンが襲いかかってきたが、ジャッキーさんは剣を鞘に入れたまま、強烈な突きをゴブリンのみぞおちに食らわせる。ゴブリンは後方に思いっきり吹っ飛ばされる。

「つ、強い……!」

 わたしは思わず感嘆の声を上げる。

「そなたが協力してくれれば心強いのだが……」

 ジャッキーさんが残念そうな表情でわたしを見つめてくる。少し目が潤んでいる。

「い、いや! 別に協力しなくても十分だと思いますが⁉」

 わたしは困惑する。あなた一人で全然良いんじゃないかな。

「………………」

「あ、ゴブリンが立ち上がりました!」

「…………………」

「ま、また近づいてきていますよ!」

「……‼」

「と、飛びかかってきた!」

「しつこいな!」

「‼」

 ジャッキーさんが鞘から剣を抜き放って横に薙ぐ。ゴブリンの首が吹っ飛ぶ。ゴブリンは地面に落下して、跡形もなく霧消する。わたしは唖然とする。

「な、なんという剣の切れ味……!」

「最初の一撃で彼我の実力差を理解出来ないとは……所詮は獣か……」

 ゴブリンの霧消を見届け、ジャッキーさんは背を向ける。

「………!」

「おわっ⁉」

 ゴブリンの代わりに出現したものが手斧を振り、ジャッキーさんを襲う。

「ジャッキー=ララバイさん!」

「ジャッキー=バラバンだ。無理にフルネームで呼ばなくても良い……ちぃっ、油断してしまった……」

「……………………」

「お、大きいゴブリン?」

「キングゴブリン……子分がやられて怒ったようだな……」

「ジャッキーさん、大丈夫ですか?」

「刃の部分は避けたが、柄の部分で思い切り殴りつけられた……あばら骨を何本かやられたかもしれない……回復にはやや時間がかかる。静香、ここはそなたに任せるとしよう」

「ま、任せるって……」

「逃げるつもりか?」

「い、いや、正直それも選択肢のひとつですけれど……」

「大柄だが脚もなかなか速い……逃げ切るのは至難の業だぞ?」

「……ということは?」

「戦うしかないだろうな……そなたに定められた運命の力を駆使して……」

「そ、そんなものを定められた覚えは無いんですが⁉」

「運命はいちいち許可を求めたりはしない……無意識の内に定められたはずだ」

「ず、随分と勝手ですね⁉」

「……試しに強く念じてみるといい……」

「ええっ⁉ ……ええいっ! あっ⁉」

 わたしが強く力を込めると、目の前に剣が現れた。わたしは剣を掴む。

「思った通りだ……武器を召喚するタイプか……」

「………‼」

「う、うわっ⁉ でっかいゴブリンがこっちに向かってくる!」

「剣を振れ! 使い方はそなたの体が覚えているはずだ!」

「そ、そんなことを言われても⁉ ええいっ! 『神、斬った?』!」

 わたしはよく分からないことを口走ってしまう。すると、襲いかかってきたキングゴブリンの胴体がスパッと斬れる。キングゴブリンは霧消する。

「見事な剣さばきだ……やはり運命の勇者だな……」

 剣を片手に呆然とするわたしをよそに、ジャッキーさんは深々と頷く。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

許婚と親友は両片思いだったので2人の仲を取り持つことにしました

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
<2人の仲を応援するので、どうか私を嫌わないでください> 私には子供のころから決められた許嫁がいた。ある日、久しぶりに再会した親友を紹介した私は次第に2人がお互いを好きになっていく様子に気が付いた。どちらも私にとっては大切な存在。2人から邪魔者と思われ、嫌われたくはないので、私は全力で許嫁と親友の仲を取り持つ事を心に決めた。すると彼の評判が悪くなっていき、それまで冷たかった彼の態度が軟化してきて話は意外な展開に・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

処理中です...