26 / 50
序章
第7話(1)江の島が見えてきた
しおりを挟む
漆
「……平凡太(たいらぼんた)少尉、よろしいかね?」
短い黒髪に白い制服を折り目正しく身に着けた凡太と呼ばれた青年が、イヤホンから流れる声に頷き、マイクで静かに答える。
「……了解しました」
「事はこの南関東州を左右するものだ」
「それも分かっております。しかし……」
「しかし?」
「この南関東州の戦力を高める為に、新型のパワードスーツ開発が極秘裏に進められているということは自分も聞いておりました」
「ふむ……」
「まあ、自分が知っている時点で、極秘裏ではないと思うのですが……」
「この情報化が進んだ社会で秘密を守りきるというのは簡単なことではない」
「それはそうですが、それにしても限度というものがあります」
「安心したまえ」
「え?」
「漏れている情報が全て正確というわけではない」
「ということは……」
「ああ、あえて偽の情報も織り交ぜて流しているのだよ」
イヤホン越しにどうだと言わんばかりの声が聞こえてくる。凡太は冷静に答える。
「……意図的にということですか」
「そういうことだ」
「えっと……」
「どうかしたかね?」
「偽の情報も織り交ぜてとおっしゃいましたね?」
「ああ」
「では本当の情報も流れてしまっているのでは?」
「ああ、それはそうだね……」
「それではあまり意味がないような……」
「……攪乱だよ、攪乱、情報戦の基本だ」
「はあ……」
「とにかく、繰り返しになるが君に課せられた任務は……」
「はい」
「新型パワードスーツを試験運用している者たちと速やかに合流することだ」
「了解」
「それでは健闘を祈る」
「お、お待ち下さい」
「なんだね?」
「場所は分かったのですが、もう少し具体的な情報が欲しいのですが……」
「そうだな、これから暗号を伝える」
「あ、暗号ですか?」
「ああ、この通信が傍受されている恐れもあるのでな」
「今更な気もしますが……それに暗号とはっきり言ってしまっては……」
「……とにかく伝えるぞ」
「は、はい……」
「『江の島を見つめろ』だ。分かったな」
「……はい」
「では改めて……健闘を祈る」
通信が切れる。凡太がイヤホンマイクを外し、ため息交じりで呟く。
「……わけのわからない状況だな……」
「~♪」
行き交う人々の楽し気な声が聞こえてくる。凡太が首を傾げる。
「この江の島で、本当に新型パワードスーツの運用が行われているのか?」
「~~♪」
「暗号は『江の島を見つめろ』だったな……」
凡太は海に浮かぶ江の島に目をやる。特に変化はない。なおも喧噪が聞こえてくる。
「~~~♪」
「……とりあえず橋を渡ってみるとするか」
「きゃあ!」
「⁉」
凡太が声のした方に振り返ると、二回りほど大きくなったトンビの群れが人々に襲い掛かろうとしていた。あるカップルが悲鳴を上げる。
「いやあ!」
「うわあ!」
「『怪異化』したトンビか! 厄介な!」
凡太が走り出す。その場にしゃがみ込んだカップルが互いの顔を見ながら呟く。
「や、やばくない?」
「江の島にいるトンビは人間の食べ物を狙うって聞いてたけど……」
「そんな呑気なことを言っている場合か!」
「え⁉」
カップルの前に立った凡太が拳銃を取り出し、トンビの群れに向けて発砲する。
「直ちにここから離れなさい!」
「は、はい!」
「ふん!」
「!」
カップルをはじめ、周囲の人々が避難したことを確認した凡太が再び拳銃を発砲する。しかし、トンビには当たらない。凡太が舌打ちする。
「ちっ!」
「平凡ね……」
「なっ⁉」
凡太が振り返ると、サイドテールの金髪碧眼でアーティスティックな服装の女性がそこに立っていた。
「名は体を表すとはよく言ったものね……」
女性がサイドテールを触りながら呟く。凡太が声をかける。
「き、君! 危ないから避難しなさい!」
「その言葉、そっくり返すわ」
「なんだと⁉」
女性が前に進み出ると、左手を空に掲げて叫ぶ。
「『島結』!」
「‼」
平が驚く。女性の頭と体を青色のパワードスーツが包み込んだからである。
「はっ!」
女性が手を鋭く振るうと、幾筋の光が飛び、それを喰らった怪異化したトンビの群れが次々と地面に落下していき、無力化する。凡太が驚きながら呟く。
「そ、そのカラーリングのパワードスーツは見たことがない……」
「新型ですからね」
「! そ、それに今の光は……」
「このパワードスーツは江の島の持つ力……神性を借りているの。それによるものね」
「神性? そ、そんなことが……」
「可能なのだから仕方がないわね」
女性はスーツを解除し、先ほどのアーティスティックな服装に戻る。
「き、君は……?」
女性は渋々ながら敬礼をする。
「扇(おうぎ)ジェニー准尉であります……命により、平少尉の指揮下に入ります」
「ええっ⁉」
凡太が驚く。
「……平凡太(たいらぼんた)少尉、よろしいかね?」
短い黒髪に白い制服を折り目正しく身に着けた凡太と呼ばれた青年が、イヤホンから流れる声に頷き、マイクで静かに答える。
「……了解しました」
「事はこの南関東州を左右するものだ」
「それも分かっております。しかし……」
「しかし?」
「この南関東州の戦力を高める為に、新型のパワードスーツ開発が極秘裏に進められているということは自分も聞いておりました」
「ふむ……」
「まあ、自分が知っている時点で、極秘裏ではないと思うのですが……」
「この情報化が進んだ社会で秘密を守りきるというのは簡単なことではない」
「それはそうですが、それにしても限度というものがあります」
「安心したまえ」
「え?」
「漏れている情報が全て正確というわけではない」
「ということは……」
「ああ、あえて偽の情報も織り交ぜて流しているのだよ」
イヤホン越しにどうだと言わんばかりの声が聞こえてくる。凡太は冷静に答える。
「……意図的にということですか」
「そういうことだ」
「えっと……」
「どうかしたかね?」
「偽の情報も織り交ぜてとおっしゃいましたね?」
「ああ」
「では本当の情報も流れてしまっているのでは?」
「ああ、それはそうだね……」
「それではあまり意味がないような……」
「……攪乱だよ、攪乱、情報戦の基本だ」
「はあ……」
「とにかく、繰り返しになるが君に課せられた任務は……」
「はい」
「新型パワードスーツを試験運用している者たちと速やかに合流することだ」
「了解」
「それでは健闘を祈る」
「お、お待ち下さい」
「なんだね?」
「場所は分かったのですが、もう少し具体的な情報が欲しいのですが……」
「そうだな、これから暗号を伝える」
「あ、暗号ですか?」
「ああ、この通信が傍受されている恐れもあるのでな」
「今更な気もしますが……それに暗号とはっきり言ってしまっては……」
「……とにかく伝えるぞ」
「は、はい……」
「『江の島を見つめろ』だ。分かったな」
「……はい」
「では改めて……健闘を祈る」
通信が切れる。凡太がイヤホンマイクを外し、ため息交じりで呟く。
「……わけのわからない状況だな……」
「~♪」
行き交う人々の楽し気な声が聞こえてくる。凡太が首を傾げる。
「この江の島で、本当に新型パワードスーツの運用が行われているのか?」
「~~♪」
「暗号は『江の島を見つめろ』だったな……」
凡太は海に浮かぶ江の島に目をやる。特に変化はない。なおも喧噪が聞こえてくる。
「~~~♪」
「……とりあえず橋を渡ってみるとするか」
「きゃあ!」
「⁉」
凡太が声のした方に振り返ると、二回りほど大きくなったトンビの群れが人々に襲い掛かろうとしていた。あるカップルが悲鳴を上げる。
「いやあ!」
「うわあ!」
「『怪異化』したトンビか! 厄介な!」
凡太が走り出す。その場にしゃがみ込んだカップルが互いの顔を見ながら呟く。
「や、やばくない?」
「江の島にいるトンビは人間の食べ物を狙うって聞いてたけど……」
「そんな呑気なことを言っている場合か!」
「え⁉」
カップルの前に立った凡太が拳銃を取り出し、トンビの群れに向けて発砲する。
「直ちにここから離れなさい!」
「は、はい!」
「ふん!」
「!」
カップルをはじめ、周囲の人々が避難したことを確認した凡太が再び拳銃を発砲する。しかし、トンビには当たらない。凡太が舌打ちする。
「ちっ!」
「平凡ね……」
「なっ⁉」
凡太が振り返ると、サイドテールの金髪碧眼でアーティスティックな服装の女性がそこに立っていた。
「名は体を表すとはよく言ったものね……」
女性がサイドテールを触りながら呟く。凡太が声をかける。
「き、君! 危ないから避難しなさい!」
「その言葉、そっくり返すわ」
「なんだと⁉」
女性が前に進み出ると、左手を空に掲げて叫ぶ。
「『島結』!」
「‼」
平が驚く。女性の頭と体を青色のパワードスーツが包み込んだからである。
「はっ!」
女性が手を鋭く振るうと、幾筋の光が飛び、それを喰らった怪異化したトンビの群れが次々と地面に落下していき、無力化する。凡太が驚きながら呟く。
「そ、そのカラーリングのパワードスーツは見たことがない……」
「新型ですからね」
「! そ、それに今の光は……」
「このパワードスーツは江の島の持つ力……神性を借りているの。それによるものね」
「神性? そ、そんなことが……」
「可能なのだから仕方がないわね」
女性はスーツを解除し、先ほどのアーティスティックな服装に戻る。
「き、君は……?」
女性は渋々ながら敬礼をする。
「扇(おうぎ)ジェニー准尉であります……命により、平少尉の指揮下に入ります」
「ええっ⁉」
凡太が驚く。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
【完結】あやかし団地 管理人見習い日誌
双月ねむる
キャラ文芸
就活全滅で「自分には社会性がない」と思い込む凛は、遠縁の親戚に紹介され、昭和レトロな巨大団地・さくらヶ丘第一団地の『管理人見習い』として住み込みで働くことに。しかしその団地には、中庭の「靴鳴らし」、エレベーター表示盤に棲む狐など、団地限定あやかし達が当たり前のように暮らしていた。
最初は逃げ腰の凛だったが、すねた空き部屋や、ベランダの風鈴が告げるSOSなど、人とあやかしのトラブルに巻き込まれながら、少しずつ『共同体』に関わる勇気を取り戻していく。
幽縁ノ季楼守
儚方ノ堂
キャラ文芸
「季楼庵当主の代理を務めてもらう」
幼少期、神隠しにあった過去を待つ青年ユメビシ。
迷い込んだ先で、事件に巻き込まれ両手を失い、生死を彷徨うことに。
ただ「死にたくない」と望んだ願いは、ある故人の手を移植することで実現した。
これを境に不死の体質へと変貌したユメビシは、約70年の時を経て、因縁の土地『瞑之島(みんのとう)』へ帰還する。
しかし、どうして今自分がここにいるのか、その理由となる記憶がすっぽり抜け落ちた状態で……。
奇妙な忘却に焦りを抱えながら、手がかりを求め探索するさなか、島の中枢を担う組織『季楼庵(きろうあん)』の面々と関わりを持ち、次々と巻き起こる騒動に身を投じていくのだった。
現代において、人と人ならざる者が共存する瞑之島を舞台に、半ば強制的に当主代理に据えられたユメビシの非日常。
異色の現代ファンタジー✖️和風奇譚✖️ミステリー
様々な思惑が交錯する中、彼の帰還を以て、物語は一つの結末へ動き出す。
その約束は、何十年何百年経ち、たとえ本人達が覚えていなくとも。
幽かな縁で繋がり続け、決して解けない糸となる。
それを人は、因縁――またの名を『呪い』と呼ぶのだった。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる