【第一章完】四国?五国で良いんじゃね?

阿弥陀乃トンマージ

文字の大きさ
35 / 50
第一章

第9話(2)反攻開始

しおりを挟む
「どうぞ」

「ここはこの辺でもひときわ大きな集落……ここまで領土を広げているとは……」

 タイヘイに促されて建物の中に入りながらカンナが呟く。

「協力をしたいという連中は意外と多くてな……」

「いつの間に……なかなか侮れませんわね……」

「この場合は案外頼りになると言って欲しいね……」

 タイヘイが肩をすくめる。カンナが笑う。

「ふっ……」

「この部屋だ」

 タイヘイが指し示した部屋にカンナが入る。

「姫様! よくぞご無事で!」

「カンナ……」

「……なによりでございます」

「シモツキ、ヤヨイ、キサラギ! あなた方もよくぞ無事で……」

 カンナが三将を労う。

「兵たちがここまで運んでくれましたので」

「それにしても傷は?」

「数日寝たらなんてことはありません」

「こんなものは唾を付けておけば治ります」

「そんな……」

 シモツキとヤヨイの返答にカンナが苦笑する。

「……この集落の者たちの献身的な介護もあって、ある程度回復しました」

「そう……」

 キサラギの言葉にカンナが頷く。

「悪いが積もる話は後だ、とりあえず座ってくれ」

「ええ」

 タイヘイに促され、カンナは上座にタイヘイと並んで座る。三将とモリコ、パイスー、クトラが顔を合わせる形で座っている。

「それじゃあ、モリコ、説明を頼む」

「はい……斥候からの情報によると、愛の国で勃発したクーデターは成功。クーデター側は国の大半を手中に納めた模様です」

「むう……」

 カンナの顔が曇る。シモツキが尋ねる。

「クーデターの首謀者は?」

「……首謀者と言って良いのかは分かりませんが、現在、国家元首の座にカンナ姫の遠縁に当たるケンガイ殿を擁立したという情報があります……」

「ケンガイ殿だと!」

 シモツキが驚く。

「これはまた……」

「ああ、傀儡ですよと言わんばかりだ」

 ヤヨイの目配せにキサラギが頷く。クトラが口を開く。

「ということはやはり裏で糸を引いている奴がいるということだね?」

「ああ」

 ヤヨイが頷く。

「それについての心当たりは?」

「うむ……それが……さっぱり分からない」

 ヤヨイが腕を組んで首を傾げる。パイスーが呆れる。

「おいおい、分からないって……」

「こう言ってはなんだが王族の方々にここまでやる度胸はないはずだ……」

「文官連中にも似たようなことが言えるな」

 ヤヨイの呟きにシモツキが反応する。キサラギが補足する。

「有力な武官は軒並み、南の『亜人連合』との小競り合いに駆り出されている……」

「ああ、各地に散らばっている……」

 シモツキが頷く。カンナが口を開く。

「サツキ、ナガツキ、ハヅキたちが気になりますね……」

「ええ、あの傭兵連中はカンナ姫の直属と言ってもいい部隊です――曖昧なところもありますが――それらを動かすとは……」

 ヤヨイが首を傾げる。

「……まあ、難しいことは良いんじゃねえか?」

「適当なことを言ってもらっては困るな」

 シモツキがタイヘイを睨む。

「モリコ……」

 タイヘイが再びモリコを促す。

「はい、先ほど、国の大半をクーデター側が掌握したと言いましたが、実は都周辺ではそうではありません」

「む?」

「近郊も含めて都ではまだ混乱が続いているということです」

「ほう……」

 シモツキが腕を組む。タイヘイが頷きながら呟く。

「ってな感じだ……」

「……早急に動けば、都を奪還することは可能だと?」

「つまりはそういうこった」

 カンナの問いにタイヘイが頷く。

「スピード勝負ですか……」

「ああ、早ければ早い方が良い」

「ということは迂回ルートを通っている時間はありませんね……」

 カンナは目の前に広げられた地図を指でなぞる。パイスーが両手を広げる。

「周りには網を張っている恐れがあるぜ」

「それならばなるべく直進でいくしかありませんね……」

「逆に相手の虚を突けるんじゃないかな?」

 クトラがカンナの言葉に頷く。カンナが腕を組む。

「……問題はやはり、サツキ、ナガツキ、ハヅキですね……彼女らは手ごわい……」

「それはこちらが引き付ける」

「え?」

 タイヘイの言葉にカンナが驚く。

「同盟だって言っただろう? 援護するのは当然だ」

「そう言って、我が国の混乱につけ込むつもりではあるまいな?」

「それならば適当に放っておいた方が得じゃねえか?」

「む……」

 タイヘイの問いにシモツキは黙る。

「誤解があるようだが、俺らは自分たちの国を認めてもらいたいのが一番なんだ」

「……極力争いは避けたいと?」

「ああ、言っちゃ悪いが、特にこういう無駄な争いはな」

 カンナの問いにタイヘイは頷く。カンナが呟く。

「それでも手を貸してくれると……」

「どうせ話し合いをするなら、よく知っている相手の方が良いしな。その話し合いが上手くいくかどうかは別としてだが」

「ふっ……」

 カンナが笑みを浮かべる。タイヘイが問う。

「どうだい?」

「……援護をお願いします。わたくしたちは出来る限り一直線に都を目指します。わたくしがもっとも信頼出来る方も無事なはずですし……」

「よし、決まりだな」

 タイヘイが笑顔を見せる。明くる朝、集落を見渡せる丘の上にカンナが再び登る。

「クーデターなどと愚かな行動を取った連中を打倒し、わたくしたちは都を、国全体の平穏を取り戻します……志ある者はわたくしについてきなさい!」

「うおおおっ‼」

 馬に跨り、薙刀を高々と掲げたカンナに兵たちが力強く応える。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

処理中です...