【第1章完】スキル【編集】を駆使して異世界の方々に小説家になってもらおう!

阿弥陀乃トンマージ

文字の大きさ
7 / 50
第1集

第2話(2)ボールをすくい取る

しおりを挟む
「へ~これが編集部っすか~」

「ちょっと確認をさせていただきます……」

「あ、はい」

「お名前は?」

「アンジェラっす!」

「お住まいは?」

「西の村っす!」

「ご種族は?」

「狼の獣人っす!」

「……はい、確認が取れました……」

「あの~編集さん?」

「はい」

「なんでそんなに離れているっすか?」

 私が部屋の端の方に隠れるように座っていることにアンジェラさんは困惑気味だった。

「えっと……」

「お話がしづらいというか……」

 それもそうだ、大体失礼にあたる。私はおそるおそるアンジェラさんの座る席に近づく。

「実は……」

「実は?」

「かくかくしかじかで……」

 私は先日の恐怖体験について話す。アンジェラさんは笑う。

「あ~それでっすか、それはまた大変だったすね……」

「す、すみません……狼さんの耳を見てしまうと、体がつい反応してしまって……」

「まあ、それも無理ないっすね。でも、あの狼も結構かわいいところあるんすけどね」

「そ、そうですか?」

「そうっす。よく分かっていないだけっすよ」

「は、はあ……落ち着きました。あ、申し遅れました、私はこういう者です」

 席に着く前に私は名刺をアンジェラさんに渡す。

「モリ=ペガサスさんっすか……」

「ええ、モリとお呼び下さい」

「……モリさんはニッポンからの転移者ってのはマジっすか?」

「え、ええ、そうです」

 隠してもしょうがないことだと思い、私は素直に頷く。

「すっげえー! オレ、転移者の方、初めて見たっすよ!」

 アンジェラさんは目を輝かせてこちらを見てくる。

「そ、そうですか……でも、何故私が転移者だということをご存知なのですか?」

「いや、もう結構な噂になっていますよ、カクヤマ書房さんにそういう編集さんがいるって。オレの村にも聞こえています」

「そ、そうなんですか……で、あれば……ごほん」

 私は咳払いをひとつ入れる。アンジェラさんが首を傾げる。

「ん?」

「ここがカクカワ書店ではなく、カクヤマ書房だということはご存知なのですね?」

「ええ、それはもちろんっす!」

 後で知らなかったと言われても困るので、このことはきちんと確認しておこう。

「では、アンジェラさんは我が社のレーベルから小説を出版することになっても構わないということですね?」

「はい! 間違って原稿を送っちゃったのはこっちのミスっすから! それで声がかかるのも一つの縁かなと思って!」

「ふむ、そうですか……」

「そうっす!」

 前向きなのはこちらとしても非常に助かる。私はアンジェラさんの送ってきた原稿を取り出して、机の上に置く。

「それでは早速ですが、打ち合わせを始めましょう」

「はいっす!」

「原稿の方を拝見させていただきました……これは……いわゆる『スポーツ』ものですね」

「はい! 『スコープ・ザ・ボール』を題材にしてみたっす!」

 スコープ・ザ・ボールとは、こちらの世界で流行っている球技で、赤青2チームに別れた選手たちが、フィールドに設置された四つのかごの中に入った相手チームのボールをすくい取り、制限時間内にどれだけ多くの相手チームのボールをすくえるかを競う競技である。相手に対しての妨害は目つぶし、急所への攻撃を除けば、基本なんでもありである。

「スコープ・ザ・ボールはたいへんな人気競技ではありますが、あまり小説の題材にはなっていませんね……」

「そうっすよね! 狙い目だと思ったっす!」

「確かに目の付け所は悪くないと思います……しかも」

「はい」

「そこに一捻りを加えておられますね」

「ええ、主人公は転生した先の異世界のニッポンで『スコープ・ザ・ボール』を行うという展開なんすよ!」

「うむ……」

 私は軽く額を抑える。

「どうっすか! この展開⁉」

「……」

「衝撃的だと思うんすけど⁉」

「……確かにインパクトはあります」

「そうでしょう⁉」

「ただ……」

「ただ?」

「展開に無理があります」

「え?」

「私はニッポンからの転移者です。転移の際のショックで記憶がおぼろげなのですが……ニッポンをはじめ、あの世界の方々にスコープ・ザ・ボールは受け入れにくいと思います」

「ど、どうしてっすか⁉」

「……逆なんです」

「逆?」

 アンジェラさんが首を傾げる。私は説明する。

「向こうではボールをかごに入れる競技が流行っています」

「かごに……入れる⁉」

「ええ、ボールを蹴ったり、投げたり……」

「はあ……」

「棒と棒の間に通したり……」

「へえ……」

「ボールを棒で打って、客席に入れるというのもありましたね……」

「それ……なにが面白いんすか⁉」

「そこなんですよ!」

 私はアンジェラさんを指差す。

「えっ⁉」

「価値観などがまるっきり違う相手……異世界の方々がスコープ・ザ・ボールをすんなりと受け入れるとはどうしても考えにくいのです」

「な、なるほど……」

 アンジェラさんは頷く。私は原稿を眺めながら呟く。

「無理に異世界などへ行かず、この世界でスコープ・ザ・ボールを行う小説の方が無難かと思いますが……それだとインパクトに欠けますね。もちろん、インパクトが全てだとまでは言いませんが……」

「う~ん……」

 アンジェラさんが腕を組んで考え込む。

「キャラクターなどは生き生きとしていますが……」

「……それなら、これはどうっすか⁉」

 アンジェラさんが頭をガバっと上げる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

天城の夢幻ダンジョン攻略と無限の神空間で超絶レベリング ~ガチャスキルに目覚めた俺は無職だけどダンジョンを攻略してトップの探索士を目指す~

仮実谷 望
ファンタジー
無職になってしまった摩廻天重郎はある日ガチャを引くスキルを得る。ガチャで得た鍛錬の神鍵で無限の神空間にたどり着く。そこで色々な異世界の住人との出会いもある。神空間で色んなユニットを配置できるようになり自分自身だけレベリングが可能になりどんどんレベルが上がっていく。可愛いヒロイン多数登場予定です。ガチャから出てくるユニットも可愛くて強いキャラが出てくる中、300年の時を生きる謎の少女が暗躍していた。ダンジョンが一般に知られるようになり動き出す政府の動向を観察しつつ我先へとダンジョンに入りたいと願う一般人たちを跳ね除けて天重郎はトップの探索士を目指して生きていく。次々と美少女の探索士が天重郎のところに集まってくる。天重郎は最強の探索士を目指していく。他の雑草のような奴らを跳ね除けて天重郎は最強への道を歩み続ける。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした

夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ちだったユキナガは、戦闘に役立たない【地図化】スキルを理由に「無能」と罵られ、追放された。 しかし、孤独の中で己のスキルと向き合った彼は、その真価に覚醒する。彼の脳内に広がるのは、モンスター、トラップ、隠し通路に至るまで、ダンジョンの全てを完璧に映し出す三次元マップだった。これは最強の『攻略神』の眼だ――。 彼はその圧倒的な情報力を武器に、同じく不遇なスキルを持つ仲間たちの才能を見出し、不可能と言われたダンジョンを次々と制覇していく。知略と分析で全てを先読みし、完璧な指示で仲間を導く『指揮官』の成り上がり譚。 一方、彼を失った勇者パーティは迷走を始める……。爽快なダンジョン攻略とカタルシス溢れる英雄譚が、今、始まる!

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)

荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」 俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」 ハーデス 「では……」 俺 「だが断る!」 ハーデス 「むっ、今何と?」 俺 「断ると言ったんだ」 ハーデス 「なぜだ?」 俺 「……俺のレベルだ」 ハーデス 「……は?」 俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」 ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」 俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」 ハーデス 「……正気……なのか?」 俺 「もちろん」 異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。 たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!

処理中です...