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第一章
第9話(1) 御所の北面にて
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9
「報告書を提出してきました……」
「ご苦労さん」
平成は自分のデスクに戻ってきた令和に声をかける。
「先日のご挨拶は平和に終わって良かったですね」
「牛車が突如として暴走でもするかと思ったけどな」
平成が笑う。
「平城京で鹿が暴れて、平安京では牛が暴れたら……もはや笑い事ではないですよ」
「冗談だよ」
「冗談では済ませられることではありません……」
令和が冷たい視線を向ける。平成は話題を変える。
「そ、そういや、平安さんたちから何かもらってなかったか?」
「平安さんからはこの『檜扇(ひおうぎ)』という木製の扇を……」
「へえ、結構立派な……木の板を折り畳んだものか」
「ここから紙を用いた扇子に発展するのでしょうね」
「国風さんからはなにをもらったんだい?」
「平成さんに渡してくれと」
「俺に?」
「ええ」
「な、なんだよ……奥ゆかしいな国風さんも……あの場でばっと渡してもらえればそれで良いのに……」
平成は若干戸惑いながらも満更でもない表情を浮かべる。令和が取り出す。
「……こちらです」
「『国風文化 恋文 書き方』って検索しなくちゃいけないな……あんまり返事が遅くなるとマズいんだよな?」
平成は片手で情報端末を忙しく操作し、もう片方の手ではヘアースタイルのチェックに余念がない。令和はため息をつく。
「……平成さんにはこちらです」
令和が箱を空けると、そこには白い球体が入っている。平成が尋ねる。
「……なんだいこれは?」
「『蹴鞠(けまり)』で用いる鞠ですね。平成さんはスポーツ……特に4年に1度、サッカーが全世界で盛り上がっているということを強調してお話されていたではないですか。ならばと……」
「『鞠はトモダチ、怖くないよ!』ってか……いや、それにしてもだな……」
平成は肩を落とす。令和が首を傾げる。
「そんなにマズかったでしょうか?」
「うーん……マズいってわけでもないが……」
「どちらも『ギザ10』複数枚で購入することが出来たのです」
「ええっ⁉ マジか?」
「マジです。お二方とも10円玉のデザインを大層気に入っておられたので……」
平成の問いに令和は冷静に答える。
「そう考えると、安い買い物かもしれないな……令和ちゃんやるな~」
「お褒めに預かり光栄です。それで……」
少し胸を張った令和だが、気持ちを取り直し、平成に問う。
「課長にも確認させて頂きましたが、そろそろ次のステップに移行する頃合いだろうとのお話だったのですが……」
「え?」
「え? じゃないですよ、誤魔化さないで下さいよ」
平成は頭を掻いて小声で呟く。
「ちっ、課長め、『スケジュールは一任する』とか言ってなかったか?」
「平成さん!」
令和は目をキラキラとさせて平成を見つめる。
「……まあ、先方への挨拶を兼ねても進められねえことはねえか……」
「平成さん?」
令和が首を傾げる。
「……動き易い恰好に着替えてきた方が良いぜ」
「? それはどういう意味ですか?」
「言葉通りだよ、良いから着替えてきな」
「は、はい……」
令和は服装を着替えてくる。
「……」
「お、お待たせしました」
令和が薄い紅梅色のジャージと白いスニーカーに身を包んで現れる。
「来たか……」
「へ、平成さん、着替えていないじゃないですか」
「靴はスニーカーにしたさ」
平成は片足を上げて令和に見せる。
「そ、それにしても……」
「まあ、いいからいいから、そろそろ行くぞ」
「は、はい……」
平成が部屋を出ると、令和は首を傾げながらその後に続く。
「着いたぞ」
「こ、ここは?」
「院の御所だ。平安時代は後期に入ると藤原氏主導の摂関政治から『院政(いんせい)』へと移り変わる」
「院政……まだ幼年の天皇を先代の天皇である『上皇』あるいは『院』として政治的に補佐するという仕組みですね」
令和が呟きながら頷く。
「そう、『後三条天皇』がその基礎を築き、その子『白河天皇』が1086年から院政を開始する」
「11世紀末ですね」
「白河上皇は平安京の南の鳥羽の地に『院庁(いんのちょう)』を置き、院の政務機関として、近親者や下級貴族を積極的に登用した」
「『院近臣(いんのきんしん)』ですね」
「また平安京内の、自身の御所の警護に『北面(ほくめん)の武士(ぶし)』を設け、『武士』を起用する」
「武士……」
「8世紀半ばの墾田永年私財法により、中央貴族や大寺社または地方の有力豪族が積極的な土地の開墾を進め、それぞれが大規模な土地の私有を始める……『荘園(しょうえん)』の成立だ」
「荘園……」
「荘園というものの管理体制も時代を経るごとに変質する。11世紀に入ると、地方の土地開発層が租税免除を主目的として、中央の有力者に土地を寄進する動きが出てくる」
「『寄進地系荘園』ですね。そして収入の見返りに、領主としてその土地の管理を正式に任されることになる」
「そうだ、領主たちは紛争にも対応出来るように武装化を進め、各地で『武士団』が形成されるようになる。武士の成立だ。もちろんそれが全てではないが、流れの一つだな」
「……平成さん、熱でもあります? 珍しく真面目ですけど……」
「平熱だ……真面目に語っちゃ悪いかよ」
「……院は寄進地系荘園を経済力の基盤とし、武士の登用で軍事力も確保したと……ん?」
「『頼』だ!」
「いいや、『盛』だな……」
「頼られるんだぞ⁉ 文字通りこんなに頼もしいことはない!」
「盛るんだぞ? こんなに盛り上がることはない……」
「あの方たちは……?」
令和が視線を向けた先には二人の若い男性がよく分からない言い争いをしている。
「報告書を提出してきました……」
「ご苦労さん」
平成は自分のデスクに戻ってきた令和に声をかける。
「先日のご挨拶は平和に終わって良かったですね」
「牛車が突如として暴走でもするかと思ったけどな」
平成が笑う。
「平城京で鹿が暴れて、平安京では牛が暴れたら……もはや笑い事ではないですよ」
「冗談だよ」
「冗談では済ませられることではありません……」
令和が冷たい視線を向ける。平成は話題を変える。
「そ、そういや、平安さんたちから何かもらってなかったか?」
「平安さんからはこの『檜扇(ひおうぎ)』という木製の扇を……」
「へえ、結構立派な……木の板を折り畳んだものか」
「ここから紙を用いた扇子に発展するのでしょうね」
「国風さんからはなにをもらったんだい?」
「平成さんに渡してくれと」
「俺に?」
「ええ」
「な、なんだよ……奥ゆかしいな国風さんも……あの場でばっと渡してもらえればそれで良いのに……」
平成は若干戸惑いながらも満更でもない表情を浮かべる。令和が取り出す。
「……こちらです」
「『国風文化 恋文 書き方』って検索しなくちゃいけないな……あんまり返事が遅くなるとマズいんだよな?」
平成は片手で情報端末を忙しく操作し、もう片方の手ではヘアースタイルのチェックに余念がない。令和はため息をつく。
「……平成さんにはこちらです」
令和が箱を空けると、そこには白い球体が入っている。平成が尋ねる。
「……なんだいこれは?」
「『蹴鞠(けまり)』で用いる鞠ですね。平成さんはスポーツ……特に4年に1度、サッカーが全世界で盛り上がっているということを強調してお話されていたではないですか。ならばと……」
「『鞠はトモダチ、怖くないよ!』ってか……いや、それにしてもだな……」
平成は肩を落とす。令和が首を傾げる。
「そんなにマズかったでしょうか?」
「うーん……マズいってわけでもないが……」
「どちらも『ギザ10』複数枚で購入することが出来たのです」
「ええっ⁉ マジか?」
「マジです。お二方とも10円玉のデザインを大層気に入っておられたので……」
平成の問いに令和は冷静に答える。
「そう考えると、安い買い物かもしれないな……令和ちゃんやるな~」
「お褒めに預かり光栄です。それで……」
少し胸を張った令和だが、気持ちを取り直し、平成に問う。
「課長にも確認させて頂きましたが、そろそろ次のステップに移行する頃合いだろうとのお話だったのですが……」
「え?」
「え? じゃないですよ、誤魔化さないで下さいよ」
平成は頭を掻いて小声で呟く。
「ちっ、課長め、『スケジュールは一任する』とか言ってなかったか?」
「平成さん!」
令和は目をキラキラとさせて平成を見つめる。
「……まあ、先方への挨拶を兼ねても進められねえことはねえか……」
「平成さん?」
令和が首を傾げる。
「……動き易い恰好に着替えてきた方が良いぜ」
「? それはどういう意味ですか?」
「言葉通りだよ、良いから着替えてきな」
「は、はい……」
令和は服装を着替えてくる。
「……」
「お、お待たせしました」
令和が薄い紅梅色のジャージと白いスニーカーに身を包んで現れる。
「来たか……」
「へ、平成さん、着替えていないじゃないですか」
「靴はスニーカーにしたさ」
平成は片足を上げて令和に見せる。
「そ、それにしても……」
「まあ、いいからいいから、そろそろ行くぞ」
「は、はい……」
平成が部屋を出ると、令和は首を傾げながらその後に続く。
「着いたぞ」
「こ、ここは?」
「院の御所だ。平安時代は後期に入ると藤原氏主導の摂関政治から『院政(いんせい)』へと移り変わる」
「院政……まだ幼年の天皇を先代の天皇である『上皇』あるいは『院』として政治的に補佐するという仕組みですね」
令和が呟きながら頷く。
「そう、『後三条天皇』がその基礎を築き、その子『白河天皇』が1086年から院政を開始する」
「11世紀末ですね」
「白河上皇は平安京の南の鳥羽の地に『院庁(いんのちょう)』を置き、院の政務機関として、近親者や下級貴族を積極的に登用した」
「『院近臣(いんのきんしん)』ですね」
「また平安京内の、自身の御所の警護に『北面(ほくめん)の武士(ぶし)』を設け、『武士』を起用する」
「武士……」
「8世紀半ばの墾田永年私財法により、中央貴族や大寺社または地方の有力豪族が積極的な土地の開墾を進め、それぞれが大規模な土地の私有を始める……『荘園(しょうえん)』の成立だ」
「荘園……」
「荘園というものの管理体制も時代を経るごとに変質する。11世紀に入ると、地方の土地開発層が租税免除を主目的として、中央の有力者に土地を寄進する動きが出てくる」
「『寄進地系荘園』ですね。そして収入の見返りに、領主としてその土地の管理を正式に任されることになる」
「そうだ、領主たちは紛争にも対応出来るように武装化を進め、各地で『武士団』が形成されるようになる。武士の成立だ。もちろんそれが全てではないが、流れの一つだな」
「……平成さん、熱でもあります? 珍しく真面目ですけど……」
「平熱だ……真面目に語っちゃ悪いかよ」
「……院は寄進地系荘園を経済力の基盤とし、武士の登用で軍事力も確保したと……ん?」
「『頼』だ!」
「いいや、『盛』だな……」
「頼られるんだぞ⁉ 文字通りこんなに頼もしいことはない!」
「盛るんだぞ? こんなに盛り上がることはない……」
「あの方たちは……?」
令和が視線を向けた先には二人の若い男性がよく分からない言い争いをしている。
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