12 / 51
第1回公演
第3惑星(3)マザーミイ
しおりを挟む
「もう、それを言うならせめてリトルマザーとかでしょう……誰に教わったの?」
ケイちゃんが苦笑気味に尋ねる。
「マザーに!」
「まったく……」
子供たちの元気の良い答えにケイちゃんが呆れる。
「お久しぶりね、ケイ」
建物から黒い修道服を着た女性が出てくる。両手を小さい子たちにグイグイと引っ張られている。俺はその顔を見て驚く。ケイちゃんによく似ているからだ。
「久しぶりね、マザー」
「貴女からそう呼ばれるとなんだか照れちゃうわ。今日はどうしたの?」
「近くに来たから寄っただけよ……お願い」
促された俺は車から大量の荷物を建物に運び込む。マザーと呼ばれた女性は驚く。
「まあ、これは……」
「皆、良い子にしてた? お姉さんからプレゼントよ」
「わあ……!」
「新品のサッカーボールだ!」
「かわいいぬいぐるみ!」
子供たちが歓声を上げる。妙な買い物が多いなと思ったらそういうことだったのかと、今更俺は納得する。マザーが喜ぶ子供たちを見ながら目を細め、ケイちゃんに礼を言う。
「ありがとう、ケイ」
「こういうことくらいしか、私には出来ないから……」
ケイちゃんは前髪をかき上げる。マザーと俺の目が合う。
「それでこちらは? ケイの良い人?」
「ぶっ! な、なんでそうなるのよ!」
「だって誰か連れてくるなんて珍しいじゃない? アユミちゃんとコウちゃん以外で」
「マネージャーよ、荷物持ちを頼んだの」
「ああ、マネージャーさんでしたか。妹がいつも世話になっております」
「い、いえ、こちらこそ……」
マザーが恭しく頭を下げてきたため、俺もつられて頭を下げる。ん? 妹?
「そうよ、ミイ=ハイジャ、私の姉」
視線を向けてきた俺にケイちゃんが答える。
「お姉さん?」
「そう、ここで孤児院を営んでいるの」
「周囲の方々に助けられてばかりですが……」
「はあ……ひょっとして、ハイジャさん……」
「そうよ、私たち姉妹もここの孤児院出身」
「す、すみません……」
無神経なことを聞いてしまったと思った俺は謝る。ケイちゃんがため息をつく。
「別にいいわよ……」
「この金星が故郷ということなんですね?」
「いいえ、生まれは木星よ」
「え?」
「……木星の第2衛星、『エウロパ』……地球の2倍の水を持つこの星から氷を切り出して、金星に運び、水不足を解決する……数百年がかりで行われているこのテラフォーミング計画の一端に、私たちの両親も携わっていた……だけど……」
「私たちがまだ幼い頃に作業中の不慮の事故で両親は命を落としたのです……」
「す、すみません!」
俺は頭をこれでもかと下げる。ケイちゃんが呆れる。
「だから別に謝らなくていいから……」
「身寄りのなくなった私たちを、この孤児院の前経営者であるグランドマザーが引き取って下さったのです」
「そうだったんですか……」
「貴方が暗い顔になる必要はないでしょう」
ケイちゃんが俯き加減の俺に突っ込んでくる。いや、ここで明るい表情だったら、サイコパスじゃん? ミイさんが両手を合わせる。
「大したおもてなしも出来ませんが、お茶でもどうですか。えっと……」
「ああ、タスマ=ドラキンです」
俺は自分の名前を名乗る。
「タスマさん、金星のお菓子なんかいかがです?」
「悪いけど、時間が無いの。今日はこれでお暇するわ」
「あら、残念ね……」
「そりゃあ、俺たちも残念だな~」
「!」
俺たちが視線を向けると、孤児院の玄関にナスビに手足が生えた異星人が3人立っていた。ミイさんが若干顔をしかめながらナスビに尋ねる。
「期日はまだのはずですが……?」
「気が変わったんだよ」
「そんな……」
「見張りから連絡があってな、あの有名なケイ=ハイジャちゃんが来ているっていうじゃないか、俺たちアンタの大ファンなんだよ」
「それはどうも……」
ケイちゃんが会釈する。
「つうわけで、今回の分、耳揃って払ってもらおうかね」
「い、いや、そんな、無茶苦茶です!」
「無茶苦茶な借金をした先代のババアを恨めよ」
「くっ……」
「どうした? 払えねえのか?」
「まだお金は用意出来ていません……」
「マジかよ、それならガキを何人か連れていくか?」
ナスビの1人が子供の腕を掴む。ミイさんが叫ぶ。
「や、やめて!」
「じゃあ、どうする? マザーがなんとかしてくれるか? むしろそっちの方が俺たちも良いんだぜ?」
ナスビがいやらしい視線をミイさんに向ける。ミイさんが唇を噛む。
「くっ……し、仕方がありま……」
「ちょっと待って」
「ケイ?」
「見たことのない顔だけど……貴方たち誰?」
「あ? 俺たちは『ナスビファミリー』だ。知らないか?」
「話だけならなんとなくは」
「ほう、それは光栄だね」
「この孤児院が貴方たちに借金をした認識は無いのだけど」
「別の連中から債権を引き継いだ、それだけのことだ」
「その別の連中は?」
「ガキに聞かせても良いんなら、事細かに話すぜ?」
ナスビは子供たちを見回す。ケイちゃんが手を上げて制す。
「それは結構……借金の件、私が聞くわ」
「ケイ!」
「心配しないで。マザーは子供たちを見ていてちょうだい」
「ほう……話を聞いてくれるのかい?」
「ええ……場所を変えましょう」
ケイちゃんは俺に目配せする。俺も立ち上がり、孤児院の外に出る。ケイちゃんの運転で、孤児院から離れたところで車を降りる。後をついてきたナスビが不思議そうに尋ねる。
「なんだい、金の受け渡しなら、あそこの近くでもいいだろう?」
「生憎、持ち合わせがないの……体で払うわ」
「へえ、それはそれは……⁉」
ケイちゃんがナスビの足元に発砲して叫ぶ。
「……もとい、貴方たちの賞金でね!」
ケイちゃんが苦笑気味に尋ねる。
「マザーに!」
「まったく……」
子供たちの元気の良い答えにケイちゃんが呆れる。
「お久しぶりね、ケイ」
建物から黒い修道服を着た女性が出てくる。両手を小さい子たちにグイグイと引っ張られている。俺はその顔を見て驚く。ケイちゃんによく似ているからだ。
「久しぶりね、マザー」
「貴女からそう呼ばれるとなんだか照れちゃうわ。今日はどうしたの?」
「近くに来たから寄っただけよ……お願い」
促された俺は車から大量の荷物を建物に運び込む。マザーと呼ばれた女性は驚く。
「まあ、これは……」
「皆、良い子にしてた? お姉さんからプレゼントよ」
「わあ……!」
「新品のサッカーボールだ!」
「かわいいぬいぐるみ!」
子供たちが歓声を上げる。妙な買い物が多いなと思ったらそういうことだったのかと、今更俺は納得する。マザーが喜ぶ子供たちを見ながら目を細め、ケイちゃんに礼を言う。
「ありがとう、ケイ」
「こういうことくらいしか、私には出来ないから……」
ケイちゃんは前髪をかき上げる。マザーと俺の目が合う。
「それでこちらは? ケイの良い人?」
「ぶっ! な、なんでそうなるのよ!」
「だって誰か連れてくるなんて珍しいじゃない? アユミちゃんとコウちゃん以外で」
「マネージャーよ、荷物持ちを頼んだの」
「ああ、マネージャーさんでしたか。妹がいつも世話になっております」
「い、いえ、こちらこそ……」
マザーが恭しく頭を下げてきたため、俺もつられて頭を下げる。ん? 妹?
「そうよ、ミイ=ハイジャ、私の姉」
視線を向けてきた俺にケイちゃんが答える。
「お姉さん?」
「そう、ここで孤児院を営んでいるの」
「周囲の方々に助けられてばかりですが……」
「はあ……ひょっとして、ハイジャさん……」
「そうよ、私たち姉妹もここの孤児院出身」
「す、すみません……」
無神経なことを聞いてしまったと思った俺は謝る。ケイちゃんがため息をつく。
「別にいいわよ……」
「この金星が故郷ということなんですね?」
「いいえ、生まれは木星よ」
「え?」
「……木星の第2衛星、『エウロパ』……地球の2倍の水を持つこの星から氷を切り出して、金星に運び、水不足を解決する……数百年がかりで行われているこのテラフォーミング計画の一端に、私たちの両親も携わっていた……だけど……」
「私たちがまだ幼い頃に作業中の不慮の事故で両親は命を落としたのです……」
「す、すみません!」
俺は頭をこれでもかと下げる。ケイちゃんが呆れる。
「だから別に謝らなくていいから……」
「身寄りのなくなった私たちを、この孤児院の前経営者であるグランドマザーが引き取って下さったのです」
「そうだったんですか……」
「貴方が暗い顔になる必要はないでしょう」
ケイちゃんが俯き加減の俺に突っ込んでくる。いや、ここで明るい表情だったら、サイコパスじゃん? ミイさんが両手を合わせる。
「大したおもてなしも出来ませんが、お茶でもどうですか。えっと……」
「ああ、タスマ=ドラキンです」
俺は自分の名前を名乗る。
「タスマさん、金星のお菓子なんかいかがです?」
「悪いけど、時間が無いの。今日はこれでお暇するわ」
「あら、残念ね……」
「そりゃあ、俺たちも残念だな~」
「!」
俺たちが視線を向けると、孤児院の玄関にナスビに手足が生えた異星人が3人立っていた。ミイさんが若干顔をしかめながらナスビに尋ねる。
「期日はまだのはずですが……?」
「気が変わったんだよ」
「そんな……」
「見張りから連絡があってな、あの有名なケイ=ハイジャちゃんが来ているっていうじゃないか、俺たちアンタの大ファンなんだよ」
「それはどうも……」
ケイちゃんが会釈する。
「つうわけで、今回の分、耳揃って払ってもらおうかね」
「い、いや、そんな、無茶苦茶です!」
「無茶苦茶な借金をした先代のババアを恨めよ」
「くっ……」
「どうした? 払えねえのか?」
「まだお金は用意出来ていません……」
「マジかよ、それならガキを何人か連れていくか?」
ナスビの1人が子供の腕を掴む。ミイさんが叫ぶ。
「や、やめて!」
「じゃあ、どうする? マザーがなんとかしてくれるか? むしろそっちの方が俺たちも良いんだぜ?」
ナスビがいやらしい視線をミイさんに向ける。ミイさんが唇を噛む。
「くっ……し、仕方がありま……」
「ちょっと待って」
「ケイ?」
「見たことのない顔だけど……貴方たち誰?」
「あ? 俺たちは『ナスビファミリー』だ。知らないか?」
「話だけならなんとなくは」
「ほう、それは光栄だね」
「この孤児院が貴方たちに借金をした認識は無いのだけど」
「別の連中から債権を引き継いだ、それだけのことだ」
「その別の連中は?」
「ガキに聞かせても良いんなら、事細かに話すぜ?」
ナスビは子供たちを見回す。ケイちゃんが手を上げて制す。
「それは結構……借金の件、私が聞くわ」
「ケイ!」
「心配しないで。マザーは子供たちを見ていてちょうだい」
「ほう……話を聞いてくれるのかい?」
「ええ……場所を変えましょう」
ケイちゃんは俺に目配せする。俺も立ち上がり、孤児院の外に出る。ケイちゃんの運転で、孤児院から離れたところで車を降りる。後をついてきたナスビが不思議そうに尋ねる。
「なんだい、金の受け渡しなら、あそこの近くでもいいだろう?」
「生憎、持ち合わせがないの……体で払うわ」
「へえ、それはそれは……⁉」
ケイちゃんがナスビの足元に発砲して叫ぶ。
「……もとい、貴方たちの賞金でね!」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
『イージス艦長、インパール最前線へ。――牟田口廉也に転生した俺は、地獄の餓死作戦を「鉄壁の兵站要塞」に変える』
月神世一
SF
【あらすじ】
「補給がなければ、戦場に立つ資格すらない」
坂上真一(さかがみ しんいち)、50歳。
かつてイージス艦長として鉄壁の防空網を指揮し、現在は海上自衛隊で次世代艦の兵站システムを設計する男。
背中には若き日の過ちである「仁王」の刺青を隠し持ち、北辰一刀流の達人でもある彼は、ある日、勤務中に仮眠をとる。
目が覚めると、そこは湿気と熱気に満ちた1944年のビルマだった。
鏡に映っていたのは、小太りで口髭の男――歴史の教科書で見た、あの「牟田口廉也」。
しかも時期は、日本陸軍史上最悪の汚点とされる「インパール作戦」決行の直前。
部下たちは「必勝の精神論」を叫び、無謀な突撃を今か今かと待っている。
(……ふざけるな。俺に、部下を餓死させろと言うのか?)
現代の知識と、冷徹な計算、そして海自仕込みのロジスティクス能力。
すべてを駆使して、坂上(中身)は歴史への介入を開始する。
精神論を振りかざすふりをして上層部を欺き、現地改修で兵器を強化し、密かに撤退路を整備する。
これは、「史上最も無能な指揮官」の皮を被った「現代の有能な指揮官」が、確定した敗北の運命をねじ伏せ、数万の命を救うために戦う、逆転の戦記ドラマ。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる