8 / 145
第一章 JK将軍誕生
とにかく怪しい黒
しおりを挟む
怒涛の学園初日を終えた葵だったが、まだ気疲れすることが残っていた。住居問題である。将軍となった葵は大江戸城本丸の『中奥(なかおく)』で生活することとなったのだ。『御休息(ごきゅうそく)』と呼ばれる広い部屋で一人落ち着かない夕食を取り、『御湯殿(おゆどの)』と呼ばれる広い浴室でお風呂に入ることになった。今度はその広さが逆に気に入ったが、衣類を預かる『小姓(こしょう)』と体を洗う『小納戸役(こなんどやく)』が待機しているということには閉口した。当然、その場から直ちに去ってもらうようにした。
「我々御小姓衆は上様の身の周りの警護を、そして御小納戸衆は身の回りの世話を仰せつかっているものです! その我らを遠ざけるなど! 上様の身にもし何かあっては一大事です! どうかお考え直し下さい!」
「自分のことは出来る限り自分でやりますから! 警護はともかく、せめて、身の回りの世話役の方は女性で固めて下さい!」
癒しのバスタイムのはずがどっと疲れてしまった葵は、さっさと寝てしまおうと思った。廊下を歩いて、御休息の隣の部屋に入った。本来は御休息が将軍の寝室になるはずだが、枕が変わるとなかなか寝られない体質の葵は、自分の今まで使っていた部屋と全く同じ部屋を大江戸城内に移設してもらったのだ。これは葵が将軍職を引き受ける際に出したいくつかの条件の内の一つである。ドアを開けると、慣れ親しんだ我が部屋の光景である。机やタンスなどそのままの位置においてあることに、葵は多少ではあるが満足した。電気のスイッチをつけようと思ったが、何度か操作したものの点かない。まだ電気が通っていないのか、それとも接触不良か、いずれにしても明日確認しようと思い、葵はベッドに潜り込んだ。疲れのピークに達した体を一刻も早く休めたいと思ったからだ。しかし、ベッドに入った瞬間、彼女は強烈な違和感に襲われた。妙にベッドが狭いのである。自宅から持ってきたものは決して大きいものではないが、葵が手足を十分伸ばせる程の広さであるはずなのである。だが手足が伸ばせない。いや、正確に言えば伸ばせるのだが、何かに当たるのである。この時点で葵の眠気も完全に醒めていた。やはり接触不良だったのか、部屋の電気が今更点いた。その瞬間葵は驚愕した。自らと添い寝をするような形で、黒装束の服を着た一人の青年がベッドに目を閉じて横たわっていたからだ。
「きゃああああ‼」
葵の叫び声にその黒装束の男もバッと飛び起きた。
「曲者か! く、どこに消えやがった……」
黒装束の男は背中に背負った刀に手をかけながら、部屋をゆっくりと見回す。そして両手を組んで静かに目を閉じる。
「……周囲に怪しい気配は感じないな。別に慌てて逃げ去ったというわけでもなさそうだ」
そして、黒装束の男は葵の方に振り返って、冷静な口調でこう告げる。
「上様、貴女に何が起こっても自分が必ず守ります。安心して下さい、控えていますよ」
「あ、あ、あ……」
「あ? どうされました?」
「貴方誰よー―‼」
「ぶほぁ⁉」
葵は持っていた枕で黒装束の男の顔面を思いっ切り殴りつけた。
ようやく落ち着きを取り戻した葵はベッドに腰掛け、腕を組みながら、部屋の中央で正座をする黒装束の男に声を掛ける。
「で……? なんで貴方がこの部屋にいる訳? えっと……」
「……自分は黒駆秀吾郎(くろがけしゅうごろう)と申します。御庭番を務めている者です」
「御庭番……?」
「代々上様の警護を仰せつかっているもの……簡単に言えば隠密です」
「ふ~ん、で、何でその隠密が私の部屋に居るのよ?」
「ええっ⁉ ここは物置では無かったのですか⁉」
「はっ?」
「い、いや大分狭い所だなとは思ったのですが……」
「狭い……」
「上様が居住するには、その、何と言いますか、いささか庶民的というか……」
「庶民的……」
「多少窮屈ではありましたが、ちょうど横になれる場所がありましたので、仮眠をとっておりました」
「……わね」
「わね? 如何しましたか、上様?」
「狭くて貧乏臭い物置小屋で悪かったわね! ここは私にとって大事な憩いの空間なの! さっさと出て行って頂戴‼ 貴方の顔は二度と見たくないわ!」
「は、ははっ⁉ これは大変失礼致しました!」
そう言って、秀吾郎はさっと部屋から姿を消した。葵にとっては生まれて初めて目にする忍者の超スピードだったが、最早今の彼女にはそれに驚く気力も残っていなかった。
「……疲れた。さっさと寝よ」
「我々御小姓衆は上様の身の周りの警護を、そして御小納戸衆は身の回りの世話を仰せつかっているものです! その我らを遠ざけるなど! 上様の身にもし何かあっては一大事です! どうかお考え直し下さい!」
「自分のことは出来る限り自分でやりますから! 警護はともかく、せめて、身の回りの世話役の方は女性で固めて下さい!」
癒しのバスタイムのはずがどっと疲れてしまった葵は、さっさと寝てしまおうと思った。廊下を歩いて、御休息の隣の部屋に入った。本来は御休息が将軍の寝室になるはずだが、枕が変わるとなかなか寝られない体質の葵は、自分の今まで使っていた部屋と全く同じ部屋を大江戸城内に移設してもらったのだ。これは葵が将軍職を引き受ける際に出したいくつかの条件の内の一つである。ドアを開けると、慣れ親しんだ我が部屋の光景である。机やタンスなどそのままの位置においてあることに、葵は多少ではあるが満足した。電気のスイッチをつけようと思ったが、何度か操作したものの点かない。まだ電気が通っていないのか、それとも接触不良か、いずれにしても明日確認しようと思い、葵はベッドに潜り込んだ。疲れのピークに達した体を一刻も早く休めたいと思ったからだ。しかし、ベッドに入った瞬間、彼女は強烈な違和感に襲われた。妙にベッドが狭いのである。自宅から持ってきたものは決して大きいものではないが、葵が手足を十分伸ばせる程の広さであるはずなのである。だが手足が伸ばせない。いや、正確に言えば伸ばせるのだが、何かに当たるのである。この時点で葵の眠気も完全に醒めていた。やはり接触不良だったのか、部屋の電気が今更点いた。その瞬間葵は驚愕した。自らと添い寝をするような形で、黒装束の服を着た一人の青年がベッドに目を閉じて横たわっていたからだ。
「きゃああああ‼」
葵の叫び声にその黒装束の男もバッと飛び起きた。
「曲者か! く、どこに消えやがった……」
黒装束の男は背中に背負った刀に手をかけながら、部屋をゆっくりと見回す。そして両手を組んで静かに目を閉じる。
「……周囲に怪しい気配は感じないな。別に慌てて逃げ去ったというわけでもなさそうだ」
そして、黒装束の男は葵の方に振り返って、冷静な口調でこう告げる。
「上様、貴女に何が起こっても自分が必ず守ります。安心して下さい、控えていますよ」
「あ、あ、あ……」
「あ? どうされました?」
「貴方誰よー―‼」
「ぶほぁ⁉」
葵は持っていた枕で黒装束の男の顔面を思いっ切り殴りつけた。
ようやく落ち着きを取り戻した葵はベッドに腰掛け、腕を組みながら、部屋の中央で正座をする黒装束の男に声を掛ける。
「で……? なんで貴方がこの部屋にいる訳? えっと……」
「……自分は黒駆秀吾郎(くろがけしゅうごろう)と申します。御庭番を務めている者です」
「御庭番……?」
「代々上様の警護を仰せつかっているもの……簡単に言えば隠密です」
「ふ~ん、で、何でその隠密が私の部屋に居るのよ?」
「ええっ⁉ ここは物置では無かったのですか⁉」
「はっ?」
「い、いや大分狭い所だなとは思ったのですが……」
「狭い……」
「上様が居住するには、その、何と言いますか、いささか庶民的というか……」
「庶民的……」
「多少窮屈ではありましたが、ちょうど横になれる場所がありましたので、仮眠をとっておりました」
「……わね」
「わね? 如何しましたか、上様?」
「狭くて貧乏臭い物置小屋で悪かったわね! ここは私にとって大事な憩いの空間なの! さっさと出て行って頂戴‼ 貴方の顔は二度と見たくないわ!」
「は、ははっ⁉ これは大変失礼致しました!」
そう言って、秀吾郎はさっと部屋から姿を消した。葵にとっては生まれて初めて目にする忍者の超スピードだったが、最早今の彼女にはそれに驚く気力も残っていなかった。
「……疲れた。さっさと寝よ」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
神木さんちのお兄ちゃん!
雪桜
キャラ文芸
✨ キャラ文芸ランキング週間・月間1位&累計250万pt突破、ありがとうございます!
神木家の双子の妹弟・華と蓮には"絶世の美男子"と言われるほどの金髪碧眼な『兄』がいる。
美人でカッコよくて、その上優しいお兄ちゃんは、常にみんなの人気者!
だけど、そんな兄には、何故か彼女がいなかった。
幼い頃に母を亡くし、いつも母親代わりだったお兄ちゃん。もしかして、お兄ちゃんが彼女が作らないのは自分達のせい?!
そう思った華と蓮は、兄のためにも自立することを決意する。
だけど、このお兄ちゃん。実は、家族しか愛せない超拗らせた兄だった!
これは、モテまくってるくせに家族しか愛せない美人すぎるお兄ちゃんと、兄離れしたいけど、なかなか出来ない双子の妹弟が繰り広げる、甘くて優しくて、ちょっぴり切ない愛と絆のハートフルラブ(家族愛)コメディ。
果たして、家族しか愛せないお兄ちゃんに、恋人ができる日はくるのか?
これは、美人すぎるお兄ちゃんがいる神木一家の、波乱万丈な日々を綴った物語である。
***
イラストは、全て自作です。
カクヨムにて、先行連載中。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
この世界、イケメンが迫害されてるってマジ!?〜アホの子による無自覚救済物語〜
具なっしー
恋愛
※この表紙は前世基準。本編では美醜逆転してます。AIです
転生先は──美醜逆転、男女比20:1の世界!?
肌は真っ白、顔のパーツは小さければ小さいほど美しい!?
その結果、地球基準の超絶イケメンたちは “醜男(キメオ)” と呼ばれ、迫害されていた。
そんな世界に爆誕したのは、脳みそふわふわアホの子・ミーミ。
前世で「喋らなければ可愛い」と言われ続けた彼女に同情した神様は、
「この子は救済が必要だ…!」と世界一の美少女に転生させてしまった。
「ひきわり納豆顔じゃん!これが美しいの??」
己の欲望のために押せ押せ行動するアホの子が、
結果的にイケメン達を救い、世界を変えていく──!
「すきーー♡結婚してください!私が幸せにしますぅ〜♡♡♡」
でも、気づけば彼らが全方向から迫ってくる逆ハーレム状態に……!
アホの子が無自覚に世界を救う、
価値観バグりまくりご都合主義100%ファンタジーラブコメ!
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる