私が征夷大将軍⁉~JK上様と九人の色男たち~

阿弥陀乃トンマージ

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第一章 JK将軍誕生

肉体美

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「な、な、何故そのようなことをしなければいけないんですの⁉」

「いや、モデルをやってくれんだろ?」

「確かにそうは言ったけどさ、そ、その……」

「ヌードになる必要性が全く感じられませんが」

 言いよどむ葵に代わって、爽がはっきりと拒絶の意を示した。

「俺様は人間ってのは一糸まとわぬ姿ってのが一番美しく、かつ尊いものだと思うんだ。しかもそれが美人三人のその姿って言うなら、これ以上刺激的……もとい、芸術的な題材は無いと言ってもいい」

「い、いや、そうは言っても……」

「さっき協力は惜しまないって言ったよな?」

「た、確かに言ったけど……」

「将軍に二言は無いんだろ?」

「ううっ……」

 弾七はスッと立ち上がった。爽より頭一つほど大きくそれなりの長身である。そしてはだけた着物を直し、姿勢を正して、葵たちに頭を下げた。

「新境地を開拓出来るきっかけになると思うんだ、だから頼む! 力を貸してくれ!」

「そんな……頭を下げられても無理なものは無理ですわよねえ、お二人とも?」

 小霧が葵たちの様子を伺う。葵も戸惑いがちな表情だったが、突如ハッとして隣の爽を見る。爽は黙って頷いた。正面に向き直った葵は弾七に告げる。

「……分かった。力を貸すよ」

「本当か⁉」

「ち、ちょっと若下野さん⁉」

「ただ、ここでその……裸になるのは少し恥ずかしいから、隣の部屋を借りても良い?」

「あ、ああ、もちろん良いぜ! じゃあ準備をして待っている!」

「うん。じゃあ待っててね~」

「ちょ、若下野さん⁉ 正気ですか⁉ って伊達仁さん! 押さないで下さる⁉」

 三人は隣の部屋へと移った。

「何事も言ってみるもんだな……」

 弾七はそう言いながら自然と笑みがこぼれてくるのを手で押さえつけた。

「いやいや、これはあくまでも芸術の為だ、けして邪な気持ちなんかじゃねえ」

 そう弾七は自らに言い聞かせながら、作業の準備に入った。そして十数分程時間が経った。弾七は流石に奇妙に思った。いくら何でも時間がかかり過ぎなのではないかと。しかし、ここで急かすような真似をしたら、葵たちの気が変わってしまうかもしれない。それだけはなんとしても避けたい。弾七にはより慎重な対応が求められてくる。どうしたものかと思案を巡らせていると、葵たちから声が掛かった。

「お待たせ~♪ 準備出来たよ~そっちはどう?」

「あ、ああ! 準備万端だ、いつでも良いぜ!」

「それでちょっとお願いがあるんだけど……私たちが良いよって言うまで目を閉じていてくれる? まだ恥ずかしいから……」

「? ああ、分かった」

 弾七は素直に目を閉じた。葵が尋ねる。

「本当に閉じた?」

「閉じたよ」

やがて隣の部屋の襖が開き、葵たちが部屋に入ってくる足音がする。弾七は内心、必死に芸術の為だと己に言い聞かせるが、やはりどうしても煩悩が頭をもたげてくる。再びニヤツキそうになる口元を手できつく抑えつける。そして、葵から待望の一言が飛び出た。

「はい! 良いよ~目を開けて」

「おおっ! ……おおおおおおんんんー⁉」

 目を開いた弾七は、自らの眼前に広がった光景に驚きを隠せなかった。そこにいたのがきれいな柔肌をした美女三人ではなく、筋骨隆々とした褌一丁の漢たちの姿だったからである。しばし呆然とした後、弾七は当然の疑問を発した。

「お、男じゃねーか! ってか誰なんだよ、こいつら!」

「オイラは赤宿進之助だ」

「自分は黒駆秀吾郎だ」

 進之助と秀吾郎がボディビルダーのようにポーズを取りながら弾七に答える。

「僕は大毛利景元……」

 進之助たちの後ろで景元も申し訳程度にポーズを取っている。

「いや、名乗られても知らねえよ! おい、どういうことだよ、これは⁉」

 弾七は葵に向かって抗議する。

「絵のモデルだよ?」

「い、いや、アンタらがやるんじゃねえのかよ⁉ 何が悲しくて野郎共の褌姿を至近距離で見なきゃならねえんだ!」

尚も抗議を続ける弾七に葵の隣に立つ爽が代わりに答える。

「確かに葵様は力を貸すとはおっしゃいましたが、御自分がやるとははっきりと断言はしておりません」

「話には文脈ってもんがあるだろ! 俺様は美人三人って言ったよな⁉」

「……ご要望通り美男子三人を揃えました」

 爽が眼鏡を直しながら淡々と答える。

「……いや、だから男じゃねーか!」

「貴方は下心を少しでも取り繕うためか、『人間ってのは一糸まとわぬ姿ってのが一番美しく、かつ尊いものだと思う』と女性ではなく、人間といいました。人間ならば当然男性も対象に含まれます」

「と、当然って……」

 はっきりと落胆する弾七に対し、葵が畳みかける。

「さあ、新境地への開拓に向けて! 進之助たちももっとポーズを取ってあげて! 創作意欲が掻き立てられるように!」

「オイラは結構体鍛えてんだ! じっくりと見てくんな、絵師の兄ちゃん!」

「あまり肌を出すのは本意ではないのだが……上様の頼みとあらば! 橙谷殿、どうぞご覧になって下さい!」

「ぼ、僕のことはあまり見なくて良い……むしろ放っておいてくれないか……」

 妙にノリノリな二人とは対照的に、景元の表情は暗い。

「さあ、どう⁉ 意欲が湧き立ってきたんじゃないの~?」

「さっぱりならねえよ!」

 葵の問いかけに弾七が声を荒げる。

「さっきから準備をしながら、色々とイメージを膨らませていたんだ、それが蓋を開けてみたら、何だいこれは⁉ 想像したものと真逆のものを見せられて、こちとらどうすりゃ良いんだよ!」

「真逆……?」

「そうだよ!」

「つまり、期待が裏切られたってこと……?」

「身も蓋もない言い方のような気もするが……まあそうだよ!」

「これはチャンスだよ!」

 立ち上がった弾七の両肩を葵がガッシリと掴んだ。

「な、チャ、チャンス?」

 戸惑い気味の弾七に対し、葵が続ける。

「人生も創作も思いかけない所にチャンスが転がっているもの! この男たちの姿が貴方の浮世絵師人生を大きく変えるかもしれない! だからもっとちゃんと見て上げて!」

 葵は再び弾七を座らせた。そして、進之助たちに指示を飛ばす。

「よし、相撲の時間よ!」

「え、何、相撲?」

 弾七が困惑し続ける中、景元が行司役をつとめ、進之助と秀吾郎が部屋の中央で派手にぶつかりあった。
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