私が征夷大将軍⁉~JK上様と九人の色男たち~

阿弥陀乃トンマージ

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第二章 いざ江の島へ

変則トライアスロン

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「~~」

 皆がざわめくなか、八千代が話を続ける。

「単なる遠泳大会では、多くの方々にとって苦痛だというのが事前のアンケートで判明しました。よって、実行委員の権限をもって大会競技の変更という決断を下しました!」

「ず、随分とまた思い切ったことを……」

 葵が戸惑う。イザベラが首を傾げる。

「変則とハ……?」

「そこの貴女! 鋭い良い質問ですわ!」

 八千代に指差され、イザベラがやや驚く。

「き、聞こえていたのカ……」

「変則トライアスロンとは、まず長距離走を走り、その次は自転車ロードレース、最後に水泳を行います!」

「通常のトライアスロンとは真逆の順番で種目を行うのカ……」

「自転車のロードバイク、長距離走用のランニングシューズは参加人数分全て、我が五橋グループが用意させて頂きました!」

「さ、流石の財力……」

 葵が感心する。八千代が話を続ける。

「当日の急な競技変更に戸惑っている方も多いでしょうが、実際のトライアスロンよりはいずれも短い距離です。さらに幸いにも今日の遠泳大会に参加される方は揃いも揃って運動神経抜群の方々! きっと良いパフォーマンスを見せてくれると期待しております!」

「へっ、なんだか燃えてきたぜ!」

 進之助が拳で手のひらを叩く。八千代が声をかける。

「それではこれから十分後にスタートです! 皆さん準備をして下さい!」

 参加者は戸惑いながらも準備に入る。葵の下に八千代が近づいてくる。

「い、五橋さん……」

「上様、せっかくですから勝負いたしませんか?」

「勝負?」

「ええ、今日はわたくしと二年ろ組の生徒二名、計三名が参加します」

「はあ……」

「上様と将愉会の方が一名参加されるのですよね? 後一名はあの西東さんとやらを含めて……これでちょうど三対三ですわね」

「そ、それでどうするつもりですか?」

「計六名の内、もっとも先着した方が所属する組、もしくは会が勝利ということでいかがでしょうか?」

「い、いや、いかがでしょうかって言われても……勝敗を決めてどうするんですか?」

「そうですね……負けた方が勝った方の言うことになにか一つ従うこと……というのはいかがですか?」

「! そ、そんなリスクあること受け入れられません!」

 葵がその場を離れようとする。八千代が笑う。

「まさか……お逃げになるのですか?」

「!」

「征夷大将軍ともあろうお方が、自信がないのですね。それならば致し方ありません」

「……いいですよ、その勝負、受けて立ちます!」

「そうこなくては、良い勝負にしましょう」

「準備があるので失礼します」

「ふふっ、あの方の言った通りになりましたわね。掌の上で転がされているようで、少しばかり癪ですが……」

 八千代は葵の後ろ姿を見て、笑みを浮かべて呟く。

「進之助、ザベちゃん、少し話が……」

「遠泳でなくなって良かったナ。まあ、より無様な敗北を喫することになるのだガ……」

「ほざけ、圧倒的な差をつけて勝ってやるよ」

 葵が声をかけようとしたが、二人は依然として睨み合いを続けていた。

「あ、あのさ……」

「間もなくスタートです!」

「ああ、始まっちゃう……」

「ぶっちぎりの一位でゴールするのはオイラだ!」

「私はそういう輩を常に黙らせてきタ……!」

「ま、まあ、どちらも気合入っているみたいだから良いかな?」

 葵たちもスタート位置につく。係員が声をかける。

「よ~い、スタート!」

「!」

 勢いよく一人の生徒が飛び出す。葵が呟く。

「あれは確か……二年ろ組の竹波(たけなみ)さん……」

「フン、いくらなんでも飛ばし過ぎダ……」

「あんな無茶なペースが持つはずがねえ!」

 イザベラと進之助が冷静に分析する。レースは序盤からかなり縦長の隊列になる。竹波のハイペースについていくかどうかで各自の判断が分かれたからである。

「ず、随分差を付けられちゃったな……」

「ショーグン、焦るナ。二番手集団後方のこの位置がベストダ……」

 葵の呟きにイザベラが応える。しかし……。

「ペ、ペースが落ちねえ⁉」

 進之助が驚きの声を上げる。イザベラが舌打ちする。

「チッ! この日に合わせてコンディションを整えてきたのカ!」

「今ですわ!」

「! 五橋さん⁉」

 二番手集団から八千代ともう一人が飛び出す。進之助が声を上げる。

「しまった! 飛び出された!」

「絶妙なタイミングダ! くそっ! 出遅れタ!」

 イザベラの言葉通り、八千代たちの良いタイミングの飛び出しに二番手集団の誰もついていくことが出来ない。葵が焦る。

「二年ろ組の三人が先頭に!」

 まんまと抜け出した八千代たちは長距離走を終え、それぞれ自転車に跨り、これまた好スタートを決める。イザベラが声を上げる。

「今度は別の奴が先頭に立って、他の二人を引き連れる構図カ!」

「あれは呂科(ろしな)さん! あの人も運動神経が良い人だ!」

「……ということは自転車のスペシャリストの可能性があるナ!」

「マズいよ、マズいよ!」

「……ショーグンは別に焦る必要はないのではないカ?」

 イザベラが葵に問う。葵が答える。

「実は……かくかくしかじかで……」

 葵はレース前の八千代との約束を説明する。進之助が叫ぶ。

「それを早く言えよ!」

「いや、まさか五橋さんたちがここまでやるとは思わなくて……」

「相手を軽視するのは良くないゾ。それと、見え見えの挑発に乗るナ」

「はい……返す言葉もありません……」

 イザベラの言葉に葵は申し訳なさそうに俯く。進之助がイザベラに声をかける。

「お説教は後だ! イザコザ! 行くぞ!」

「イザベラダ! 分かっていル!」

 進之助に向かってイザベラが頷く。

「……ふふ、大分差を付けましたわね」

 八千代が余裕の笑みを浮かべる。竹波が声を上げる。

「まんまと狙い通りに行きましたね!」

「ええ、これもあの方の立案した作戦というのがいささか気に入りませんが……」

 八千代が一瞬渋い表情になるが、すぐにまた笑顔に戻る。

「このままのリードを保てば、我々二年ろ組の勝利です……って、なにっ⁉」

「どうしました、竹波君?」

「う、後ろを見て下さい!」

「え? なっ⁉」

 後ろを振り返った八千代が驚く。イザベラを先頭に将愉会のメンバーが縦一列となって猛然と追い上げてきたからである。イザベラが笑う。

「捉えタ!」

「な、なんてスピードなの⁉」

「ス、スリップストリームだ! 反則じゃないか⁉」

「これは変則トライアスロンなのだろウ⁉」

 竹波の指摘をイザベラが一蹴する。

「くっ! 呂科! もっとスピードを上げろ! こっちもやるぞ!」

「おう!」

「! ま、またスピードが上がった!」

「ロードレースの本場、欧州で鍛えた脚を舐めるなヨ!」

 イザベラもさらにスピードを上げる。しかし、なかなか差は縮まらない。

「どうだ!」

「いいぞ、呂科!」

「五橋さん! 3、2、1で飛び出して下さい!」

「わ、分かりましたわ!」

「……行きますよ! 3、2、1、ゴー‼」

「ええい!」

 呂科の掛け声に従い、八千代が前に飛び出す。葵が叫ぶ。

「五橋さんが先頭に立った!」

「憂から聞いていたのにナ。相手を軽視していたのは私も同じカ……オイ、赤毛!」

 イザベラが後ろを振り返り、進之助に声をかける。

「ああん⁉ オイラのことか⁉」

「他に誰がいル! 一番体力を残しているお前が先頭を狙エ!」

「お、おうよ! 任せとけ!」

 進之助が勢いよく飛び出し、八千代に猛然と迫る。八千代がそれに気づく。

「あ、赤毛の君⁉ 参加されていたのですね! い、いいえ、レースに集中ですわ!」

 首を激しく左右に振った八千代は自転車を降り、海に飛び込んで泳ぎ始める。
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