疾れイグニース!

阿弥陀乃トンマージ

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第一章

第12レース(2)ナデシコハナザカリVSナデシコフルブルム

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「勝ったよ~♪」

「実にお見事なレースでしたわ」

「飛鳥ちゃんも勝ってね~」

「もちろんですわ」

 翔を飛鳥は見送る。

「これはこれは、関東Cクラスの撫子飛鳥さんじゃありませんか?」

 撫子グレイスがわざとらしく大声を出して近寄ってくる。

「……ごきげんよう」

「ごきげんよう。しかし、驚きましたわ。貴女様がAクラスではなく、Cクラスだなんて……撫子の本家ではどのようなことになっておりますの?」

「……さあ? この一年、家にはほとんど帰っておりませんので……」

「それはそうでしょうね。一体どんな顔してお戻りになることが出来るのか、うちには恐ろし過ぎて想像もつきませんわ」

 笑みを浮かべるグレイスを見て、飛鳥は一呼吸入れてから話す。

「……ここまでのとあるクラスの戦績なのですけど、5戦2勝2着1回3着2回……なるほど立派な戦績です」

「それはそうでしょうとも」

 飛鳥の言葉にグレイスは微笑みながら頷く。

「……ここが地元の阪神レース場でなければね」

「……なんですって?」

 グレイスの笑顔が消える。

「片や……それぞれのドラゴンにとってはほとんど初めてとなる長距離輸送、人竜ともにほぼ初めて走るレース場、調整期間も決して十分ではない、しかも騎乗する人間はクラスの半分が約一年前までまともなレース経験なし……そんな『崖っぷち』と揶揄される集団が5戦1勝2着4回という戦績を残している――これはとあるクラスに匹敵する程の勢いです――しかも前述したように不利な条件を抱えて。一方のとあるクラス……お膝元とも言えるレース場でこの調子では撫子分家どころか、関西競竜界で今後肩身の狭い思いをするのではと、他人事ながら心配です」

「い、一度勝ったくらいで随分と気が大きくなるんですのね、単純そうな脳みそで羨ましい限りやわ。中身が大して詰まってなさそうだから軽そうですし」

「ええ、お陰で体重管理が楽なのです」

「おほほ……」

「うふふ……」

 グレイスと飛鳥が見つめ合いながら笑い合う。

「楽しそうに歓談中の所申し訳ないが……」

「はい?」

「貴方は……」

「関東Aクラスのエース、五味だ、今日はお互いに良いレースにしようじゃないか」

「はあ……」

 その場の空気にそぐわない爽やかな物言いをする五味にグレイスは冷ややかな目を向ける。それに気付いていないのか、五味は握手をしようと手を差し出す。

「五味さん、貴方……」

「ん? なんだい、撫子飛鳥さん?」

「先日の模擬レースで私たちにかなりの着差をつけられての1・2・3フィニッシュを許しましたよね? 一着の紅蓮君や二着の天ノ川君には勝てそうにもない、あるいはまた負けると恥だから、わたくしとのレースを選んだ……違いますか?」

「そ、そんなことあるはずもないだろう?」

「露骨に声が震えていますわよ」

「し、失礼する!」

 五味がその場からそそくさと立ち去る。グレイスが笑う。

「なかなか手厳しいことをおっしゃりますなあ」

「ああいう空気の読めない殿方が嫌いなのです」

「珍しく気が合いましたなあ、ウチもです」

「がっはっは! これはまた気の強かお嬢さん方やなあ!」

「「!」」

 いきなり大声が響き、飛鳥たちが振り返ると、熊のような大男が立っている。ギョロッとした大きな目と、ふさふさの髭が印象的である。飛鳥が恐る恐る尋ねる。

「あ、貴方は?」

「おっと、こりゃあ失敬! おいは竜勝寺盛頼(りゅうしょうじもりより)! 九州競竜学校所属ばい!」

「九州……教官か関係者の方ですか?」

「いやいや、学生ばい! バリバリの17歳ばい!」

「「ええっ!」」

「ふ、二人揃ってそがん驚くことかい?」

「い、いやわたくしたちより年下とは思えない貫録……」

「顔写真は単なる手違いかと思っていましたが、まさか御本人やったとは……」

「どうやら皆、撫子家の争いにばかり注目をしとーみたいやが……ばってん、おいと相棒、『バーニングバレット』が勝利を頂くばい!」

「「⁉」」

 盛頼の言葉に飛鳥たちの顔色が変わる。

「挨拶は済んだ。そいじゃ、失礼!」

 盛頼はどかどかとその場から去る。

「……邪魔が入りましたが、良いレースにしましょう」

「ええ」

 グレイスもその場を去ると、仏坂が近寄ってくる。

「最終確認、良いかい?」

「ええ、どうぞ」

「阪神芝2400mは道中スローペースに流れてラストの上がり勝負になるのがほとんどだ」

「……ええ、わたくしも勝負所は終盤とみています」

「出走メンバーを見た所逃げ竜もいないしそこまでハイペースにならないだろう」

「……では、行ってきます」

 飛鳥はナデシコハナザカリに騎乗し、本竜場に出て、ゲートに入る。他の竜も順調にゲートインし、一瞬の間を置いて、ゲートが開く。

「!」

 ほぼ揃ったスタートになったが、赤茶色の竜体をしたドラゴン、竜勝寺盛頼騎乗のバーニングバレットが大きく出遅れる。スタンドに上がってきた嵐一が呟く。

「あの目立つ9番、大分出遅れたな」

「いや、すぐに体勢を立て直して前に上がっていくぜ、すげえ勢いだ」

「距離はありますし、各竜の力関係的にもそこまで慌てる必要は無いと思いますが」

 青空の言葉に海が答える。しかし、バーニングバレットはどんどん上がっていく。

「集団には追いついたのにペースを緩めない! こ、これは先頭に立つつもりだ!」

 レオンが驚く。鞍上の盛頼は笑いながら叫ぶ。

「がっはっは! どんどん行くばい!」

「な、なんだあいつは……」

 交わされたハイビューティフル騎乗の五味は只々困惑する。中団につけているナデシコフルブルム騎乗のグレイスは前方を見て考えを巡らせる。

(データを見る限り、逃げの脚質ではなかったはずや。他に逃げる竜がおらんから虚を突いた? それとも状態が良くないから一か八かの大逃げ? ……人を見た目で判断するのもアカンことやけど……恐らく後者やろうな、恐らく……)

「撫子さんとナデシコハナザカリ、後方に位置取ったわね」

 勝負服に着替え終わった真帆が控室でモニターを見つめる炎仁に声をかける。

「ああ、それにしても9番、すごい逃げているな……」

 バーニングバレットは二番手に約十竜身以上差を広げ、レースは半分の距離を通過した。二番手以下の面々が徐々に焦り始める。

(ペースが落ちない! このままだとマズいか!)

 五味がハイビューティフルのペースを上げ、それに何頭か続く。第三コーナー手前、残り約1000m付近でバーニングバレットの脚が鈍り、五味らが追い付く。

「やけくそな逃げもここまでだ!」

「ふん!」

「何⁉」

 バーニングバレットが再びスピードを上げ。下り坂となっている阪神レース場の外周りコースを一気に駆け下りていく。バーニングバレットの脚が止まったと判断した五味らはその再加速に反応出来ず、遅れてしまう。盛頼は笑う。

「がっはっは! 中央競竜所属も大したことなかね! 所詮見かけ倒しばい!」

「……ホンマに見かけで人を判断したらアカンですわ」

「⁉」

 完全に抜け出したかと思われたバーニングバレットにナデシコフルブルムが並びかける。グレイスが笑う。

「流石に三度目の加速は無い! 出し抜けずに残念でしたな!」

「ふん、まだ脚は残っていると! こうなったら直線勝負ばい!」

 最終コーナーを周り、長い直線に入って、バーニングバレットとナデシコフルブルムによる二頭の叩き合いとなる。グレイスは叫ぶ。

「人竜ともに鍛えたええ体付きしてはるなあ! プルプルしてはるで!」

「日頃の厳しい鍛錬の賜物ばい!」

(もう限界やろって皮肉が通じんのかいな⁉ やせ我慢⁉ それともまだ余力がある⁉ どれやねんな、面倒な殿方やな! ん⁉)

「むっ⁉」

 グレイスと盛頼が驚く。外側からナデシコハナザカリが突っ込んできたからである。モニターを見ていた真帆と炎仁が声を上げる。

「ハナザカリ、凄い脚で上がってきたわ!」

「よっしゃあ! 行け! 飛鳥さん! ハナザカリ!」

(今までのわたくしならレース前のグレイスさんの見え透いた挑発に引っかかったり、熊ヒゲさんの激走に慌てふためいたりしたでしょうね。ですが冷静に対応出来ました。我ながら成長しているのでしょうか? それをここで証明します!)

 ナデシコハナザカリは二頭を交わし、先頭でゴール板前を通過する。

「一着はナデシコハナザカリ! 関東勢、連勝だ!」

「くっ、負けたばい……こいが名門、撫子家の底力か……」

「……東京での模擬レースも見ていましたが、本格的に脚質転換しはったんですね」

「ええ、大分試行錯誤を積み重ねましたが……ここにきて上手くいきましたね」

「ちなみに仕掛けはどのタイミングで?」

「熊ヒゲさんが二度目の加速をした辺りです」

「! うちと一緒……またもや珍しく気が合いましたなあ」

「ふふっ、そのようですね」

 飛鳥とグレイスは目を合わせて笑い合う。
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