疾れイグニース!

阿弥陀乃トンマージ

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第二章

第2レース(4)未勝利戦、決着

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「死んでねえ……!って、ここから見えていないでしょう⁉ なにをちょっとキリっとしているんですか⁉」

「う、うるせえな! 雰囲気だよ! とにかく、あの程度なら妨害にはならねえよ! 抗議しても無駄だ。まったく、うまくやってやがるぜ……」

「どうするんですか⁉」

「信じろ、アイツらを……!」

「そ、そんな……」

「いいから座っていろ」

 環は席に座る。レースは第三コーナーを回っている。

「くっ!」

 依然として、炎仁とグレンノイグニースは三頭のドラゴンと内ラチによって四方を囲まれてしまっている。

「コーナーリングでの乱れを突こうとしたって、そうはいかないよ!」

 三郎が声を上げる。炎仁は懸命に頭を回転させる。

(どうする⁉ この人たちの騎乗はやはり上手い。隙を見出すのは難しい……!)

「はっ、所詮、そんなもんかよ!」

 後方で次郎が笑う。

「期待外れかな……」

 前方で太郎が呟く。

「ここで、君とそのドラゴンを潰す。次の標的は彼女だ」

「⁉ か、彼女?」

 三郎に対し、炎仁がチラッと視線を向ける。三郎が笑みを浮かべる。

「紺碧真帆ちゃんだよ、そして彼女の騎乗するコンペキノアクアだ」

「なっ……」

「それで可愛い妹たちの溜飲も少しは下がるだろう」

「……」

「もっとも君がその程度ならば、紺碧ちゃんも大したことはないんだろうね」

 三郎が笑う。炎仁が問う。

「あ、貴方たちは……」

「うん?」

「そんなことの為だけにレースに出ているんですか?」

「そんなこととは言ってくれるじゃないか。僕らも一応競竜一家のはしくれだからね。恥をかかせてくれたお礼はしっかりとさせてもらうだけのことだよ」

「……真帆が出るレースにも貴方たちが揃って出るんですか?」

「ああ、祖父の代から懇意にしてくれている竜主さんがいるからね。その方に頼んで、別のドラゴンを用意してもらう形にはなるだろうね」

「そ、そこまでして……」

「借りはきっちりと返す主義でね」

「……分かりました」

「そうかい」

「貴方たちはここで止めなければいけないということが!」

「は? どういうことだい?」

 三郎が首を捻る。

「貴方たちの言葉を借りるなら潰すということです!」

「はっ、生意気言ってくれるじゃないか!」

 炎仁の言葉に三郎の目の色が変わる。レースは最終コーナーに差し掛かる。

「むっ……」

 三郎が炎仁を煽る。

「さあ、これをまわったら最後の直線だぞ、どうするんだい⁉」

「……ここだ!」

「なっ⁉」

 炎仁はグレンノイグニースを右にジャンプさせ、内ラチを思いっきり蹴らせる。内ラチは弾力性のある素材で出来ており、柔らかくなっている。それをバネのように利用して、グレンノイグニースが太郎の竜の外側、三郎の竜の前に着地する。炎仁が頷く。

「よし!」

「し、しまった! 前に出られた! くそ!」

 三郎の竜がわずかに外へ出してグレンノイグニースに並ぼうとさせるが、反応が鈍い。

「余計な接触を繰り返しているからだ! もう余力はないはず!」

「くっ……」

 炎仁の言葉に三郎は黙り込む。

「三郎、後は任せろ!」

「す、すまない! 太郎兄さん!」

 太郎の竜が内側からグレンノイグニースに競りかけていこうとする。

「先は行かせん! ⁉」

「……芝をわざと強く後方に蹴とばす、せっかくの技量をそんな風に無駄遣いする人には絶対に負けない!」

「むう⁉」

 炎仁とグレンノイグニースの迫力に圧され、太郎の竜の脚が鈍る。対照的にグレンノイグニースの脚がよく伸びる。炎仁が頷く。

「いける!」

「いけねえよ!」

 斜め後方から次郎の竜が迫ってくる。炎仁が少し振り向く。

「! ……」

「最後は外から捲って俺が勝つっていう筋書きだったんだ! よって、こいつと俺の力はまだ十分に残っているぜ!」

「……黙れ」

「あん⁉」

「黙れと言っている!」

「うっ⁉」

 炎仁の一喝に次郎が怯む。その気持ちが竜に伝わり、竜の脚色が鈍る。炎仁が叫ぶ。

「行け! イグニース!」

「……外からグレンノイグニースが鋭い脚で伸びてきた! 先頭の竜群と脚色が違う! ここでかわした! グレンノイグニースが一着!」

 実況がレース場に大きく響く。

「よっしゃあ!」

 炎仁が右手を大きく突き上げる。

「やったあ! やりましたよ!」

 スタンドで環が環太郎に抱きつく。環太郎が苦笑する。

「未勝利戦で喜び過ぎだ……」

「私が調教助手になってからの初勝利ですよ!」

「そういえばそうか」

「そういえばって……」

「まあいい、竜場に下がるぞ」

「淡々としているな~」

 環太郎が席を立つ。環が唇を尖らせる。

「……あ、先生、環さん!」

 引き上げてきた炎仁が環太郎たちを見て笑顔を見せる。環が声をかける。

「紅蓮騎手、初勝利おめでとうございます!」

「ありがとうございます!」

「ふん……」

「ちょっと、先生も何か声をかけてあげて下さいよ」

 環が肘で環太郎を突っつく。

「まあ、よくやったな。あそこで内ラチを蹴るとは珍しいものを見させてもらったぜ。だが、今後はああいう奇策だけじゃあ通用しねえぞ……ほら、インタビューに答えてこい」

「は、はい、すみません、失礼します……」

「……褒めてあげれば良いのに」

「褒めたつもりだぞ? ただ、こんなところで満足してもらっちゃあ困るからよ……」

 環太郎が戸惑いながら記者のインタビューに答える初々しい炎仁を見て目を細める。
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