6 / 50
第一幕
第2話(1)芸の安売り
しおりを挟む
2
「ふう……姿が戻った」
「なかなか似合っていたっぺよ」
俺の左肩をすっかり定位置としたティッペが笑う。俺はムッとする。
「褒め言葉になっていないぞ……」
「それは失礼……」
俺たちはある町にたどり着く。
「町か、それなりの規模のようだが、なんというか……」
「なんというか?」
「みすぼらしいな、全体の雰囲気も、人々の恰好も」
俺は小声で呟く。
「なんてこと言うんだっぺ」
「思ったことを正直に言ったまでだ」
「これには理由があるんだっぺ……」
「理由? む……」
俺の腹がグウっと鳴る。ティッペがまた笑う。
「くくっ、これはまた見事な腹の虫……」
「うるさい」
「英雄の道は遠そうだっぺね……」
「こればかりは仕方がないだろう……おい」
俺はティッペに手を差し出す。ティッペが首を傾げる。
「なんだっぺ?」
「いや、分かるだろう」
「?」
「金だよ、金」
「金?」
「まさか、この世界は貨幣経済ではないのか?」
「いいや、そんなことはないっぺよ、金は天下の回りものとはよく言ったものだっぺ」
「そうだろう、ならば……」
俺は再び手を差し出す。
「だからその手はなんだっぺ?」
「だから金だよ」
「なぜ金を要求するっぺ?」
「店で食事をするからだ、あいにく俺には手持ちがないからな、貸してくれ」
「オラにもないっぺ」
「はあっ⁉」
俺は声を上げる。ティッペが呆れ気味に呟く。
「オラは妖精。空腹という概念がないっぺ。つまり……」
「金を所持する必要もないってことか」
「そういうこと」
「ちょっと待て、それならどうする?」
「どこかで稼ぐしかないっぺねえ……」
ティッペが他人事のように呟く。実際他人事だが。
「異世界に来てまでバイトか……」
俺は肩を落としつつも、周囲を見回す。ティッペが尋ねる。
「どうしたっぺ?」
「お前も今言っただろう。稼ぐ場所を探している……」
「う~ん、今のこの町では難しそうだっぺねえ……」
ティッペの言う通り、町には活気というものがまるでなく、どこにも働き口がなさそうであった。俺は頭を抱える。
「参ったな……」
「一食くらい我慢したらどうだっぺ?」
「馬鹿を言うな、夜の宿泊代はどうなる? 野宿でもしろっていうのか?」
「ああ、英雄がそれでは恰好がつかないっぺ……」
「そうだろう……どうにか日銭でも稼がないと……」
俺は腕を組む。ティッペが提案してくる。
「スキルを活かすのはどうだっぺ?」
「スキル?」
「そう」
「俺のスキルは【演技】だが?」
「ああ、そうだったぺな……」
ティッペが思い出したように天を仰ぐ。忘れていたのか、こいつ。
「演技でどう稼ぐ? 劇場でもあるのか、この町に?」
「無いっぺ」
「だろうな」
「その代わり……路上があるっぺ」
「はあ?」
「演者さえいればどこでもステージになり得るっぺ」
「もっともらしいことを言うな」
「まさか……自信がないんだっぺか?」
ティッペが意地悪な笑みを浮かべる。
「そういう問題ではない。この世界でポピュラーな演目を知らん」
「スグルが得意な奴をやればいいっぺ」
「冗談はよせ……」
専門学校時代に散々練習した外郎売りならば、今でも楽々と諳んじることが出来るが……それを異世界の路上でやるなんてあまりにもシュール過ぎる。というかダダ滑り確実だ。度胸はそれなりにあるつもりだが、滑るのだけはダメだ、メンタルがやられる。考え込む俺にティッペが更に提案をしてくる。
「物真似でもしたらどうだっぺ?」
「……この世界の著名人を知らん」
「英雄の真似とか……」
「……それは誰にでも通用するのか?」
「まあ、実際に顔を見た人は少ないっぺねえ……」
「それならやっても意味がないだろう。大体だな……」
「うん?」
「俺は腐ってもプロの声優だ。その辺で軽々しく芝居をして、金を取るつもりはない」
「ほお~なかなか言うっぺね~」
「芸の安売りはせん」
「ふむ……」
「絵は要りませんか~?」
「うん?」
道を曲がったところに座り込んで絵を売っている女性がいた。眼鏡をかけたロングヘアーの女性だ。姿恰好が俺の世界と共通している。その女性と目が合う。女性が立ち上がって、俺を指差して声を上げる。
「ああ⁉ 栄光さん⁉」
「⁉」
「良かった……知っている人に会えた~」
女性がへなへなと座り込む。俺は尋ねる。
「貴女も転移者のようだが……俺のことを知っているのか?」
「もちろん、知っていますよ、声優の栄光優さんでしょう?」
「失礼だが、貴女は?」
「私は橙々木天(とうとうぎてん)です……」
「……! まさか、アニメーターの⁉」
「はい、この世界に来てしまって、絵を売っていました~」
よく見てみると、上手な絵が何枚も並んでいる。しかし……
「げ、芸を安売りしている……!」
俺は率直な感想を述べてしまう。
「ふう……姿が戻った」
「なかなか似合っていたっぺよ」
俺の左肩をすっかり定位置としたティッペが笑う。俺はムッとする。
「褒め言葉になっていないぞ……」
「それは失礼……」
俺たちはある町にたどり着く。
「町か、それなりの規模のようだが、なんというか……」
「なんというか?」
「みすぼらしいな、全体の雰囲気も、人々の恰好も」
俺は小声で呟く。
「なんてこと言うんだっぺ」
「思ったことを正直に言ったまでだ」
「これには理由があるんだっぺ……」
「理由? む……」
俺の腹がグウっと鳴る。ティッペがまた笑う。
「くくっ、これはまた見事な腹の虫……」
「うるさい」
「英雄の道は遠そうだっぺね……」
「こればかりは仕方がないだろう……おい」
俺はティッペに手を差し出す。ティッペが首を傾げる。
「なんだっぺ?」
「いや、分かるだろう」
「?」
「金だよ、金」
「金?」
「まさか、この世界は貨幣経済ではないのか?」
「いいや、そんなことはないっぺよ、金は天下の回りものとはよく言ったものだっぺ」
「そうだろう、ならば……」
俺は再び手を差し出す。
「だからその手はなんだっぺ?」
「だから金だよ」
「なぜ金を要求するっぺ?」
「店で食事をするからだ、あいにく俺には手持ちがないからな、貸してくれ」
「オラにもないっぺ」
「はあっ⁉」
俺は声を上げる。ティッペが呆れ気味に呟く。
「オラは妖精。空腹という概念がないっぺ。つまり……」
「金を所持する必要もないってことか」
「そういうこと」
「ちょっと待て、それならどうする?」
「どこかで稼ぐしかないっぺねえ……」
ティッペが他人事のように呟く。実際他人事だが。
「異世界に来てまでバイトか……」
俺は肩を落としつつも、周囲を見回す。ティッペが尋ねる。
「どうしたっぺ?」
「お前も今言っただろう。稼ぐ場所を探している……」
「う~ん、今のこの町では難しそうだっぺねえ……」
ティッペの言う通り、町には活気というものがまるでなく、どこにも働き口がなさそうであった。俺は頭を抱える。
「参ったな……」
「一食くらい我慢したらどうだっぺ?」
「馬鹿を言うな、夜の宿泊代はどうなる? 野宿でもしろっていうのか?」
「ああ、英雄がそれでは恰好がつかないっぺ……」
「そうだろう……どうにか日銭でも稼がないと……」
俺は腕を組む。ティッペが提案してくる。
「スキルを活かすのはどうだっぺ?」
「スキル?」
「そう」
「俺のスキルは【演技】だが?」
「ああ、そうだったぺな……」
ティッペが思い出したように天を仰ぐ。忘れていたのか、こいつ。
「演技でどう稼ぐ? 劇場でもあるのか、この町に?」
「無いっぺ」
「だろうな」
「その代わり……路上があるっぺ」
「はあ?」
「演者さえいればどこでもステージになり得るっぺ」
「もっともらしいことを言うな」
「まさか……自信がないんだっぺか?」
ティッペが意地悪な笑みを浮かべる。
「そういう問題ではない。この世界でポピュラーな演目を知らん」
「スグルが得意な奴をやればいいっぺ」
「冗談はよせ……」
専門学校時代に散々練習した外郎売りならば、今でも楽々と諳んじることが出来るが……それを異世界の路上でやるなんてあまりにもシュール過ぎる。というかダダ滑り確実だ。度胸はそれなりにあるつもりだが、滑るのだけはダメだ、メンタルがやられる。考え込む俺にティッペが更に提案をしてくる。
「物真似でもしたらどうだっぺ?」
「……この世界の著名人を知らん」
「英雄の真似とか……」
「……それは誰にでも通用するのか?」
「まあ、実際に顔を見た人は少ないっぺねえ……」
「それならやっても意味がないだろう。大体だな……」
「うん?」
「俺は腐ってもプロの声優だ。その辺で軽々しく芝居をして、金を取るつもりはない」
「ほお~なかなか言うっぺね~」
「芸の安売りはせん」
「ふむ……」
「絵は要りませんか~?」
「うん?」
道を曲がったところに座り込んで絵を売っている女性がいた。眼鏡をかけたロングヘアーの女性だ。姿恰好が俺の世界と共通している。その女性と目が合う。女性が立ち上がって、俺を指差して声を上げる。
「ああ⁉ 栄光さん⁉」
「⁉」
「良かった……知っている人に会えた~」
女性がへなへなと座り込む。俺は尋ねる。
「貴女も転移者のようだが……俺のことを知っているのか?」
「もちろん、知っていますよ、声優の栄光優さんでしょう?」
「失礼だが、貴女は?」
「私は橙々木天(とうとうぎてん)です……」
「……! まさか、アニメーターの⁉」
「はい、この世界に来てしまって、絵を売っていました~」
よく見てみると、上手な絵が何枚も並んでいる。しかし……
「げ、芸を安売りしている……!」
俺は率直な感想を述べてしまう。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
勇者召喚の余り物ですが、メイド型アンドロイド軍団で冒険者始めます
水江タカシ
ファンタジー
28歳独身、一般事務の会社員である俺は、勇者召喚に巻き込まれて異世界へと転移した。
勇者、聖女、剣聖――
華やかな肩書きを持つ者たちがもてはやされる中、俺に与えられたのは聞いたこともないスキルだった。
【戦術構築サポートAI】
【アンドロイド工廠】
【兵器保管庫】
【兵站生成モジュール】
【拠点構築システム】
【個体強化カスタマイズ】
王は落胆し、貴族は嘲笑い、俺は“役立たず”として王都から追放される。
だが――
この世界には存在しないはずの“機械兵器”を、俺は召喚できた。
最初に召喚したのは、クールな軍人タイプのメイド型戦闘アンドロイド。
識別番号で呼ばれる彼女に、俺は名前を与えた。
「今日からお前はレイナだ」
これは、勇者ではない男が、
メイド型アンドロイド軍団と共に冒険者として成り上がっていく物語。
屋敷を手に入れ、土地を拠点化し、戦力を増強しながら、
趣味全開で異世界を生きていく。
魔王とはいずれ戦うことになるだろう。
だが今は――
まずは冒険者登録からだ。
転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする
初
ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。
リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。
これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる