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第一章
第5話(2)決勝トーナメント一回戦
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「さて……」
竜子たちが会場に戻る。
「い、いよいよ決勝トーナメントだね」
「うむ……」
「し、しっかりな、き、緊張しないで、予選ブロックのように……!」
「パパが緊張しちゃっているじゃないの」
ママが苦笑する。
「あ、ああ……」
「竜子、ママは将棋のことは分からないけれど……後悔のないように楽しんでね」
「ああ、分かっているのじゃ……」
「それなら良いわ」
ママが笑みを浮かべる。
「では、行ってくる!」
「が、頑張って!」
「が、頑張れー!」
「頑張ってね!」
太郎とパパとママの声援を背に受け、竜子が座席へと向かう。
「……お嬢様」
「ええ……」
執事に呼ばれたお嬢様が閉じていた目をゆっくりと開く。
「そろそろお時間です……」
「ふっ……」
お嬢様がどこからか用意したのか、豪華な椅子からすっと立ち上がる。小学生離れしたスラっとした体格である。
「ご武運を……」
「セバスティアン、誰に向かって言っているのかしら? わたくしがこのレベルで負けることなどありえませんわ」
お嬢様が縦ロールの髪をかき上げる。
「ご油断は禁物かと……」
執事が告げる。
「まあ、心に留めておくわ……行ってくるわ、セバスティアン」
「……山田です」
山田の呟きを背に受け、お嬢様が座席へと向かう。
「それでは決勝トーナメント一回戦です。まずは振り駒を……」
係員が声をかける。
「失礼……」
お嬢様が駒を振る。歩の方が多い。
「また後手か……」
竜子が自らの側頭部をポリポリと掻く。
「……こういったボードゲームでは先手が幾分か有利とされる……」
「うん?」
「言い訳が出来てよろしかったではありませんか」
「! 言ってくれるのう……」
「ふふっ……」
お嬢様が扇子を開いて、口元を隠す。
「ならば……」
「?」
「後手のワシが勝ったら、お主は完全に言い訳が出来ないのう?」
「!」
お嬢様が目を見開く。
「違うかの?」
「ふっ、その心配はまったくご無用ですわ」
「そうか」
「そうですわ」
「ふっ……」
「ふふふっ……」
二人が笑みを浮かべ合う。
「そちらのお二人、笑っていないで早く駒を並べてください」
係員が注意する。
「……」
「………」
二人が駒を並べ終える。各座席と時計を確認した係員が告げる。
「時間になりました。対局を始めてください」
「お願いしますわ」
「お願いします」
お嬢様と竜子がお互いに頭を下げる。
「…………」
(居飛車か……)
「……………」
「むっ……」
「………………」
「これは……」
先手のお嬢様が右側の銀を前へと進めてくる。
「棒銀ですわ……」
「ぼうぎん……研究され尽くして、受けるのも容易な戦法じゃぞ……」
「それならばしっかりと受けてみてごらんなさい」
(左で玉を矢倉でしっかりと囲っておる……お嬢様だけにもっと派手な指しまわしをしてくるかと思ったが……堅実じゃな……)
竜子が盤面を見つむながら頷く。
「どうかしたのかしら?」
「別に……」
「まだまだ余裕のようですわね」
「正直……拍子抜けしておる」
竜子が首をすくめる。
「ほう?」
「決勝トーナメントじゃから、予選ブロックよりももっとハイレベルな将棋が指せるものと思っておったが……」
「ご期待には沿えていないかしら?」
「今のところはな?」
「それならば……!」
「むっ!」
「これならどうかしら?」
(飛車を動かしてきた……右辺――ワシから見て左辺――の攻めを厚くする狙いか? しかし、いたずらに失うリスクが高まっただけじゃぞ?)
「…………………」
「ぬっ……」
「……………………」
「なっ⁉」
竜子が驚く。いつの間にか右辺だけでなく、左辺からも攻め込まれていたからである。
竜子たちが会場に戻る。
「い、いよいよ決勝トーナメントだね」
「うむ……」
「し、しっかりな、き、緊張しないで、予選ブロックのように……!」
「パパが緊張しちゃっているじゃないの」
ママが苦笑する。
「あ、ああ……」
「竜子、ママは将棋のことは分からないけれど……後悔のないように楽しんでね」
「ああ、分かっているのじゃ……」
「それなら良いわ」
ママが笑みを浮かべる。
「では、行ってくる!」
「が、頑張って!」
「が、頑張れー!」
「頑張ってね!」
太郎とパパとママの声援を背に受け、竜子が座席へと向かう。
「……お嬢様」
「ええ……」
執事に呼ばれたお嬢様が閉じていた目をゆっくりと開く。
「そろそろお時間です……」
「ふっ……」
お嬢様がどこからか用意したのか、豪華な椅子からすっと立ち上がる。小学生離れしたスラっとした体格である。
「ご武運を……」
「セバスティアン、誰に向かって言っているのかしら? わたくしがこのレベルで負けることなどありえませんわ」
お嬢様が縦ロールの髪をかき上げる。
「ご油断は禁物かと……」
執事が告げる。
「まあ、心に留めておくわ……行ってくるわ、セバスティアン」
「……山田です」
山田の呟きを背に受け、お嬢様が座席へと向かう。
「それでは決勝トーナメント一回戦です。まずは振り駒を……」
係員が声をかける。
「失礼……」
お嬢様が駒を振る。歩の方が多い。
「また後手か……」
竜子が自らの側頭部をポリポリと掻く。
「……こういったボードゲームでは先手が幾分か有利とされる……」
「うん?」
「言い訳が出来てよろしかったではありませんか」
「! 言ってくれるのう……」
「ふふっ……」
お嬢様が扇子を開いて、口元を隠す。
「ならば……」
「?」
「後手のワシが勝ったら、お主は完全に言い訳が出来ないのう?」
「!」
お嬢様が目を見開く。
「違うかの?」
「ふっ、その心配はまったくご無用ですわ」
「そうか」
「そうですわ」
「ふっ……」
「ふふふっ……」
二人が笑みを浮かべ合う。
「そちらのお二人、笑っていないで早く駒を並べてください」
係員が注意する。
「……」
「………」
二人が駒を並べ終える。各座席と時計を確認した係員が告げる。
「時間になりました。対局を始めてください」
「お願いしますわ」
「お願いします」
お嬢様と竜子がお互いに頭を下げる。
「…………」
(居飛車か……)
「……………」
「むっ……」
「………………」
「これは……」
先手のお嬢様が右側の銀を前へと進めてくる。
「棒銀ですわ……」
「ぼうぎん……研究され尽くして、受けるのも容易な戦法じゃぞ……」
「それならばしっかりと受けてみてごらんなさい」
(左で玉を矢倉でしっかりと囲っておる……お嬢様だけにもっと派手な指しまわしをしてくるかと思ったが……堅実じゃな……)
竜子が盤面を見つむながら頷く。
「どうかしたのかしら?」
「別に……」
「まだまだ余裕のようですわね」
「正直……拍子抜けしておる」
竜子が首をすくめる。
「ほう?」
「決勝トーナメントじゃから、予選ブロックよりももっとハイレベルな将棋が指せるものと思っておったが……」
「ご期待には沿えていないかしら?」
「今のところはな?」
「それならば……!」
「むっ!」
「これならどうかしら?」
(飛車を動かしてきた……右辺――ワシから見て左辺――の攻めを厚くする狙いか? しかし、いたずらに失うリスクが高まっただけじゃぞ?)
「…………………」
「ぬっ……」
「……………………」
「なっ⁉」
竜子が驚く。いつの間にか右辺だけでなく、左辺からも攻め込まれていたからである。
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