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第1章

第4話(4)五人目と六人目と七人目

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「? 何をびっくりしている?」

「い、いや、集落を出るんですか?」

「そう言っただろう」

「な、何のために?」

「ついてくれば分かるさ」

「ちょ、ちょっと待って下さい!」

 リュートの後にイオナが慌てて続く。

「……これだな」

「こ、これは……?」

 イオナが大きな物体を指差す。

「記事で言う、謎の物体ってやつだ」

「こ、これが……! な、なんなんですか?」

「さあな」

 リュートが首を傾げる。

「ご存知ないんですか?」

「俺だって知らないこと、分からないことくらい、いくらでもあるさ」

「そ、そうですか……」

「まあ、聞いた話だが……『バス』というらしいぜ」

「バス?」

「ああ、転移者はこれに乗って移動するそうだ」

「こ、これが走るんですか⁉」

 イオナがびっくりとする。

「ああ、四つ大きな車輪が付いているだろう?」

 リュートが指し示す。

「た、確かに……」

「だが、特別な燃料が無いと動かんらしい」

「そうなんですか……」

「だから今は無用の長物だ」

 リュートがバスを軽く叩く。

「……何故ここに?」

 イオナが尋ねる。

「いや、まだここら辺に留まっているのではないかとリーダー格の少年が言うのでな……」

「え?」

「いないな……」

 リュートが周囲をきょろきょろとする。

「グオオッ!」

「!」

 茂みからモンスターが飛び出してくる。イオナが驚く。

「ラ、ランドドラゴン⁉」

「あ、あの人たちが危ないよ!」

 三人の女の子が姿を現し、茶髪のショートボブの女の子が声を上げる。

「委員長!」

「わ、分かりました! そこの方々、目を瞑っていて下さい!」

 長い赤髪を一つ結びにした女の子から委員長と呼ばれた、黒髪でセミロングの女の子が両手をかかげる。眩い光が放たれる。

「グオオッ⁉」

「ランドドラゴンの脚が止まった!」

「目くらましか……光明魔法だな」

 リュートがズレた眼鏡を直しながら呟く。

「グオッ!」

「また動き出す!」

「カグラ!」

「うん!」

 カグラと呼ばれた茶髪の女の子が両手をかかげる。

「グオッ⁉」

「ランドドラゴンの脚に蔦が絡まった!」

「蒼翠魔法か……」

 リュートが顎をさすりながら呟く。

「これで動けないよ! マイ!」

「よっしゃあ!」

 赤髪の子が飛び上がり、ランドドラゴンに殴りかかる。攻撃を食らったランドドラゴンは倒れ込んで動かなくなる。イオナが叫ぶ。

「あ、あの巨体を拳で⁉」

「紅蓮魔法を拳に込めたか……面白い発想だ」

 リュートが腕を組んで頷く。黒髪の女の子が近づいてきて尋ねる。

「そこの方々、大丈夫ですか⁉」

「え、ええ……」

 イオナが応える。黒髪の女の子が胸をなでおろす。

「良かった……」

「安心するのはまだ早いぜ」

「え?」

「グオオオッ!」

「‼」

「ランドドラゴン! もう一匹いた! しかもさっきより大きい!」

「倒れたドラゴンの親ってところかな。怒り狂っているな……」

 リュートが冷静に分析する。

「グオオオオオッ!」

「はっ⁉」

 大きいランドドラゴンが黒髪の女の子に迫る。

「い、委員長⁉」

「ユキ!」

「っ……!」

 ユキと呼ばれた女の子は体がすくみ動けなくなってしまう。イオナが声を上げる。

「あ、危ない!」

「……滅せ」

「ウグオオオッ⁉」

 黒い光がランドドラゴンを包み、その姿を消してしまう。短い黒髪で眼鏡をかけた少年が両手をかかげているのがイオナとリュートの目に入る。少年は鼻を鳴らす。

「ふん……」

「ラ、ランドドラゴンが消えた……」

「暗黒魔法だな」

 リュートが眼鏡のフレームを抑えながら呟く。

「あ、暗黒魔法⁉」

「あれほどの使い手はそうそうお目にかかれない……」

「……あの少年が?」

「他に考えられまい」

「す、鈴木くん!」

「鈴木!」

「鈴木っち!」

 三人の女の子が少年の下に駆け寄る。少年が後頭部を掻きながら面倒臭そうに応える。

「お前ら……追放された俺のことはもう放っておけって……」

「そ、そういうわけにはいかないわよ!」

「そうだぜ!」

「やっぱり見捨てられないよ! クラスメイトだもん!」

「俺は一人でもなんとでもなるさ」

「そ、そんな……」

「最初は皆を恨んだぜ? ただ、今では逆に感謝しているんだ」

「感謝?」

 赤髪の女の子、マイが首を傾げる。

「ああ、こんなわけのわからない異世界に一人で放り出されて、絶望の淵に追いやられた結果、暗黒魔法に目覚めることが出来たんだからな……」

 鈴木と呼ばれた少年は自らの手を見つめて笑みを浮かべる。

「す、鈴木っち……」

「繰り返すが、俺のことはもう放っておいてくれないか? まあ……」

「ちょっと失礼……」

 リュートが口を挟む。鈴木が首を傾げる。

「誰だ?」

「リュートと言う。しがないスカウトマンだ」

「スカウトマン?」

「ああ、有望そうな者を勇者との冒険に臨むパーティーメンバ―にスカウトしている」

「ふっ、そうか……聞いたか? 俺にはこの世界での居場所が出来た。まあ、お前ら三人がどうしてもって言うのならついてきても……」

「ユキさん、カグラさん、マイさん、君たちを是非スカウトしたい」

「はっ⁉」

「「「ええっ⁉」」」

「君たちの魔法は正直言ってまだまだだ……しかし、可能性は感じた。連携面が取れているのもプラス評価だ……パーティーメンバーに加わらないか?」

「え、えっと……」

「待てよおっさん!」

「おっさんではない、リュートさんだ……」

「どっちでもいい! ここは俺をスカウトする流れだろう⁉」

「……君の暗黒魔法は確かに見事なものだ。しかし……追放されるような人間性の奴は要らん。パーティーとは協調性というものがなによりも大事だからな」

「んなっ⁉」

「まあ、君なら自分で言っていたように一人でもやっていけるさ。さて、お三方、行こうか」

「え、ええっと……」

 ユキたちが困惑する。

「勇者のパーティーメンバーに加わって名声を上げれば、富も財宝も思いのままだぜ? いい男も山ほど寄ってくる」

「「「よろしくお願いします‼」」」

「えええっ⁉」

 三人が揃ってリュートに頭を下げる。鈴木が愕然とする。

「決断が早い。若いってのは良いねえ」

 リュートが笑みを浮かべる。
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