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第一章
第4話(2) そっちの知ですか
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勇次の叫びを聞いて、億葉は勇次の来訪にようやく気付く。
「あ、鬼ヶ島氏、どうかされたんですか?」
「い、いや、それより大丈夫なんですか⁉」
勇次は億葉の文字通り爆発した髪型を指差す。
「大丈夫ですよ、こんなの日常茶飯事ですから」
「日常⁉」
「ご心配には及びません」
「そ、そうですか……」
億葉がポンと両手を叩く。
「そういえば思い出しました、御剣氏、隊長が言っていましたね。鬼ヶ島氏が拙者の下を訪ねるからそこんとこよろしく、と」
「ええ、『知力を深める』ことが必要だと言われまして……」
億葉がキョトンとした顔で尋ねる。
「それならもう十分ではないですか?」
「え?」
「任務中にも関わらず、金の棒をおもむろに口に咥えるは、布団で同衾するは、スカートの中に頭を突っ込むは……拙者が教えるようなことは何もないと思いますが」
「何の話をしているんですか⁉」
「痴力の話ですよ、痴漢としての素質は抜群でしょう」
「知力を深めたいんです! 知識の知!」
「ああ、そっちの知ですか」
「そっちしかありませんよ!」
「分かりました。ちょっと待っていて下さい」
億葉は隣の部屋に入っていく。
「……お待たせ致しました」
しばらくして部屋に戻ってきた億葉の姿に勇次は驚く。ボロボロになった白衣を着替え、モジャモジャになっていた髪の毛もいつもの三つ編み姿に戻っていたからである。
「え⁉」
「替えの白衣に着替えてきました」
「い、いや、それは分かりますが、髪の毛はどうやって……?」
「日常茶飯事ですから、セットし直すのも慣れたものです」
「そ、そういうものですか……」
「そういうものです。どうぞ座って下さい」
億葉は椅子に座り、勇次にも座るように促す。
「さて、何か聞きたいことなどはありますか?」
「は、はい?」
「知力を深めると言っても、拙者にそんなに大層なことは出来ません。ここはシンプルに質疑応答を行うのがベストだと判断しました」
億葉の言葉に勇次は納得する。
「ああ、そういうことですか」
「お答え出来る範囲でお答えします」
「そうですね……まず単純に『霊力』と『妖力』の違いってなんでしょう?」
「『霊力』とは簡単に言えば不思議な力のようなものです。実は人間誰しも備わっているものなのですが、通常はその力を自覚したり、他者が認識することはまずありません。特に傑出した霊力の持ち主だけが妖絶士になることが出来ます」
「傑出した霊力……」
「これまた簡単に言えば、『妖を認識出来るかどうか』ですね、霊力が低ければ、妖の存在に気づくことはありません。水準以上の霊力を備えていれば、妖に気付き、祓うことが可能になります」
「視えるかどうかってことですね」
「そういうことです。それで『妖力』ですが、これも不思議な力のことを指します。完全なイコールという訳ではありませんが、人間で言う霊力が妖や半妖の場合になると、妖力と言い換えられます」
「そうなんですね……」
「高い妖力を秘めた妖は人間にとって危険な存在ですので、『根絶』の対象になります」
「根絶……根を絶やすってことですか」
「そうです。『悪しき妖を根絶し、人間社会の平穏を守る』、それが我々『妖絶講』の掲げる基本的な行動理念です」
「ということは俺も……?」
勇次の疑問に億葉は静かに首を振る。
「今、悪しき妖と言いました。あくまで人間に害を成す存在が根絶の対象です。もっとも『全ての妖を絶やすべし!』という過激な思想の一派もいますが」
「それはまた……」
「反対に『妖を徹底的に保護すべし!』という考えの一派もいます。まあ、どんな組織や集団にも極端な人たちは出てくるものですね」
億葉はそう言って笑う。勇次は一呼吸置いて尋ねる。
「そもそも妖絶講とは何なんですか?」
「古来より妖は人間にとって脅威でした。その脅威を取り除く為に組織された集団です。成立は古代の終わり、つまり平安時代の頃と言われています」
「平安時代ですか!」
「中世、鎌倉時代から戦国時代においては、全国各地でそれぞれの講が独自に活動していたそうです。近世、江戸時代辺りから、全国的に統一された組織になっていったようですね。それが近代を経て、現代に至ります」
「長い歴史があるんですね」
勇次が感心したように呟く。
「そうですね。ざっと数えても千年位になりますか」
「『干支妖』とは?」
「妖の中でも上位に位置する妖です。何故なのかは分かりませんが、十二支を模した姿の為、そのように呼ばれています。はっきりとは分かりませんが、妖絶講にとっては千年の長きに渡る敵ですね」
「え、千年ですか⁉」
「高い妖力を持っている為、完全に祓うことが出来ていないのが実情です。過去の記録や伝承を調べてみても封じ込めることなどが精一杯なようです。極めて厄介な存在です」
「そんな厄介な奴らとこれまでどうやって……」
「これは不幸中の幸いと言いますか、連中の活動時期は限定されています。高い妖力を維持する為なのかどうか、正確なことは分かりませんが、一定期間出現した後、十数年間沈黙することが多いです。ただ、今回……」
「その沈黙が破られた、と……」
勇次の言葉に億葉が頷く。
「そうです。活動し始めたことが確認出来ました。憂慮するべき事態ですね」
「不意を突かれたとはいえ、隊長も傷を負わせられました……」
「御剣氏も超人的な存在ですが、連中相手には流石に手こずりそうですね。ああ、そうです、更にマズいことに……」
「更に?」
首を傾げる勇次に億葉が説明する。
「干支妖の覚醒時期にはこれまでややズレがありました。一体、あるいは数体の出現にはなんとか対処することが出来ました。それが今回は一気に二体同時に同じ箇所での出現……! この事実が意味することは!」
「……!」
息を呑む勇次に億葉が続ける。
「他の干支妖も覚醒している可能性があるということです。しかも……」
「しかも?」
「孤高の存在とも言える干支妖が連携を取っているという最悪の事態も想定されます」
「!」
「これまでの歴史ではあまり見られなかったことです。イレギュラーな事態ですね」
億葉がずれた眼鏡をクイっと上げる。そこに警報が鳴り響く。
「警報だ!」
「出動ですね!」
「あ、鬼ヶ島氏、どうかされたんですか?」
「い、いや、それより大丈夫なんですか⁉」
勇次は億葉の文字通り爆発した髪型を指差す。
「大丈夫ですよ、こんなの日常茶飯事ですから」
「日常⁉」
「ご心配には及びません」
「そ、そうですか……」
億葉がポンと両手を叩く。
「そういえば思い出しました、御剣氏、隊長が言っていましたね。鬼ヶ島氏が拙者の下を訪ねるからそこんとこよろしく、と」
「ええ、『知力を深める』ことが必要だと言われまして……」
億葉がキョトンとした顔で尋ねる。
「それならもう十分ではないですか?」
「え?」
「任務中にも関わらず、金の棒をおもむろに口に咥えるは、布団で同衾するは、スカートの中に頭を突っ込むは……拙者が教えるようなことは何もないと思いますが」
「何の話をしているんですか⁉」
「痴力の話ですよ、痴漢としての素質は抜群でしょう」
「知力を深めたいんです! 知識の知!」
「ああ、そっちの知ですか」
「そっちしかありませんよ!」
「分かりました。ちょっと待っていて下さい」
億葉は隣の部屋に入っていく。
「……お待たせ致しました」
しばらくして部屋に戻ってきた億葉の姿に勇次は驚く。ボロボロになった白衣を着替え、モジャモジャになっていた髪の毛もいつもの三つ編み姿に戻っていたからである。
「え⁉」
「替えの白衣に着替えてきました」
「い、いや、それは分かりますが、髪の毛はどうやって……?」
「日常茶飯事ですから、セットし直すのも慣れたものです」
「そ、そういうものですか……」
「そういうものです。どうぞ座って下さい」
億葉は椅子に座り、勇次にも座るように促す。
「さて、何か聞きたいことなどはありますか?」
「は、はい?」
「知力を深めると言っても、拙者にそんなに大層なことは出来ません。ここはシンプルに質疑応答を行うのがベストだと判断しました」
億葉の言葉に勇次は納得する。
「ああ、そういうことですか」
「お答え出来る範囲でお答えします」
「そうですね……まず単純に『霊力』と『妖力』の違いってなんでしょう?」
「『霊力』とは簡単に言えば不思議な力のようなものです。実は人間誰しも備わっているものなのですが、通常はその力を自覚したり、他者が認識することはまずありません。特に傑出した霊力の持ち主だけが妖絶士になることが出来ます」
「傑出した霊力……」
「これまた簡単に言えば、『妖を認識出来るかどうか』ですね、霊力が低ければ、妖の存在に気づくことはありません。水準以上の霊力を備えていれば、妖に気付き、祓うことが可能になります」
「視えるかどうかってことですね」
「そういうことです。それで『妖力』ですが、これも不思議な力のことを指します。完全なイコールという訳ではありませんが、人間で言う霊力が妖や半妖の場合になると、妖力と言い換えられます」
「そうなんですね……」
「高い妖力を秘めた妖は人間にとって危険な存在ですので、『根絶』の対象になります」
「根絶……根を絶やすってことですか」
「そうです。『悪しき妖を根絶し、人間社会の平穏を守る』、それが我々『妖絶講』の掲げる基本的な行動理念です」
「ということは俺も……?」
勇次の疑問に億葉は静かに首を振る。
「今、悪しき妖と言いました。あくまで人間に害を成す存在が根絶の対象です。もっとも『全ての妖を絶やすべし!』という過激な思想の一派もいますが」
「それはまた……」
「反対に『妖を徹底的に保護すべし!』という考えの一派もいます。まあ、どんな組織や集団にも極端な人たちは出てくるものですね」
億葉はそう言って笑う。勇次は一呼吸置いて尋ねる。
「そもそも妖絶講とは何なんですか?」
「古来より妖は人間にとって脅威でした。その脅威を取り除く為に組織された集団です。成立は古代の終わり、つまり平安時代の頃と言われています」
「平安時代ですか!」
「中世、鎌倉時代から戦国時代においては、全国各地でそれぞれの講が独自に活動していたそうです。近世、江戸時代辺りから、全国的に統一された組織になっていったようですね。それが近代を経て、現代に至ります」
「長い歴史があるんですね」
勇次が感心したように呟く。
「そうですね。ざっと数えても千年位になりますか」
「『干支妖』とは?」
「妖の中でも上位に位置する妖です。何故なのかは分かりませんが、十二支を模した姿の為、そのように呼ばれています。はっきりとは分かりませんが、妖絶講にとっては千年の長きに渡る敵ですね」
「え、千年ですか⁉」
「高い妖力を持っている為、完全に祓うことが出来ていないのが実情です。過去の記録や伝承を調べてみても封じ込めることなどが精一杯なようです。極めて厄介な存在です」
「そんな厄介な奴らとこれまでどうやって……」
「これは不幸中の幸いと言いますか、連中の活動時期は限定されています。高い妖力を維持する為なのかどうか、正確なことは分かりませんが、一定期間出現した後、十数年間沈黙することが多いです。ただ、今回……」
「その沈黙が破られた、と……」
勇次の言葉に億葉が頷く。
「そうです。活動し始めたことが確認出来ました。憂慮するべき事態ですね」
「不意を突かれたとはいえ、隊長も傷を負わせられました……」
「御剣氏も超人的な存在ですが、連中相手には流石に手こずりそうですね。ああ、そうです、更にマズいことに……」
「更に?」
首を傾げる勇次に億葉が説明する。
「干支妖の覚醒時期にはこれまでややズレがありました。一体、あるいは数体の出現にはなんとか対処することが出来ました。それが今回は一気に二体同時に同じ箇所での出現……! この事実が意味することは!」
「……!」
息を呑む勇次に億葉が続ける。
「他の干支妖も覚醒している可能性があるということです。しかも……」
「しかも?」
「孤高の存在とも言える干支妖が連携を取っているという最悪の事態も想定されます」
「!」
「これまでの歴史ではあまり見られなかったことです。イレギュラーな事態ですね」
億葉がずれた眼鏡をクイっと上げる。そこに警報が鳴り響く。
「警報だ!」
「出動ですね!」
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