上杉山御剣は躊躇しない

阿弥陀乃トンマージ

文字の大きさ
43 / 123
第一章

第11話(2) 色とりどりの授業模様

しおりを挟む
「勇次君、登校しても大丈夫なの?」

 通学路で愛が勇次に心配そうに尋ねる。

「ああ、三日も休んだんだから、もう充分だろう」

「そう……でも家にいた方が安全じゃない?」  

「三尋と同じ屋根の下っていうのがどうにも落ち着かねえんだよ」

「あ、やっぱり押し入れが定位置なんだ、黒駆さん……」

 勇次は自分の体をベタベタと触る。

「ど、どうしたの?」

「いや、家を出ることとこうして学校に行くことに関して、今の所、妖絶講から全然NGが出てねえなあと思ってさ」

「なんで体をベタベタ触るのよ?」

「なんか、封印の術とかそういうのを掛けられるんじゃねえかと思ってさ」

「何よそれ……大体登校のことはちゃんと報告したの?」

「勿論報告したさ、臨時で来ている他の隊の人が代わりに対応してくれたな。又左にちゃんと伝えてくれるってさ」

「そう……」

 教室に入り、二人は座席に座る。

「ってか、億千万トリオはまだ入院中なのか?」

「退院したとは聞いているけど、一日か二日は静養じゃないのかしら? あの人たちも流石に底なしのタフネスってわけじゃないだろうし」

「ああ、それならもうしばらく落ち着けそうだ」

 勇次は満足気に頷く。愛が冷ややかな視線を送る。

「……破廉恥騒ぎが出来なくてむしろ寂しいんじゃないの?」

「なんだよ、それは……」

「別に……」

 愛がプイと視線を逸らす。

「何怒ってんだか……」

 勇次は頬杖をつきながら、ため息をこぼす。そこに声が掛かる。

「おはよう、二人とも」

「おはよう……って⁉」

「はよ……ええっ⁉」

 挨拶を返した愛と勇次は驚く。そこに御剣が立っていたからである。

「な、何やってんすか⁉」

「登校だ」

「い、いや、それは分かりますけど……」

 あっけにとられる勇次を尻目に御剣が席に着く。愛が小声で尋ねる。

「勇次君を守る為ですか?」

「……それもある」

「それも?」

「先生が来たぞ、ホームルームの時間だ」

 御剣は会話を打ち切る。ホームルームが終わり、一限目の授業となる。科目は地学である。

「今日は代わりの先生が来るって話だけど……」

「あっどうも……皆さんおはようございます……本日代理で参りました、赤目億葉です」

「えっ⁉」

「億葉⁉」

 勇次たちが驚く。教室に億葉が入ってきたからである。周囲から視線が集中したため、勇次たちは黙る。愛が再び御剣に小声で囁く。

「億葉さんまで来るって、どういうことですか?」

「普通の高校生活というのを体験してみたくなったんじゃないか?」

「普通は教壇には立ちませんよ!」

 生徒たちが授業開始の挨拶をすると億葉が口を開く。

「えっと、地学の授業ですが……皆さん、教科書とノートをしまって下さい」

 教室がザワつく。愛が首を捻る。

「どういうこと……?」

「皆さん、私の真似をして下さい」

 億葉は床に寝そべる。教室が更にザワつく。愛が尋ねる。

「お、億葉さん⁉ い、いえ、赤目先生、何をなさっているのですか⁉」

「……見て分かりませんか?」

「さっぱり!」

「地学という学問分野は地球で生じる様々な現象のしくみを解き明かしたり、地球の構造と歴史、地球の将来の姿を研究する学問です」

「はあ……」

「よって、教科書や参考書とにらめっこするよりも、このようにまず、地球と一体化し、地球の鼓動を感じることが重要なのです」

「ええ……」

「皆さんも騙されたと思ってやってみて下さい」

 戸惑いながらも皆、それぞれ床に寝そべり始める。愛が叫ぶ。

「み、みんなそれで良いの⁉」

「ほ、本当だ!」

「地球の鼓動を感じるな……!」

 勇次と御剣が感嘆した声を上げる。

「まんまと騙されているわよ、二人とも!」

 こうしている内に億葉の授業は終わる。

「次は体育、男女一緒とは珍しいな……」

 ジャージに着替えた勇次が呟きながら体育館に向かい、整列する。

「おっし! 時間だな! 授業始めんぞ!」

「ええっ⁉」

「何⁉」

 愛と勇次は再び驚く。ジャージ姿で竹刀を持った千景が現れたからである。

「臨時教師の樫崎千景だ! ビシビシ行くから覚悟しろ!」

 千景は竹刀を床に叩き付ける。愛が呆れる。

「なんとも時代錯誤な……」

「よし! まずは体育館を50周だ!」

 生徒から戸惑いの声が漏れる。千景が一喝する。

「うるせえ! これからてめえらは受験だ、就職だなんだと社会の激しい荒波に揉まれることになるんだ! それに比べたら50周がなんだ! ほれ! 分かったら走れ!」

 千景のあまりの迫力に圧され、生徒たちは走り始める。愛が御剣に囁く。

「まさか千景さんも普通の高校生活に憧れて……ですか?」

「あいつは中退だが一応高校に通った経験はあるからな。なんとなくノリだと思うぞ」

「ノリで授業しないで欲しいわ……」

 怒涛の勢いのまま千景の授業は終わる。

「お次は音楽か、嫌な予感が……」

「皆様、ごきげんよう」

 勇次の嫌な予感は的中する。眼鏡にスーツ姿の万夜が音楽室に入ってきたからである。

「うわ……」

「本日は臨時教師を勤めさせて頂きます、苦竹万夜です。宜しくお願いします」

「まさかここで万夜さんが来るとは……」

 愛が顔をしかめる。万夜がピアノの前に座る。

「余計な言葉は不要! 皆様には音楽の楽しさを感じて頂きます! 教科書の10ページを開いて下さい。一緒に歌いましょう! ジョン・レノンで『イマジン』!」

「! いきなりかよ! 皆、気を付けろ!」

「! 皆、耳を塞いで!」

 勇次と愛が周囲に呼び掛けるも時既に遅く、万夜の発する声、否、怪音波によって、生徒たちは皆バタバタと倒れ込んでいく。演奏が終わると皆の様子を見て万夜が首を傾げる。

「あら? 皆様どうされたのですか? わたくしの美声に聞き惚れてしまったのかしら?」

「はははっ、そうかもしれませんね……」

「ヨーコ・オノが殴り込みにくるレベルだな……」

 愛が苦笑し、御剣が腕を組んで静かに呟く。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

看病しに行ったら、当主の“眠り”になってしまった

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全36話⭐︎ 倒れた当主を看病する役目を振られた使用人リィナは、彼の部屋へ通うことになる。 栄養、灯り、静かな時間、話し相手――“眠れる夜”を整えていく。そして、回復していく当主アレクシス。けれど彼は、ある夜そっと手を握り返し、低い声で囁く。 「責任、取って?」 噂が燃える屋敷で、ふたりが守るのは“枠(ルール)”。 手だけ、時間だけ、理由にしない――鍵はリィナが握ったまま。 けれど、守ろうとするほど情は育ち、合図の灯りはいつしか「帰る」ではなく「眠る」へ変わっていく。 看病から始まった優しい夜は、静かな執着に捕まっていく。 それでも、捕獲の鍵は彼ではなく――彼女の手にある。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

没落港の整備士男爵 ~「構造解析」スキルで古代設備を修理(レストア)したら、大陸一の物流拠点になり、王家も公爵家も頭が上がらなくなった件~

namisan
ファンタジー
大陸の南西端に位置するベルナ子爵領。 かつては貿易で栄えたこの港町も、今は見る影もない。 海底には土砂が堆積して大型船は入港できず、倉庫街は老朽化し、特産品もない。借金まみれの父と、諦めきった家臣たち。そこにあるのは、緩やかな「死」だけだった。 そんな没落寸前の領地の嫡男、アレン(16歳)に転生した主人公には、前世の記憶があった。 それは、日本で港湾管理者兼エンジニアとして働き、現場で散った「整備士」としての知識。 そして、彼にはもう一つ、この世界で目覚めた特異な能力があった。 対象の構造や欠陥、魔力の流れが設計図のように視えるスキル――【構造解析】。 「壊れているなら、直せばいい。詰まっているなら、通せばいい」 アレンは錆びついた古代の「浚渫(しゅんせつ)ゴーレム」を修理して港を深く掘り直し、魔導冷却庫を「熱交換の最適化」で復活させて、腐るだけだった魚を「最高級の輸出品」へと変えていく。 ドケチな家令ガルシアと予算を巡って戦い、荒くれ者の港湾長ゲンと共に泥にまみれ、没落商会の女主人メリッサと手を組んで販路を開拓する。 やがてその港には、陸・海・空の物流革命が巻き起こる。 揺れない「サスペンション馬車」が貴族の移動を変え、「鮮度抜群の魚介グルメ」が王族の胃袋を掴み、気性の荒いワイバーンを手懐けた「空輸便」が世界を結ぶ。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

さようなら、お別れしましょう

椿蛍
恋愛
「紹介しよう。新しい妻だ」――夫が『新しい妻』を連れてきた。  妻に新しいも古いもありますか?  愛人を通り越して、突然、夫が連れてきたのは『妻』!?  私に興味のない夫は、邪魔な私を遠ざけた。  ――つまり、別居。 夫と父に命を握られた【契約】で縛られた政略結婚。  ――あなたにお礼を言いますわ。 【契約】を無効にする方法を探し出し、夫と父から自由になってみせる! ※他サイトにも掲載しております。 ※表紙はお借りしたものです。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

処理中です...