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第二章
第14話(1) 妖退治だよ、全員集合!
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壱
「ふむ……やっぱり思った通りにゃ」
「何が思った通りなんだよ、又左(またざ)」
黒髪短髪で精悍な体付きをした青年が、自分の前をてくてくと歩く、人の言葉を話す不思議な黒猫、又左に尋ねる。
「勇次、アレを見るにゃ」
又左が首を振って山道の脇を指し示す。勇次と呼ばれた青年は視線をやって驚く。
「うおっ! な、なんだありゃ⁉」
勇次が驚いたのも無理からぬ話である。一本足でピョンピョンと飛び跳ねる、一つ目の付いた傘が山の崖を下ったところにひしめいていたからである。
「あれはからかさ小僧という妖(あやかし)にゃ」
「聞いたことがあるし、見たことがあるな、まさか実在したとは……」
「フィクションだと思ったかにゃ?」
「……っていうか、あんなに数がいるのに、妖レーダーが反応しなかったぞ!」
勇次は自分の手首を又左に向かって突き出す。そこには腕時計のようなものが巻かれている。
「それはまだ発生して間もないということにゃ」
「発生?」
「そう、妖の発現には何パターンかあるにゃ。あのからかさ小僧の場合は自然発生的に発現するというパターンだにゃ」
「そ、そういうものなのか……」
「からかさ小僧は梅雨の時期に現れることが多いにゃ。ここ新潟県では阿賀野市のこの地域で発生することがほぼお決まりにゃ」
「なんでだよ」
「さあ? 環境などが適しているんじゃにゃいか?」
又左は首を傾げる。勇次が呆れ気味に呟く。
「細かいところが適当なんだよな……しかし、なんだか気が進まないな……」
「にゃんでにゃ?」
「発生して間もないっていうことはつまり赤ん坊みたいなもんだろう? いくら妖だって言ってもな……うおっ!」
その時、勇次のレーダーが激しく振動を始めた。又左が冷静に告げる。
「そのレーダーが反応したということは、人間に対して悪意を持った妖が近くにいるということ……つまり、あのからかさ小僧たちは『根絶対象』にゃ」
「『根絶対象』ね……」
「そう、我々、妖を絶やす為の組織、妖絶講(ようぜつこう)の出番というわけにゃ」
「しかし、流石に数が多すぎないか? 四十体はいるぞ……」
「正確には五十体だにゃ」
「お、俺一人でやれってか?」
「一人頭十体なら余裕だろ!」
「⁉」
通信機能も備えているレーダーから声がすると同時に、金髪のウルフカットで長身かつ豊満なスタイルの女性がからかさ小僧の群れに殴り込みをかける。
「オラオラッ!」
「千景!」
千景と呼ばれた女性はメリケンサックをはめた拳と安全靴を履いた足を振り回し、からかさ小僧たちを圧倒する。千景の攻撃を受けたからかさ小僧は霧消する。
「どうだ!」
「どうだじゃファ……ありませんわ! ロクダン……独断専行は止めて下さる⁉」
別の場所から黒髪ロングの女性が飛び出してくる。キッチリと揃えた前髪とキチンと着た制服と長いスカートが印象的な彼女は口に咥えていた棒付きの飴を舐めながら、もう片方の手で鞭を自由自在に振るい、からかさ小僧たちを撃退していく。
「万夜も来ていたのか! すまない、助かる!」
「ふふっ、妖絶士(ようぜつし)として当然の責務を果たしたまでですわ」
勇次の声に万夜は長い髪をかき上げる。
「拙者もおります!」
また別の場所からピンク髪の三つ編みで度の強そうな眼鏡を掛けた小柄なパンツスタイルの女の子が飛び出してきたかと思うと、背中に背負った大きなリュックサックから何かを取り出して投げつける。
「『一億個の発明! その108! 煩悩退散爆弾!』です!」
爆弾は派手な爆発を起こし、周囲のからかさ小僧たちは爆散する。
「シ、シンプルに爆弾じゃねえか、それを108番目にする意味よ……と、とにかく億葉もきてくれたんだな!」
勇次が声を掛けると、億葉と呼ばれた女の子は勇次の方に向かって笑顔でピースする。
「半分は削った! 後二十体にゃ!」
「お次は私が!」
「愛か⁉」
またまた別の場所から今度は黒髪のポニーテールの女子が飛び出し、主に神事などで用いられる、人の形をした紙、形代を自身の胸に当てて叫ぶ。
「武枝御盾……お貸し給へ……『風林火山・火の構え・火炎』!」
激しい炎が噴き出し、前方に立っていたからかさ小僧たちを燃やし尽くす。
「す、すげえな……あの人の技まで使えるのか……」
「一度話をした人の力はお借り出来るわ……こ、ここまで強力だと消耗激しいけど……」
勇次の言葉に愛と呼ばれた女子はやや苦しそうに答える。
「よし! 後は俺に任せとけ!」
勇次は背中に背負っていた大きな黒いケースから金棒を取り出すと、崖下に向かって勢いよくジャンプする。
「うおおおっ!」
勇次は着地と同時に、金棒を力いっぱい横方向に振るう。金棒の直撃を受けた周囲のからかさ小僧たちが撃破される。
「よし! これで終わりだ!」
「勇次君、まだよ!」
「何⁉ ――上に飛んだのか⁉」
愛の声に勇次は上を見上げると、上から降りてきたからかさ小僧が長い舌を伸ばして、勇次の手から金棒を掠め取る。
「しまっ……ぐっ!」
からかさ小僧はすぐさま距離を詰めると、一本足で強烈な蹴りを勇次の腹に見舞う。予期せぬ攻撃を喰らった勇次はその場にうずくまってしまう。
「ぐはっ……」
「……」
からかさ小僧は金棒を巻き付けた舌を振り上げる。
「マ、マズいにゃ! 誰か援護を!」
又左が指示を飛ばし、周辺にいた愛たちが助けに向かおうとするが、それよりも早く、からかさ小僧は舌を振り下ろす。勇次は思わず目を瞑ってしまう。
「―――⁉」
次の瞬間、勇次が目を開くと、白髪のミディアムボブでストレートの髪型をした女性が日本刀をからかさ小僧に突き立てていた。からかさ小僧は霧消し、女性が口を開く。
「最近、気の緩みが目立つぞ、鬼ヶ島勇次(おにがしまゆうじ)……」
「た、隊長……」
「この上杉山御剣(うえすぎやまみつるぎ)の隊の隊員がそんな調子では困るな……」
「す、すみません……」
「全員無事だな、それでは帰投する」
御剣と名乗った女性は凛とした声で皆に告げる。
「ふむ……やっぱり思った通りにゃ」
「何が思った通りなんだよ、又左(またざ)」
黒髪短髪で精悍な体付きをした青年が、自分の前をてくてくと歩く、人の言葉を話す不思議な黒猫、又左に尋ねる。
「勇次、アレを見るにゃ」
又左が首を振って山道の脇を指し示す。勇次と呼ばれた青年は視線をやって驚く。
「うおっ! な、なんだありゃ⁉」
勇次が驚いたのも無理からぬ話である。一本足でピョンピョンと飛び跳ねる、一つ目の付いた傘が山の崖を下ったところにひしめいていたからである。
「あれはからかさ小僧という妖(あやかし)にゃ」
「聞いたことがあるし、見たことがあるな、まさか実在したとは……」
「フィクションだと思ったかにゃ?」
「……っていうか、あんなに数がいるのに、妖レーダーが反応しなかったぞ!」
勇次は自分の手首を又左に向かって突き出す。そこには腕時計のようなものが巻かれている。
「それはまだ発生して間もないということにゃ」
「発生?」
「そう、妖の発現には何パターンかあるにゃ。あのからかさ小僧の場合は自然発生的に発現するというパターンだにゃ」
「そ、そういうものなのか……」
「からかさ小僧は梅雨の時期に現れることが多いにゃ。ここ新潟県では阿賀野市のこの地域で発生することがほぼお決まりにゃ」
「なんでだよ」
「さあ? 環境などが適しているんじゃにゃいか?」
又左は首を傾げる。勇次が呆れ気味に呟く。
「細かいところが適当なんだよな……しかし、なんだか気が進まないな……」
「にゃんでにゃ?」
「発生して間もないっていうことはつまり赤ん坊みたいなもんだろう? いくら妖だって言ってもな……うおっ!」
その時、勇次のレーダーが激しく振動を始めた。又左が冷静に告げる。
「そのレーダーが反応したということは、人間に対して悪意を持った妖が近くにいるということ……つまり、あのからかさ小僧たちは『根絶対象』にゃ」
「『根絶対象』ね……」
「そう、我々、妖を絶やす為の組織、妖絶講(ようぜつこう)の出番というわけにゃ」
「しかし、流石に数が多すぎないか? 四十体はいるぞ……」
「正確には五十体だにゃ」
「お、俺一人でやれってか?」
「一人頭十体なら余裕だろ!」
「⁉」
通信機能も備えているレーダーから声がすると同時に、金髪のウルフカットで長身かつ豊満なスタイルの女性がからかさ小僧の群れに殴り込みをかける。
「オラオラッ!」
「千景!」
千景と呼ばれた女性はメリケンサックをはめた拳と安全靴を履いた足を振り回し、からかさ小僧たちを圧倒する。千景の攻撃を受けたからかさ小僧は霧消する。
「どうだ!」
「どうだじゃファ……ありませんわ! ロクダン……独断専行は止めて下さる⁉」
別の場所から黒髪ロングの女性が飛び出してくる。キッチリと揃えた前髪とキチンと着た制服と長いスカートが印象的な彼女は口に咥えていた棒付きの飴を舐めながら、もう片方の手で鞭を自由自在に振るい、からかさ小僧たちを撃退していく。
「万夜も来ていたのか! すまない、助かる!」
「ふふっ、妖絶士(ようぜつし)として当然の責務を果たしたまでですわ」
勇次の声に万夜は長い髪をかき上げる。
「拙者もおります!」
また別の場所からピンク髪の三つ編みで度の強そうな眼鏡を掛けた小柄なパンツスタイルの女の子が飛び出してきたかと思うと、背中に背負った大きなリュックサックから何かを取り出して投げつける。
「『一億個の発明! その108! 煩悩退散爆弾!』です!」
爆弾は派手な爆発を起こし、周囲のからかさ小僧たちは爆散する。
「シ、シンプルに爆弾じゃねえか、それを108番目にする意味よ……と、とにかく億葉もきてくれたんだな!」
勇次が声を掛けると、億葉と呼ばれた女の子は勇次の方に向かって笑顔でピースする。
「半分は削った! 後二十体にゃ!」
「お次は私が!」
「愛か⁉」
またまた別の場所から今度は黒髪のポニーテールの女子が飛び出し、主に神事などで用いられる、人の形をした紙、形代を自身の胸に当てて叫ぶ。
「武枝御盾……お貸し給へ……『風林火山・火の構え・火炎』!」
激しい炎が噴き出し、前方に立っていたからかさ小僧たちを燃やし尽くす。
「す、すげえな……あの人の技まで使えるのか……」
「一度話をした人の力はお借り出来るわ……こ、ここまで強力だと消耗激しいけど……」
勇次の言葉に愛と呼ばれた女子はやや苦しそうに答える。
「よし! 後は俺に任せとけ!」
勇次は背中に背負っていた大きな黒いケースから金棒を取り出すと、崖下に向かって勢いよくジャンプする。
「うおおおっ!」
勇次は着地と同時に、金棒を力いっぱい横方向に振るう。金棒の直撃を受けた周囲のからかさ小僧たちが撃破される。
「よし! これで終わりだ!」
「勇次君、まだよ!」
「何⁉ ――上に飛んだのか⁉」
愛の声に勇次は上を見上げると、上から降りてきたからかさ小僧が長い舌を伸ばして、勇次の手から金棒を掠め取る。
「しまっ……ぐっ!」
からかさ小僧はすぐさま距離を詰めると、一本足で強烈な蹴りを勇次の腹に見舞う。予期せぬ攻撃を喰らった勇次はその場にうずくまってしまう。
「ぐはっ……」
「……」
からかさ小僧は金棒を巻き付けた舌を振り上げる。
「マ、マズいにゃ! 誰か援護を!」
又左が指示を飛ばし、周辺にいた愛たちが助けに向かおうとするが、それよりも早く、からかさ小僧は舌を振り下ろす。勇次は思わず目を瞑ってしまう。
「―――⁉」
次の瞬間、勇次が目を開くと、白髪のミディアムボブでストレートの髪型をした女性が日本刀をからかさ小僧に突き立てていた。からかさ小僧は霧消し、女性が口を開く。
「最近、気の緩みが目立つぞ、鬼ヶ島勇次(おにがしまゆうじ)……」
「た、隊長……」
「この上杉山御剣(うえすぎやまみつるぎ)の隊の隊員がそんな調子では困るな……」
「す、すみません……」
「全員無事だな、それでは帰投する」
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