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第三章
第29話(3) 翼上にて
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「まさか、席も隣とは……」
「いや~気が合うね~良い気分だ~」
飛行機内で一慶がニコニコと笑みを浮かべる。
「私は気分が悪い……」
「えっ、もしかして乗り物酔い?」
「違う……」
「それとも俺の魅力に酔っちゃった?」
「もっと違う……!」
御剣は声を抑えながらも強く否定する。
「冗談だって~」
「大体だな……」
「うん?」
一慶が首を傾げる。
「風来坊を気取るなら風来坊らしく移動手段を取れ」
「な、なんだよ、風来坊らしくってのは……」
「例えばヒッチハイクするとか……」
「ああ……」
「海を泳ぐとか……」
「風来坊への誤解が酷いな」
「たんぽぽの綿毛に掴まって、風に乗るとか……」
「ファンシーだな」
「貴様なんぞそよ風に乗ってどこまでも飛んで行ってしまえ」
「もはや暴言じゃねえかよ」
「ふん……」
御剣が背もたれに寄りかかる。
「俺はあいつがいないときとかは、基本飛行機か新幹線移動だぜ?」
「なんだと?」
「お陰でマイレージがすごい貯まっているぜ」
「風来坊の風上にも置けん奴だな……」
「風来坊への偏見が酷いな。別に自由だろ、どんな移動手段を使ったって……」
「自由過ぎるんだ貴様は……隊の連中が迷惑しているぞ」
「うちの隊はみんな優秀だからな、大丈夫さ」
「確かに優秀だな……」
「だろ?」
「今回も石川県に隊舎を構える貴様の部隊に留守番を一部頼んだ……本来は隣県の富山のあの部隊にお願いした方が良いのかもしれんが……」
「なんか結構仲いいみたいだよな、うちの連中と……」
「貴様への愚痴ですっかり意気投合した」
「それはちょっと嫌だな……」
一慶が苦笑する。
「嫌なら態度を改めることだな」
「態度を改める?」
「ああ、少しは落ち着きというものを持て……」
「それならちょうど考えていることがあるんだ……」
「なんだ?」
「俺と御剣が付き合えば……」
「却下だ」
「なんでだよ」
「意味が分からん」
「分かるだろ、美しい花に蝶は止まるもんさ」
「蝶? むしろ蛾だろう」
「散々な言われようだな!」
「いや、てんとう虫か?」
「だから丸みで判断するなって」
一慶は自らの頭を撫でる。
「まあいい、休むから少し黙っていてくれ……」
御剣は目を閉じる。一慶が尋ねる。
「……北海道へはただの休暇じゃねえんだろう?」
「……なぜそう思う?」
「刀を持ち込んでいるからさ」
「そういう貴様だって得物を持ち込んでいるだろう。妖絶講ならば、そのあたりの根回しはなんとでもなる……」
「あの姉弟にもしっかり持ち込ませているじゃねえか」
一慶は通路を挟んで隣に座る鬼ヶ島姉弟に向けて顎をしゃくる。
「……とにかく、色々と忙しいんだ、休めるときに休みたい」
「向こうに着いたら手合わせしてくれよ」
御剣は目を開けて、起き上がる。
「聞いていなかったのか? 予定があるんだ」
「北海道観光するヒマも無いってことか」
「ああ、恐らくな」
「そりゃあ大変だな……でも待てよ?」
「なんだ……?」
御剣がうんざりしたように尋ねる。
「今ならヒマじゃねえか?」
「は?」
「いや、今なら空いているだろう?」
「だから休みたいと……」
「もし負けたら、今後一切手合わせしてくれとは言わねえよ」
「……その言葉、本当だな?」
「ああ、男に二言は無えよ」
「よかろう……」
飛行機の翼の部分に御剣と一慶が向かい合う。
「結構風が強いな~」
「勇次、無理するな」
御剣が翼に恐る恐る立つ勇次に声をかける。
「い、いえ、鬼の力を出せば……立っていられないことはないです! それよりもお二人のお手合わせを見て、少しでも学びたいんです!」
「なんとも殊勝な心がけだね~」
勇次の言葉に一慶が笑みを浮かべる。
「ああ、貴様に爪の垢でも飲ませたいな」
「飲むのは勝利の美酒さ……」
「抜かせ……」
御剣が鞘に手をかけ、一慶が長い槍を構える。
「……」
「………」
「二人とも手練れ……恐らく勝負は一瞬で決まるはず……」
「ああ……って、姉ちゃんも外に出てきたのかよ⁉ 危ねえぞ!」
「慣れれば案外なんてことはないわ。それより目を離さない方が良いわよ」
「あ、ああ……」
一美の言葉を受け、勇次は視線を御剣たちに戻す。
「へえ、面白そうなことをやってんじゃん……アタシも混ぜてくれよ」
「⁉」
勇次たちが視線を向けると、赤いジャージに身を包んだ、赤髪のツインテールの女が飛行機の胴体部分に胡坐をかいて座り、御剣たちを見下ろしていた。
「…………」
「……勝負は一瞬」
四人はすぐに視線を戻す。
「いや、全員揃って無視すんなし!」
「いや~気が合うね~良い気分だ~」
飛行機内で一慶がニコニコと笑みを浮かべる。
「私は気分が悪い……」
「えっ、もしかして乗り物酔い?」
「違う……」
「それとも俺の魅力に酔っちゃった?」
「もっと違う……!」
御剣は声を抑えながらも強く否定する。
「冗談だって~」
「大体だな……」
「うん?」
一慶が首を傾げる。
「風来坊を気取るなら風来坊らしく移動手段を取れ」
「な、なんだよ、風来坊らしくってのは……」
「例えばヒッチハイクするとか……」
「ああ……」
「海を泳ぐとか……」
「風来坊への誤解が酷いな」
「たんぽぽの綿毛に掴まって、風に乗るとか……」
「ファンシーだな」
「貴様なんぞそよ風に乗ってどこまでも飛んで行ってしまえ」
「もはや暴言じゃねえかよ」
「ふん……」
御剣が背もたれに寄りかかる。
「俺はあいつがいないときとかは、基本飛行機か新幹線移動だぜ?」
「なんだと?」
「お陰でマイレージがすごい貯まっているぜ」
「風来坊の風上にも置けん奴だな……」
「風来坊への偏見が酷いな。別に自由だろ、どんな移動手段を使ったって……」
「自由過ぎるんだ貴様は……隊の連中が迷惑しているぞ」
「うちの隊はみんな優秀だからな、大丈夫さ」
「確かに優秀だな……」
「だろ?」
「今回も石川県に隊舎を構える貴様の部隊に留守番を一部頼んだ……本来は隣県の富山のあの部隊にお願いした方が良いのかもしれんが……」
「なんか結構仲いいみたいだよな、うちの連中と……」
「貴様への愚痴ですっかり意気投合した」
「それはちょっと嫌だな……」
一慶が苦笑する。
「嫌なら態度を改めることだな」
「態度を改める?」
「ああ、少しは落ち着きというものを持て……」
「それならちょうど考えていることがあるんだ……」
「なんだ?」
「俺と御剣が付き合えば……」
「却下だ」
「なんでだよ」
「意味が分からん」
「分かるだろ、美しい花に蝶は止まるもんさ」
「蝶? むしろ蛾だろう」
「散々な言われようだな!」
「いや、てんとう虫か?」
「だから丸みで判断するなって」
一慶は自らの頭を撫でる。
「まあいい、休むから少し黙っていてくれ……」
御剣は目を閉じる。一慶が尋ねる。
「……北海道へはただの休暇じゃねえんだろう?」
「……なぜそう思う?」
「刀を持ち込んでいるからさ」
「そういう貴様だって得物を持ち込んでいるだろう。妖絶講ならば、そのあたりの根回しはなんとでもなる……」
「あの姉弟にもしっかり持ち込ませているじゃねえか」
一慶は通路を挟んで隣に座る鬼ヶ島姉弟に向けて顎をしゃくる。
「……とにかく、色々と忙しいんだ、休めるときに休みたい」
「向こうに着いたら手合わせしてくれよ」
御剣は目を開けて、起き上がる。
「聞いていなかったのか? 予定があるんだ」
「北海道観光するヒマも無いってことか」
「ああ、恐らくな」
「そりゃあ大変だな……でも待てよ?」
「なんだ……?」
御剣がうんざりしたように尋ねる。
「今ならヒマじゃねえか?」
「は?」
「いや、今なら空いているだろう?」
「だから休みたいと……」
「もし負けたら、今後一切手合わせしてくれとは言わねえよ」
「……その言葉、本当だな?」
「ああ、男に二言は無えよ」
「よかろう……」
飛行機の翼の部分に御剣と一慶が向かい合う。
「結構風が強いな~」
「勇次、無理するな」
御剣が翼に恐る恐る立つ勇次に声をかける。
「い、いえ、鬼の力を出せば……立っていられないことはないです! それよりもお二人のお手合わせを見て、少しでも学びたいんです!」
「なんとも殊勝な心がけだね~」
勇次の言葉に一慶が笑みを浮かべる。
「ああ、貴様に爪の垢でも飲ませたいな」
「飲むのは勝利の美酒さ……」
「抜かせ……」
御剣が鞘に手をかけ、一慶が長い槍を構える。
「……」
「………」
「二人とも手練れ……恐らく勝負は一瞬で決まるはず……」
「ああ……って、姉ちゃんも外に出てきたのかよ⁉ 危ねえぞ!」
「慣れれば案外なんてことはないわ。それより目を離さない方が良いわよ」
「あ、ああ……」
一美の言葉を受け、勇次は視線を御剣たちに戻す。
「へえ、面白そうなことをやってんじゃん……アタシも混ぜてくれよ」
「⁉」
勇次たちが視線を向けると、赤いジャージに身を包んだ、赤髪のツインテールの女が飛行機の胴体部分に胡坐をかいて座り、御剣たちを見下ろしていた。
「…………」
「……勝負は一瞬」
四人はすぐに視線を戻す。
「いや、全員揃って無視すんなし!」
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