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第一章

第4話(3)砂の夢世界

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「リハーサル、オッケーです」

「どーも、本番もよろしく!」

 赤髪の女性が颯爽とステージを降り、控室のテントに下がる。現が腕を組む。

「ううむ……」

「……」

「ん? どうした甘美?」

 甘美がテントへと足早に向かう。現がその後を慌てて追う。甘美がテントに入り、赤髪の女性に対して声を上げる。

「ギターの貴女! わたくしたちとバンドをやりましょう!」

「……はあ?」

 パイプ椅子に腰をかけていた赤髪の女性が首を傾げる。

「バンドをやりましょう!」

「断る」

「却下!」

「はあ⁉」

 甘美の言葉に赤髪の女性が面食らう。

「お断りされたことをお断りいたします!」

「わ、わけの分からんことを言うな!」

「とにかく一緒にバンドをやりましょう!」

「だから断るって言ってんだろう!」

「何故?」

 甘美が首を傾げる。

「アンタのことを知らねえ」

「わたくしは厳島甘美、こちらの胡散臭い巫女さんが隠岐島現」

 甘美が右手で自らの胸を抑え、左手で後方に立つ現を指し示す。

「胡散臭いってなんだ!」

 現が憤慨する。

「ああ、わざわざ広島から参加するデュオってのはアンタらのことか……」

 赤髪の女性が顎をさすりながら頷く。

「わたくしがボーカル担当、彼女がキーボード担当ですわ。当方、ギタリストを募集中でして……それも情熱的な!」

「うん?」

「貴女のパッション溢れる演奏、まさに理想的ですわ!」

「へえ、なかなか分かってんじゃねえか……」

「お?」

 赤髪の女性が笑う。現が様子をうかがう。

「だが……断る」

「ええ? 今のは入る流れでしょう⁉」

 甘美が驚く。

「なんだよ、流れって!」

「……どうしてですの?」

「アンタらの音楽を聴いたことがねえからだよ」

「む……」

「まあ、それはそうだろうな……」

 現が小声で呟きながら頷く。

「ならばこれからわたくしたちもリハーサルです! それを聴いてから判断しても遅くはないのではありませんか?」

「それ以前の問題のような気がするんだが……まあいいさ、聴かせてもらおうじゃねえか」

「行きますわよ、現!」

「あ、ああ……」

 甘美と現が衣装に着替え、ステージに上がり、リハーサルを開始する。

「~~♪」

「へえ……」

 甘美たちの演奏を聴いて、赤髪の女性は腕を組む。

「……はい、リハーサル、終了になります」

「ありがとうございました!」

「本番もよろしくお願いします」

 甘美と現は丁寧にお辞儀をして、ステージから下がる。

「いかがでしたかしら⁉」

 甘美は赤髪の女性に問う。

「……悪くはねえな。いや、むしろ良かったぜ、こういうところではまずお目にかかれるレベルじゃねえってことはよく分かった……」

「それならば!」

「ちょっと待てよ……今はバンドを組む気はねえんだ……」

 詰め寄ってくる甘美を赤髪の女性が手で制して落ち着かせる。

「……それはまたどうして?」

「答えたくないね……」

「知りたいですわ!」

「だ、だから答えたくないって言ってんだろ! うん……?」

「!」

 赤髪の女性がふらふらっとなり、椅子にもたれかかって眠ってしまう。

「zzz……」

「こ、これは……」

「甘美! 周りを見てみろ!」

「⁉」

 現の言葉に甘美は周りを見渡す。他のイベント出演者やスタッフなども眠ってしまったのである。現が首を傾げる。

「な、なんだ……?」

「どういうことですの?」

「しゅ、集団睡眠……か?」

「こういうケースは初めてですわね……」

「どうする?」

「まあ、こうなったらやることはひとつですわ」

甘美が赤髪の女性を指し示す。

「ま、まさか……」

「そのまさかですわ」

 甘美と現は赤髪の女性の近くに寄り添い、自分たちも眠りに入る。

「! こ、ここは……」

 現が驚く。そこには荒涼とした砂漠が見渡す限りに広がっていたからである。

「こういう夢世界もなかなか珍しいですわね……」

「赤髪の女性の夢世界で間違いないのか?」

「いえ、そういうわけでもないのでは?」

「なんだと?」

「他の方の夢世界も吸収しているのではないかと……」

「! そ、そんなことがあるのか⁉」

「ここまでの広さはそうでも考えてみないと説明がつきません」

 甘美が両手を広げる。現が戸惑いながらも頷く。

「まあ、それはそうかもしれんな……」

「あくまでも推測でしかありませんがね……」

「どうするんだ?」

「この夢世界のおボスさんを懲らしめるしかないかと……」

「ボスね……果たしてどこにいるのやら……」

 現が周囲を見渡す。甘美がすたすたと歩き出す。

「とにかく行きますわよ……」

「お、おい! 当てがあるのか⁉」

「あちらの方に……心なしかほとばしる情熱を感じます!」

「ば、漠然とし過ぎだろう!」

 広い砂漠の遠くの方をビシっと指差す甘美に現が困惑する。
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