上 下
122 / 355
ゲームの始まり

32

しおりを挟む
「お母さん!!」

「ローリー!!」

キャシーは、ローリーの小さな身体を力一杯抱き締めた。
涙を流すキャシーは、アズラエルの瞳にはこの間会った時のキャシーとは別人のように映った。
髪は乱れ目は充血し、肌の色艶は失われ、いっぺんに年を取ったように思えた。



「あ…ありがとうございました、アズラエルさん…」

「キャシーさん、一体何があったんです?
どうしてローリーはあんなことに…?
そういえば、ランディはどこですか?」

「実は……そのことは後でお話します。」

キャシーは、サマンサを呼んでローリーを預けた。
二人が部屋を出ていくのを見届けると、涙を拭いながら、最近の出来事を話し始めた。







「信じられない…あのルークがそんなことをするなんて…」

キャシーの口から出た話は驚くべき内容のものだった。
キャシーがこんなにもやつれている原因をアズラエルは納得した。



「私にも信じられませんでした。
私は、あの子のことを実の子と思って育てて来たのに、あんなことをするなんて…!
サマンサのことばかりか、ローリーを人買いに売るなんて…許せない…!絶対に許せない!!
あんな子、育てなきゃ良かった!」

キャシーの身体は怒りのためか、小刻みに震えていた。



「キャシーさん、とにかくローリーは無事に戻ったんだ。
あなたは少し休まれた方が良い。
このところ、眠ってらっしゃらないのではありませんか?」

「当たり前です!
娘がいなくなって、呑気に寝てられる母親なんていませんよ。
それに、あのルーク…あんな奴…殺してやりたいくらいです!」

キャシーは疲労のためか、神経も相当に高ぶっているように思われた。



「あなたのお気持ちはわかります。
ルークのことは、私がもう少し調べてみます。
明日にでも早速トレルの所へ行って…
……キャシーさん…どうかなさったんですか?」

キャシーの顔に脂汗が滲み、腹を押さえて身を縮めている。

「……お…おなかが…」

「おなかが痛いんですか?
ちょっと待って下さいね!」



アズラエルは家の者に声をかけた。



「キャシーさん、どうしたんだ?!」

すぐに駆け付けたランディの父親がキャシーの容態を見て顔色を変えた。



「これはまずい…!」

「キャシーさんはどうなんですか?」

「母さん…!!大丈夫…あ…血が……!!」

サマンサがキャシーの身体から流れ出る血を見て、声を上げた。
しおりを挟む

処理中です...