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ゲームの始まり

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「トレル!しっかりしなさい!!」

イアンがトレルの頬を打った。



「イアンさん、なんてことを…!!」

イアンの手を掴むランディをふりほどき、イアンはなおも言葉を続ける。



「私ははっきりとこの目で見ました!
あの後姿は…あなたを刺したのは…オルジェスです。
あなたが亡くなったら、私はそのことを世間に言いふらします。
……オルジェスはお尋ね者となり、きっとすさんだ人生を歩む事でしょう…
まだ18にして、あの子は陽の当たらない裏街道を歩むことになるのです。」

いつものイアンとは別人のようなものの言い様に、ランディは口をはさむことが出来なかった。



「イ…イアン…
なぜ、そんなことを…」

「そればかりか、オルジェスはルークをも巻きこんだ。
これから、彼はどれ程の人達に…どれ程の被害を与えるのでしょう…
やさぐれたオルジェスはこれから先、どれだけの人々に悲しみや苦しみを与えるかわかりません…」

「イアン…やめて…くれ…」

涙を流すトレルのその言葉に、イアンは首を振った。



「私はやめません。
あなたは、それを聞く義務があるのです。
そして、あなたは…あの子をそんな風にしてはならないのです。
あなたは…オルジェスを陽の当たる場所へ連れ戻さねばならないのです…!」

イアンはそう言うと、トレルの胸から短刀を引き抜いた。



「ランディさん、傷口を押さえて下さい!!」

引き抜かれると同時にトレルの胸から噴き出す赤黒い血を、ランディが両手で押さえ付ける。



「良いですか、トレル…あなたはあの子の父親なのです。
あなたは生きなければならない…どんなことをしても…」

「イ…イアン…
何を……ば…馬鹿な真似は…」

口からも血を吐きながら、トレルはイアンに向かって力なく片手を差し伸ばす…
トレルは、イアンの瞳に宿った悲しい決意に気がついていた。
しかし、それを止める間もなく、イアンは自分の胸に血の付いた短刀を深深と突き刺した。



「イアンさん!!な、何てことを…!!」

ランディの叫びにイアンはほんの僅かに微笑んだ。
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