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決意

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 「……てっ……」

 目を覚ましたルークは、頭に走った刺すような痛みに思わず顔をしかめる。
ふと見上げた時計の針はいつも起きるのとほぼ同じ時間を指していた。
ゆっくりと身体を起こし、水差しの水を一杯飲み干し、ルークは立ち上がる。




 「……オルジェス……?」

 部屋の中はしんと静まり、オルジェスの姿はどこにもなかった。
オルジェスがいないことはよくあること。
そのことをさして気に留めるでもなく、ルークは浴室に向かった。

 昨夜は、ルークの傷のことを考えて少しだけにしておけと言ったオルジェスだったが、ルークの心情を察し、結局、二人は朝まで一緒に酒を酌み交わした。
そのことで、二日酔いに悩まされることにはなったが、ルークの気分はずいぶんと軽くなっていた。



 「あ…オルジェス…」

 「もう起きたのか。
もう少し寝てりゃあ良いのに…
昨夜はあんなに飲んだんだからな。
……ところで、どうだ?傷の具合は…」

 「ありがとう、大丈夫だよ。
それよりも二日酔いの方が酷いよ。
 君はなんともないなんて羨ましいね。」

 「大丈夫か?薬を買って来てやろうか?」

 「……大丈夫だって。」

 優しくしてくれるオルジェスの態度に、ルークは俯いて失笑する。



 浴室から出ると、先程はいなかったオルジェスが戻っていた。
オルジェスはルークを椅子に腰掛けさせると、濡れた髪を乾かし、昨日と同じように丁寧に傷の手当てを施した。



 「……よし、これで大丈夫だ。」

 「ありがとう、オルジェス。
それと……昨夜のこともありがとう。」

 俯いたまま、どこか恥ずかしそうにルークは小さな声で呟いた。



 「よせよ、ルーク。
 恥ずかしいじゃないか。
……そんなことよりルーク、何か食いに行くか?
まだ何も食ってないんだろ?」

 「もう少ししてからにするよ。
 今はまだ何も食べたくないから。」

 「そうか……
 ……実はな、ルーク……」

 躊躇いがちにゆっくりとオルジェスが口を開いた。
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