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崩れる塔

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「そんなことはありません!
ディオは絶対に生きています!
セルギオス様、俺をロージックヘ…この結界の向こうへ送りこんで下さい!
 俺は絶対にディオを連れて帰ります!」

 「馬鹿なことを言うな!
おまえは、ラルフィンの王子なのだぞ!
そんな危険なことがさせられるか!」

 「俺がいなくても、ラルフィンのことは兄が守ってくれます。
それに、兄には息子もいる…
陛下、ディオは俺にとっては実の兄弟のような存在なんです!
このまま見過ごす事など出来ません。
あなたはディオがロージックに連れ去られたかもしれないというのに、このままにされるおつもりですか?
ですが、証拠もないうちにロージックに攻めこむわけにはいかない。
 誰かを送りこむにしても、適当な人物がいるでしょうか?
なによりも、リンガーの者だとバレれば両国の関係はますます悪くなります。
その点、俺ならリンガーの者ではありませんし、ラルフィンなんて北の小国のことをロージックの者達は知らないかもしれません。」

 「だ…だが……」

 「セルギオス様、あなたと俺の父親は固い友情で結ばれています。
このことを父が知れば、必ず、俺にディオを探しに行けと言う筈です。
たとえ、それで俺が命を落としたとしても、父は悲しむより俺のことを誇りに感じる筈です。」

 「マウリッツ……」

セルギオスは目を潤ませながら、マウリッツの両手を握り締めた。



 「感謝するぞ、マウリッツ。
ディオニシスのことはおまえに任せる事にしよう。
ただ、出発する前には出来る限りの装備と、リガスの術を身につけていってくれ。
そして、決して無理はせぬ事を約束してくれ。」

マウリッツは真っ直ぐにセルギオスの瞳をみつめ、ゆっくりと頷く。



 「ありがとうございます、セルギオス様。
 俺は絶対にディオを連れ帰ります!
 信じてお待ち下さい。
それと、一つお願いがあります。
 実は、もう一人連れて行きたい者がいるのです。」

マウリッツ達は準備を整えるため、一旦、宿舎へ戻ることにした。 
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