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崩れる塔

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「ここから落ちたのかな…なんだかいいかげんな柵だもんなぁ…
確かにこのあたりには人気はないが、それにしてもあれを誰も気付かないなんてことがあるか?」

 「いや……あんな見通しの良い場所ならきっと誰か気付く筈だぞ。」

 二人は足元に気を付けながら、眼下の遺体について話し合う。



 「あんたら、死体を見たのは初めてなのか?」

 不意にかけられた声に、マウリッツとウォルトは身体のバランスを崩しながら振り返る。



 「あ、あんた、いつからそこに…」

 「いつからって今だけど…それがどうかしたかい?」

そこに立っていたのは、まだ若い小柄な男だった。



 「おまえ…もしかして魔導師なのか!?」

ウォルトの右手が、密かに腰の短刀に伸ばされた。



 「当たり前だ。
そうじゃなきゃ、こんな場所にこんな軽装で来てる筈ないだろ。
……あんた達、見た所、けっこう疲れてるみたいだけど、なんなら麓まで送ってやろうか?」

 「ほ、本当か!
ぜひ、頼むよ!
いやぁ、助かった!
 君みたいな親切な人に出会えて…」

 満面の笑みで、男の片手を握ったマウリッツを、男は呆れたような顔でみつめる。



 「……ははぁ…わかったぞ。
あんたら、この山に登るのは初めてなんだな。
……もしかして、田舎から来たのか?
ロージックも初めてなんじゃないのか?」

 「い、田舎とは酷いな。
まぁ、確かにあんたの言う通り、ロージックに来たのもこの山に登ったのも初めてだけど…」

マウリッツの言葉に、男は満足げに頷いた。



 「やっぱりそうか。
なら、教えてやるよ。
あんたらみたいな田舎から来た新米のトレジャーハンターが、無理して山に登ったは良いが、疲れたり具合が悪くなったり迷ったりして降りられなくなって、中には死んだりすることもけっこうあるんだ。
 俺達はそういう人達を麓に送ってやる代わりに金をもらう。
まぁ、確かに安いとは言えないが、命には換えられないだろ?
この山にはこういう仕事をしている魔導師がけっこういるんだが、その中でも俺は良心的な方だ。
あんたら運が良いぜ。」

そう言って、男は笑顔で片目をつぶって見せた。
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