あれこれ短編集

ルカ(聖夜月ルカ)

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幻想チョコレート

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次の朝、俺はぐちゃぐちゃになった部屋で目を覚ました。
昨夜の自棄酒のせいか、頭の芯が痛む。
一晩経っても昨夜の悔しさは少しも薄らいではいなかった。
いや、なおさら、募っていたようにも思える。



この最悪なバレンタインデーを忘れるためにはどうするべきか…
……そうだ!
チョコを山ほど食べよう!
もらえなかったら自分で買えば良いだけのことだ!
俺は、最近、テレビで見たなにやらとてつもなく高級なチョコレートを売る店のことを思い出した。
一粒が数千円もするような高級なチョコもあり、その味は絶品なのだとか…
もしかしたら、今年は一人くらい、その店のチョコレートを持って来てくれる子がいるかもしれないと密かに期待していた。



(そうだ!その店で最高のチョコを山ほど買って来よう!)



俺は、立ち上がった。
ネットでその店の場所を調べ、すぐにその店に向かった。








(あそこだな!)



店はすぐに見つかった。
しかし、その店の前にはドアマンの女性が立ち、並んだ客を数人ずつ店に入れていた。
そう言えば、チョコのために店内の温度を一定に保っているとか言っていた。
だから、お客もいっぺんにたくさんは入れないんだ。
なんて繊細なチョコなんだろう!
チョコへの想いがさらに熱くなる…
店の前に並んでる客達はけっこういる…どのくらい待たされるのだろうか?
しかし、ここまで来て帰る訳にはいかない。
列に加わろうとした時、俺は、同じ店の真人の姿を見かけた。



(ヤ、ヤバイ!)



俺は咄嗟に物陰に身を隠した。
今日は俺は出かけるって言っておいたが、一人でチョコレート屋に並んでる所を見られたら…
俺は甘い物が嫌いだと思われているから誰かに贈るためだとでも言うか?
でも、そしたら誰に贈るんだって詮索される?
真人は、詮索好きでおしゃべりな男だから、家までくっついてくるかもしれない。
もう少ししてから並ぶか?
いや、でも、どうせ長い間、並ばなきゃならないんだ。
その間に他の者に見られる可能性だってある…



(どうしよう…?!)



 俺はしばらく物陰に潜んで考えていたが、良い案が思い浮かばず、結局、諦めてタクシーに乗りこんだ。

 
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