あれこれ短編集

ルカ(聖夜月ルカ)

文字の大きさ
336 / 406
虹色の雨が降る

しおりを挟む

……その星は乾ききっていた。




「ライアン…私、もう歩けない。」

そう言うと、女性はその場にがっくりと膝を着いた。
焼けた赤い砂の中に、彼女の痩せこけた身体が沈む。



「ここまで来て何を言ってるんだ。
僕達、みんなに誓ったじゃないか!
必ず楽園に辿り着くって!」

「そんなもの……そんなもの、ただの伝説よ!
楽園なんてあるはずがないのよ!」

女性は感情的に叫び、その瞳から流れた熱い涙が、噴き出す汗と混じり合う。



「アイリス……
わかったよ……
でも、あと少しだけ……
そうだ!僕が君を背負って歩くから……だから、僕が歩けなくなるまでつきあって……」

アイリスの前に身をかがめたライアンに、彼女は涙を拭いゆっくりと立ち上がった。



「あなたにそんな力は残ってないでしょ……」

衣服に着いた砂を払おうともせず、立ち上がったアイリスはただ黙々と歩き始めた。
ライアンは何も答えず、アイリスの後に続く。



二人が足を進める度に舞い上がる砂埃……
どこを見ても目に映るのは赤茶けた砂と所々に残る朽ち果てた建物だけ。



二人が生まれた頃からこの星の異変はすでに始まっていた。
彼らに物心が着いた頃には、雨は年に一度か二度しか降らず、作物は実らなくなっていた。



東の最果ての地にあるという楽園の噂をライアンが耳にしたのは、二年程前のことだった。
生き残った者達で作った避難場所に潜んでいても、そう長くは生きられないことはそこにいる誰もが知っていた。
だからこそ、ライアンを先頭に、二十名弱の男女が楽園を求めて旅に出た。
その間に、仲間達は次々と命を落とし、気が付けば、残ったのはライアンとアイリスの二人となっていた。
しかし、そんな二人も、自分達に残された時間がそう長くないことははっきりと感じていた。







「アイリス……
やっぱり、楽園なんてただの伝説だったんだね。
すまなかった…こんなことに付き合わせて……」

数日後、ライアンの口から飛び出た言葉は今までとは違う本音だった。



「いいのよ…
どこにいても何をしていても、きっと結果は同じ……
避難所の皆も、今頃どうなってるか……
あんな暗くて狭苦しい所にいるよりは、私達はまだ……あら?」

アイリスは汚れた袖で、今一度目をこすり、先程と同じように空を見上げた。



「ライアン、あれを見て!」

「あれって……あっ!」



二人の目に映ったのは、太陽の光を不自然に反射するドーム状のものだった。



「あなたにもなにか見える?」

「あぁ、確かにおかしなものが……まさか、あれが楽園…?」

「行ってみましょう!」

今までの疲れが嘘のように身体には活力がみなぎり、おかしな反射のある場所に向かって二人は駆け出した。







「本当にあったんだ…」

「私達…やっとみつけたのね……」



ライアンが、恐る恐るドーム状のべールに手を伸ばすと、それは何事もなく彼の手を受け入れた。



「入ってみよう。」

「……ええ。」



「すごいや!植物がこんなに……」

「それに寒いわ!」

ドームの中は一歩外とは別世界だった。
二人がもう何十年も見ていなかった植物の緑が茂り、身を焦がすような暑さもなかった。



「なんだか良い香りがするね……」

「本当……」

「あ……雨だ!」

「まさか…!?」



二人が見上げた、丸く囲まれた空から、彼らが忘れかけていた懐かしい雨が降り注ぐ。




「なんて綺麗なんでしょう……」

「まるで虹の欠片みたいだね!」



それが二人の最後の会話だった。



意識を失い、その場に倒れ込んだ二人の身体を冷たい雨がゆっくりと溶かしていく……

長い時間をかけて、二人の身体は跡形もなく雨に流れた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

処理中です...