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虹色の雨が降る
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しおりを挟む……その星は乾ききっていた。
「ライアン…私、もう歩けない。」
そう言うと、女性はその場にがっくりと膝を着いた。
焼けた赤い砂の中に、彼女の痩せこけた身体が沈む。
「ここまで来て何を言ってるんだ。
僕達、みんなに誓ったじゃないか!
必ず楽園に辿り着くって!」
「そんなもの……そんなもの、ただの伝説よ!
楽園なんてあるはずがないのよ!」
女性は感情的に叫び、その瞳から流れた熱い涙が、噴き出す汗と混じり合う。
「アイリス……
わかったよ……
でも、あと少しだけ……
そうだ!僕が君を背負って歩くから……だから、僕が歩けなくなるまでつきあって……」
アイリスの前に身をかがめたライアンに、彼女は涙を拭いゆっくりと立ち上がった。
「あなたにそんな力は残ってないでしょ……」
衣服に着いた砂を払おうともせず、立ち上がったアイリスはただ黙々と歩き始めた。
ライアンは何も答えず、アイリスの後に続く。
二人が足を進める度に舞い上がる砂埃……
どこを見ても目に映るのは赤茶けた砂と所々に残る朽ち果てた建物だけ。
二人が生まれた頃からこの星の異変はすでに始まっていた。
彼らに物心が着いた頃には、雨は年に一度か二度しか降らず、作物は実らなくなっていた。
東の最果ての地にあるという楽園の噂をライアンが耳にしたのは、二年程前のことだった。
生き残った者達で作った避難場所に潜んでいても、そう長くは生きられないことはそこにいる誰もが知っていた。
だからこそ、ライアンを先頭に、二十名弱の男女が楽園を求めて旅に出た。
その間に、仲間達は次々と命を落とし、気が付けば、残ったのはライアンとアイリスの二人となっていた。
しかし、そんな二人も、自分達に残された時間がそう長くないことははっきりと感じていた。
*
「アイリス……
やっぱり、楽園なんてただの伝説だったんだね。
すまなかった…こんなことに付き合わせて……」
数日後、ライアンの口から飛び出た言葉は今までとは違う本音だった。
「いいのよ…
どこにいても何をしていても、きっと結果は同じ……
避難所の皆も、今頃どうなってるか……
あんな暗くて狭苦しい所にいるよりは、私達はまだ……あら?」
アイリスは汚れた袖で、今一度目をこすり、先程と同じように空を見上げた。
「ライアン、あれを見て!」
「あれって……あっ!」
二人の目に映ったのは、太陽の光を不自然に反射するドーム状のものだった。
「あなたにもなにか見える?」
「あぁ、確かにおかしなものが……まさか、あれが楽園…?」
「行ってみましょう!」
今までの疲れが嘘のように身体には活力がみなぎり、おかしな反射のある場所に向かって二人は駆け出した。
*
「本当にあったんだ…」
「私達…やっとみつけたのね……」
ライアンが、恐る恐るドーム状のべールに手を伸ばすと、それは何事もなく彼の手を受け入れた。
「入ってみよう。」
「……ええ。」
「すごいや!植物がこんなに……」
「それに寒いわ!」
ドームの中は一歩外とは別世界だった。
二人がもう何十年も見ていなかった植物の緑が茂り、身を焦がすような暑さもなかった。
「なんだか良い香りがするね……」
「本当……」
「あ……雨だ!」
「まさか…!?」
二人が見上げた、丸く囲まれた空から、彼らが忘れかけていた懐かしい雨が降り注ぐ。
「なんて綺麗なんでしょう……」
「まるで虹の欠片みたいだね!」
それが二人の最後の会話だった。
意識を失い、その場に倒れ込んだ二人の身体を冷たい雨がゆっくりと溶かしていく……
長い時間をかけて、二人の身体は跡形もなく雨に流れた。
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