あれこれ短編集

ルカ(聖夜月ルカ)

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2007クリスマス企画

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「それはともかく、なんでぶつかりたいなんて祈ったんだい?」

「え?そ、それは…」

多分、焦って咄嗟にいつもの妄想癖が出てしまったんだ。
男女がぶつかるっていうのは、恋の始まりとしてよく使われるシーンだから…



「なんだ、そんなことだったのか…」

「また人の思考を読んだな!!」

「ねぇ…よく考えてごらんよ。
 君、今までそんなことあった?
 好きな人とたまたま曲がり角でぶつかるなんてこと?」

 「…そりゃあ、ないけど…」

 「でしょ?
ああいうのはめったにないことなんだよ。
よくあるのは漫画と小説の中だけ。
現実にはまずないと思う。
だから、それが叶うなんてすごいことだよ!」

「え…?それじゃあ、さっきの願い、叶えてくれるの!?」

トナカイはうん、うんと頷いた。



「や、やった!」

「感謝しておくれよ!」

 「もちろんよ!ありがとう!」

 「……意外と素直なんだね。
とにかく、僕が必ず君と架月君をぶつけてあげるから、そこから先は君の頑張り次第だよ!」

 「えっ?!頑張ればなんとかなるの?
架月とラブラブになれるの!?」

 「なるかもしれないし、ならないかもしれない。
 僕はキューピッドじゃないからそこまではわからないけど、きっかけを生かすも殺すもそれは君次第なんじゃない?」

 「そうね!あんたの言う通りだわ!
イヴにはまだ一週間程あるし、きっかけがあるってことは、希望はあるってことよね!!」

 「確かに、その通りだね。」

 「ありがとう~!!
 本当にあんたには感謝してるわ!
みかん食べてよ!私がむいてあげるから!」

 「いいよ、みかんは…」

 「そんなこと言わないで!
 冬はビタミンCを採った方が風邪ひかないのよ!
あんた、これからもいろんな人のお願い事を叶えに行くんでしょう?」

 「僕、妖精だから風邪なんてひかないし…」

 「はいはい!!ごちゃごちゃ言ってないで食べなさいって!」

 私は、せっせとみかんをむいてはトナカイの口に詰めこんだ。



「ご、ごちそうさま。じゃあ、僕は行くから…」

トナカイはもごもごとそう言って、壁をすり抜け、そのまま消えて行った。




 (嘘……)



トナカイが通り抜けて行った壁は、固くてとてもすり抜けられるものじゃない。
いまだ信じられない気はするものの…
でも、せっかくのチャンスを無駄にするわけにはいかない。



「こうしてはいられないわ!
 頑張らなくっちゃ!」

 気合いのこもった独り言を残して、私は部屋を出た。

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