ラッキーアイテムお題短編集1

ルカ(聖夜月ルカ)

文字の大きさ
32 / 32
使わなくなった鍵(うお座)

しおりを挟む
「今日からここが私達のお城なのね!」

「そうだよ。
さぁ、お妃様…城の中へどうぞ!」

俺はふざけて大袈裟に手を広げ、妻を家の中へ誘った。
妻は俺が今まで見たことがない程の輝く笑顔を浮かべ、新居に足を踏み入れた。
玄関から始まり、部屋の中のどこを見ても妻は感嘆の声を上げ、まるで子供のようにはしゃぎ回る。
この家を建てる時までにはずいぶんと悩んだり考えたりしたこともあった。
特に資金的なことでは悩んだが、これほど喜んでもらえるのなら、無理して建てた甲斐があったと、俺の気持ちもすっきりと晴れ渡った。



「あれ…?」

勝手口を見ていた妻の様子が不意に変わった。



「何?」

「う…ん…」

妻が何を言おうとしているのか、俺には察しが付いていた。



「ここって…」

「レトロで良くない?」

妻が何かを言う前に、俺はそう言って微笑んだ。

妻が気にしていたのは、誰が見てもこの台所には不似合いな勝手口の扉だ。
妻の希望で作られたモダンな赤と黒で統一された台所。
なのに、その勝手口の扉は茶色いごく普通の木の扉。
実は、その扉は俺の想いがこもったものだった。
扉の鍵は俺が昔住んでた家の鍵。
無理を言って、俺はその鍵に合う鍵穴を作ってもらい、扉も俺の家のものに似たものにしてもらった。

家族の楽しい思い出が染みこんだあの家は今では大きな道路になっている。
特に大きくも立派でもなく、使い勝手が良かったわけではなかったが、あの家はまさに俺達家族の憩いと安らぎの場所だった。
皆で笑い、時には喧嘩をし、苦しい時も悲しい時も、皆で支えあい、暮らして来た家が俺達家族は皆大好きだった。
家が取り壊される事になった時は皆で泣いた。
家がなくなった後も、俺はあの家の鍵を捨てることが出来なかった。
結婚し、ようやく家を建てることになった時、俺はあの鍵を新居のかぎにすることを考えた。
だが、防犯上、あんな古い鍵は使えないと反対され、それならと勝手口に使う事で妥協した。
俺の新しい家がまたあんな楽しい家になるように…俺は扉に願いをかけた。
妻も知らない俺だけのセンチな秘密だ。 
 
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

あなたの愛はいりません

oro
恋愛
「私がそなたを愛することは無いだろう。」 初夜当日。 陛下にそう告げられた王妃、セリーヌには他に想い人がいた。

思いを込めてあなたに贈る

あんど もあ
ファンタジー
ファナの母が亡くなった二ヶ月後に、父は新しい妻とその妻との間に生まれた赤ん坊を家に連れて来た。義母は、お前はもうこの家の後継者では無いと母から受け継いだ家宝のネックレスを奪うが、そのネックレスは……。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

処理中です...