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scene 8
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教会の壁を手で探ると、イアンは辺りを軽く見回した。
人目がない事を確認してから、そこをゆっくりと押す。
ギギギ……壁の一部が軋んだ音を立てて動いたかと思うと、目の前に暗い空間が現れた。
蝋燭を手にすると、彼は足元を照らしながら奥へと歩き出す。
湿った空気が充満した細い通路を抜けると、小さいながらもポカリとした空間に来た。
石に囲まれたそこには、棺(ひつぎ)が1つ…。
イアンは石のテーブルに蝋燭を置くと、塵(ちり)の積もった棺に手を乗せポツリ呟いた。
「ラグス…お前が命を懸けて封じた悪魔が、再び目覚めてしまったよ…」
かつての親友が眠る箱。
2度と開ける事がないよう祈っていたのだが、そうもいかない事態が起こってしまった。
イアンは重い蓋に手を掛けると、棺を開ける。
そこには、亡骸と小さなロザリオ…。
『イアン…どうかあの子を…』
彼の瞳に映るものは、遠い昔の幻影。
今でも耳に残る言葉。
最後の最後まで、ラグスは息子の未来を案じていた。
コンジュラシオンではなく、1人の父親として。
幻影の彼は、肉体を失った今でもここにいる。
オルジェの事が心残りで仕方ないのだろう…。
「ラグス、行ってくるよ。お前の息子は私が必ず守ってやる…心配するな」
小さく微笑むと、イアンは親友の片見のロザリオを首に掛けた。
*
エルスールは湖の畔で1人、膝を抱えて座っていた。
彼女はトレルに会えた嬉しさよりも、奇妙な違和感に苛立ちを感じていた。
上手く説明できない…が、いつもの彼と何かが違う。
いや、彼だけではない。
いつもと変わりない日常の中、そこにいる者全てがギクシャクしているような感じがしていた。
トレルもオルジェもランディも皆、普通を装って芝居をしているような…。
(いや、きっと私の思い違いだ)
ルシファーの名を語ったオルジェに会ってから、神経質になり過ぎているのかもしれない…。
(……でも……)
瀕死の自分に使った治癒の力を、オルジェが一時的に悪魔に体を乗っ取られていただけと聞き流していいものか…エルスールは判断し兼ねていた。
(私がいない間に、何かがあったのではないか)
浮かんでは消える不安の中に、彼女はある小さな変化を見落としている事に気がついた。
人目がない事を確認してから、そこをゆっくりと押す。
ギギギ……壁の一部が軋んだ音を立てて動いたかと思うと、目の前に暗い空間が現れた。
蝋燭を手にすると、彼は足元を照らしながら奥へと歩き出す。
湿った空気が充満した細い通路を抜けると、小さいながらもポカリとした空間に来た。
石に囲まれたそこには、棺(ひつぎ)が1つ…。
イアンは石のテーブルに蝋燭を置くと、塵(ちり)の積もった棺に手を乗せポツリ呟いた。
「ラグス…お前が命を懸けて封じた悪魔が、再び目覚めてしまったよ…」
かつての親友が眠る箱。
2度と開ける事がないよう祈っていたのだが、そうもいかない事態が起こってしまった。
イアンは重い蓋に手を掛けると、棺を開ける。
そこには、亡骸と小さなロザリオ…。
『イアン…どうかあの子を…』
彼の瞳に映るものは、遠い昔の幻影。
今でも耳に残る言葉。
最後の最後まで、ラグスは息子の未来を案じていた。
コンジュラシオンではなく、1人の父親として。
幻影の彼は、肉体を失った今でもここにいる。
オルジェの事が心残りで仕方ないのだろう…。
「ラグス、行ってくるよ。お前の息子は私が必ず守ってやる…心配するな」
小さく微笑むと、イアンは親友の片見のロザリオを首に掛けた。
*
エルスールは湖の畔で1人、膝を抱えて座っていた。
彼女はトレルに会えた嬉しさよりも、奇妙な違和感に苛立ちを感じていた。
上手く説明できない…が、いつもの彼と何かが違う。
いや、彼だけではない。
いつもと変わりない日常の中、そこにいる者全てがギクシャクしているような感じがしていた。
トレルもオルジェもランディも皆、普通を装って芝居をしているような…。
(いや、きっと私の思い違いだ)
ルシファーの名を語ったオルジェに会ってから、神経質になり過ぎているのかもしれない…。
(……でも……)
瀕死の自分に使った治癒の力を、オルジェが一時的に悪魔に体を乗っ取られていただけと聞き流していいものか…エルスールは判断し兼ねていた。
(私がいない間に、何かがあったのではないか)
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