1ページ劇場③

ルカ(聖夜月ルカ)

文字の大きさ
47 / 401
笑顔

しおりを挟む
「お母ちゃん、洗濯もの取って来たよ。」

 「ありがとうね。」

 私は、茶碗洗いを手早く済ませ、洗濯ものを畳もうと部屋へ戻った。



 「あ…あんた達…」

 娘の祥と、息子の淳が、おぼつかない手つきで洗濯ものを畳んでいた。



 今日、子供たちがこんな風に積極的にお手伝いをしてくれるわけを私は知っている。



そう…今日は氷の朔日…
子供達は、凍み餅が食べられると楽しみにしているのだ。



とても気分が重くなった。



 今年のお正月は、お雑煮に使う分しかおもちが買えなかった。
だから、当然、凍み餅も作ってない。



とても言いにくい…
ふだんから、おやつはなかなか食べさせてあげられない。
だからこそ、子供たちが今日の凍み餅をどれほど楽しみにしているかもよくわかる。
なのに、その凍み餅さえ食べさせてあげられないことが、とても情けなかった。



 「あのね…祥…淳…」

 「なぁに?」

 私をじっと見るふたりに、次の言葉が詰まってしまった。



 「あのね…実はね…」



 「こんばんは!」



ちょうど、その時、玄関先で声がした。



 「はい。」

 出てみると、それは工場の同僚の吉岡さんだった。



 「吉岡さん…どうかされたんですか?」

 「あ、あぁ…今年は母が凍み餅を作りすぎてね。
とても食べきれないから、持って来たんだ。
つまらないものだけど、良かったら食べてくれないかな。」

 「えっ!あ、ありがとうございます。」

 包みはずっしりと重かった。



 「じゃあ、また、明日ね。」

 「あ、吉岡さん…お茶でも…」

 「いや、家で母さんが待ってるから。」

 吉岡さんは、手を振り、そそくさと去って行かれた。



うちが貧しいことを知っていて持ってきて下さったのかどうかはわからないけど、そんなことはかまわない。
私の気持ちは、いただいた凍み餅のおかげで一気に晴れた。



 私は、凍み餅をあげる準備に取り掛かった。
 子供達の喜ぶ顔を思い浮かべながら…

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

皆さん、覚悟してくださいね?

柚木ゆず
恋愛
 わたしをイジメて、泣く姿を愉しんでいた皆さんへ。  さきほど偶然前世の記憶が蘇り、何もできずに怯えているわたしは居なくなったんですよ。  ……覚悟してね? これから『あたし』がたっぷり、お礼をさせてもらうから。  ※体調不良の影響でお返事ができないため、日曜日ごろ(24日ごろ)まで感想欄を閉じております。

届かない手紙

白藤結
恋愛
子爵令嬢のレイチェルはある日、ユリウスという少年と出会う。彼は伯爵令息で、その後二人は婚約をして親しくなるものの――。 ※小説家になろう、カクヨムでも公開中。

初恋が綺麗に終わらない

わらびもち
恋愛
婚約者のエーミールにいつも放置され、蔑ろにされるベロニカ。 そんな彼の態度にウンザリし、婚約を破棄しようと行動をおこす。 今後、一度でもエーミールがベロニカ以外の女を優先することがあれば即座に婚約は破棄。 そういった契約を両家で交わすも、馬鹿なエーミールはよりにもよって夜会でやらかす。 もう呆れるしかないベロニカ。そしてそんな彼女に手を差し伸べた意外な人物。 ベロニカはこの人物に、人生で初の恋に落ちる…………。

あの素晴らしい愛をもう一度

仏白目
恋愛
伯爵夫人セレス・クリスティアーノは 33歳、愛する夫ジャレッド・クリスティアーノ伯爵との間には、可愛い子供が2人いる。 家同士のつながりで婚約した2人だが 婚約期間にはお互いに惹かれあい 好きだ!  私も大好き〜! 僕はもっと大好きだ! 私だって〜! と人前でいちゃつく姿は有名であった そんな情熱をもち結婚した2人は子宝にもめぐまれ爵位も継承し順風満帆であった はず・・・ このお話は、作者の自分勝手な世界観でのフィクションです。 あしからず!

望まない相手と一緒にいたくありませんので

毬禾
恋愛
どのような理由を付けられようとも私の心は変わらない。 一緒にいようが私の気持ちを変えることはできない。 私が一緒にいたいのはあなたではないのだから。

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

帰国した王子の受難

ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。 取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。

処理中です...