1ページ劇場③

ルカ(聖夜月ルカ)

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夏の盛りに

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(……ん?)



ある暑い夏の日…
俺のポストに、見慣れないものが入ってた。
いつもなら公共料金の請求書やら家電店からのDMくらいなのに、なにやら目を引く赤いものが…



(わ……)



それは、暑中見舞いのはがきだった。
 軒下の風鈴が風に揺れ、縁側に真っ赤なすいかが置いてある。
 背景は、夏らしいオレンジ色から黄色のグラデーションで、なかなかにうまい絵だ。



 (あれ?)



 差出人の名前がない。
だけど、あて先は間違いなく俺の住所と名前だ。



 (一体、誰がこんなものを…?)



 考えてみても、思い当たる人物がいない。
 俺は今、付き合ってる人はいないし、友達にもわざわざ暑中見舞いをくれるような奴は思い当たらない。
そうだよ…
そもそも、暑中見舞いなんて滅多にもらったことがない。
 最後にもらったのがいつだったか、思い出せないくらい、滅多に来ないものだ。



そんなことを思ったら、なおさら誰からのものなのか、気になってきた。
 宛先は、パソコンで打ったような感じだから、男か女なのかの手掛かりにさえならない。
でも…暑中見舞いなんて、普通、男は出さないんじゃないだろうか?



 (だったら、女…?)



こんな風流なことをする女性…
俺は、頭をめぐらせる…



(ま、まさか、美鈴ちゃん?)



 美鈴ちゃんっていうのは、うちの課のマドンナだ。
 若いのに、古風なところがある子で、髪も染めてないし、ミニスカートもはかない、言葉遣いも綺麗な子だ。
しかも、絵が得意だって聞いたことがある。



そうだ、美鈴ちゃんならこんなのを送ってくれても不思議はない。
でも、もしもそうだとしたら、みんなに送ったんだろうな。
まさか、俺にだけ…なんてことがあるはずはない。



 *



 「岡田…暑中見舞いなんて出すことあるか?」

 「暑中見舞い?いや~、まず出さないな。」

 「じゃ、じゃあ、もらうことは?」

 「いや、ない。」



 次の日、俺は、同僚に暑中見舞いのことを訊ねてみた。
だけど、誰ももらってないとのこと。



まさか、美鈴ちゃん…俺だけに?



ちらっと美鈴ちゃんを見たら目が合って、彼女は俺に微笑んでくれた。
 何を考えてるんだ。
 彼女は目が合ったり話したりする時はいつでも笑顔を返してくれる。
 特別なことじゃない。
 静まれ!俺の鼓動!



 家に帰り、また例の暑中見舞いを眺める。
なんだか顔がにやけてしまう…



いやいや、そんなことがあるはずない!
 美鈴ちゃんが俺だけに暑中見舞いをくれるなんて…そうだ、そんなうまい話があるはずない!



 (あ!そうだ!)



 俺は実家に電話をかけた。
まさかとは思うけど、あれくれたの、母さんじゃないだろうな。



 「はい、三浦です。」

 「あ、父さん…母さんはいる?」

 「母さんなら、カラオケに行ってるぞ。」

またか。
 母さんは本当にカラオケが好きなんだから…



「そう…じゃあ、帰って来たら電話くれるように伝えてよ。」

 「わかった。何か急用なのか?」

 「いや…たいしたことじゃないんだ。じゃあ…」

 「あ!ヒカル、届いたか?」

 「……届いたって、何が?」

 「暑中見舞いだ。なかなかうまく描けてただろう?」

 「えーーーっ!じゃあ、あれ、父さんが…?」

 「あぁ、最近、絵手紙教室に通い始めてな…」



やっぱりか…現実はたいていこんなもんだ。



 (明日、すいか、食べようかな…)



 暑中見舞いのすいかを見ながら、俺はそう思った。

 
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