1ページ劇場③

ルカ(聖夜月ルカ)

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いくつになっても

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「綺麗……」

 「うん、可愛いっていうか…大好き。」

 私たちは、綺麗に飾られたお雛様を前に微笑んだ。



 私とさやは双子の姉妹。
お誕生日は3月の3日。
そう、お雛祭りの日だ。
この日、私達はいつもよそ行きの服か着物を着せてもらい、プレゼントをもらって、特別な一日を過ごす。
 家族や友達や親戚にちやほやされ、最高の気分を味わう。
このお雛様も、おじいちゃんにお誕生日のお祝いとして買ってもらったものだ。



うちのお雛様は七段飾りの立派なもので、見に来た友達は、みんな「すごいね!」って言ってくれた。
 小さいうちは、並べ方もわからなかったし、お雛様とお内裏様しかわからなかったけど、大きくなるにつれ、並べ方も、各お人形の役割や道具の名前もわかるようになった。



お雛祭りが近付いて来ると、私もさやも落ち着かなくなる。
お母さんに早く出して!ってねだって、お雛様が飾られると今度は誕生日が楽しみになって来て…
とにかく、2月から私達はずっとそわそわしていた。
そして、お雛祭りが終わったら、私達にとってとても寂しいことが待っている。
そう、お雛様をしまうという作業だ。



 小さい頃、私達はお雛様をしまわないでと泣いてせがんだ。



 「どうしてずっと出してちゃだめなの?」

 「早く仕舞わないと婚期が遅れるからよ。」

 「婚期って何?」

 「結婚する時期のことよ。」

 「私、結婚するの遅くても良いから!」

 「私も!」



そんな会話を交わし、お母さんを困らせた。
 結局、我が家では三月中はたいていお雛様が飾られていた。



 *



 「今年からは、お雛様をすぐに片付けるわよ。」

 「えっ!?どうして?」

 「どうしてって…あなたたち、今年で33歳なのよ。
なのにまだどっちもお嫁に行ってない。
お雛様をすぐに仕舞わなかったせいだわ。」

 「お母さん、何言ってるの。
 今は、婚期が遅くなってるの。
 33なんて、まだ全然大丈夫だって。」

 「そうそう、焦ることなんてないない。」



そんな私達に、お母さんは小さな溜め息を吐き出した。



 「本当に綺麗ね。」

 「うん、お雛様見てると、なんか落ち着くよね。」

お雛様を前にして私達は顔を見合わせて微笑む。
いつまでも、皆でこんな穏やかなお雛祭りが迎えられたら良いな…なんて、思いながら…
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