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お隣さんは花粉症
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「あの……」
「は、はい。」
(げっ…)
声を掛けられ振り向くと、そこには怪しい人がいた。
大きなマスクに目にはゴーグルっぽい眼鏡をかけていて、うさぎみたいに赤いその目はぼんやりとしていた。
きっと、花粉症なんだろうけど、何とも大変そうだ。
「このあたりにコンビニがあるはずなんですが、ご存知ですか?」
酷く鼻にかかった声で、その人はそう言った。
「あぁ、コンビニなら次の角を曲がってすぐですよ。」
「そうですか、どうもありがとうございます。」
歩いて行く後ろ姿も、なんだか足に力が入ってないように見える。
(花粉症って大変なんだな。)
幸いなことに私はまだ花粉症デビューしていない。
気の毒なその人を見ながら、出来ることならデビューはしたくないと思った。
*
それから数日後…
「はい~!」
軽やかなチャイムの音に、私は玄関に向かった。
「あの…」
「あ、あなたは!」
「え?あ…あの時の…」
外に立っていたのは、先日の花粉症の人だった。
(え?なんでこの人がここに?
まさか、ストーカー?)
「あ…あの、僕…隣に引っ越して来た奥村と言います。」
相変わらずの酷い鼻声だ。
「えっ?そうなんですか?」
「あ、これ…つまらないものですが…」
奥村さんは、洗剤を私の前に差し出した。
「あ、ありがとうございます。」
「どうぞよろしくお願いします。」
「こちらこそ…」
引っ越しの挨拶に来られるなんて、今時珍しい…
嫌な気はしなかったけど、奥村さんは単なるお隣さん。
それだけの人だった。
*
(やだなぁ……)
ある日、仕事で帰りが遅くなった。
その時、私の後を一定の間隔で歩いて来る足音が…
怖いけど、どうしても気になって振り向いた。
(わっ!)
月明りに照らされたその顔は、意外にもイケメン。
しかも、その人は私に向かって笑顔を見せた。
(な、なに?だれ?)
私は間違ってもモテるタイプじゃない。
イケメンに微笑みかけられるような覚えなんてない。
なんだか気味が悪くなって、私は歩くスピードを上げた。
そしたら、後ろのイケメンも同じように早足になって来るから、私はますます怖くなって来て…
思わず駆け出そうとした時…
「池田さん!」
「え?」
名前を呼ばれ、私は思わず立ち止まってしまった。
「ど、どうして逃げるんですか?」
「どうしてって…あなたこそ、どうして私の名前を知ってるんですか?」
「え?どうしてって…お隣さんじゃないですか?」
「は?」
「だから…隣の奥村です。」
「奥村…さん?」
奥村さんは、マスクとゴーグルの印象しかなかったけど、目の前にいる人はそのどちらも付けてない。
「本当に…奥村さん?」
「はい、そうですよ。」
言われてみれば確かに声やら背の高さは奥村さんっぽい。
「奥村さん!?」
「はい、奥村です。」
話を聞けば、花粉の季節がようやく過ぎ去ったのと、この町の耳鼻科に通い出すようになってから症状がずいぶん良くなったから、マスクや眼鏡なしで外出出来るようになったとのこと。
(奥村さんがこんなに素敵な人だったなんて…)
ただのお隣さんが、憧れの人に変わってしまった瞬間だった。
「は、はい。」
(げっ…)
声を掛けられ振り向くと、そこには怪しい人がいた。
大きなマスクに目にはゴーグルっぽい眼鏡をかけていて、うさぎみたいに赤いその目はぼんやりとしていた。
きっと、花粉症なんだろうけど、何とも大変そうだ。
「このあたりにコンビニがあるはずなんですが、ご存知ですか?」
酷く鼻にかかった声で、その人はそう言った。
「あぁ、コンビニなら次の角を曲がってすぐですよ。」
「そうですか、どうもありがとうございます。」
歩いて行く後ろ姿も、なんだか足に力が入ってないように見える。
(花粉症って大変なんだな。)
幸いなことに私はまだ花粉症デビューしていない。
気の毒なその人を見ながら、出来ることならデビューはしたくないと思った。
*
それから数日後…
「はい~!」
軽やかなチャイムの音に、私は玄関に向かった。
「あの…」
「あ、あなたは!」
「え?あ…あの時の…」
外に立っていたのは、先日の花粉症の人だった。
(え?なんでこの人がここに?
まさか、ストーカー?)
「あ…あの、僕…隣に引っ越して来た奥村と言います。」
相変わらずの酷い鼻声だ。
「えっ?そうなんですか?」
「あ、これ…つまらないものですが…」
奥村さんは、洗剤を私の前に差し出した。
「あ、ありがとうございます。」
「どうぞよろしくお願いします。」
「こちらこそ…」
引っ越しの挨拶に来られるなんて、今時珍しい…
嫌な気はしなかったけど、奥村さんは単なるお隣さん。
それだけの人だった。
*
(やだなぁ……)
ある日、仕事で帰りが遅くなった。
その時、私の後を一定の間隔で歩いて来る足音が…
怖いけど、どうしても気になって振り向いた。
(わっ!)
月明りに照らされたその顔は、意外にもイケメン。
しかも、その人は私に向かって笑顔を見せた。
(な、なに?だれ?)
私は間違ってもモテるタイプじゃない。
イケメンに微笑みかけられるような覚えなんてない。
なんだか気味が悪くなって、私は歩くスピードを上げた。
そしたら、後ろのイケメンも同じように早足になって来るから、私はますます怖くなって来て…
思わず駆け出そうとした時…
「池田さん!」
「え?」
名前を呼ばれ、私は思わず立ち止まってしまった。
「ど、どうして逃げるんですか?」
「どうしてって…あなたこそ、どうして私の名前を知ってるんですか?」
「え?どうしてって…お隣さんじゃないですか?」
「は?」
「だから…隣の奥村です。」
「奥村…さん?」
奥村さんは、マスクとゴーグルの印象しかなかったけど、目の前にいる人はそのどちらも付けてない。
「本当に…奥村さん?」
「はい、そうですよ。」
言われてみれば確かに声やら背の高さは奥村さんっぽい。
「奥村さん!?」
「はい、奥村です。」
話を聞けば、花粉の季節がようやく過ぎ去ったのと、この町の耳鼻科に通い出すようになってから症状がずいぶん良くなったから、マスクや眼鏡なしで外出出来るようになったとのこと。
(奥村さんがこんなに素敵な人だったなんて…)
ただのお隣さんが、憧れの人に変わってしまった瞬間だった。
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