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ともだち
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(今日はどれにしようかな?)
しょっちゅうやってる作業なのに、本を選ぶ時はやっぱりいつもわくわくする。
本を選ぶ決め手は、直感だ。
タイトルを見て気に入ったらそれで良い。
毎回、その方法で読む本を決める。
眠れなくなる程面白い本に当たる時もあれば、いまいちな本の時もある。
そりゃあ、面白い本の方が嬉しいけど、そうじゃなくても別に構わない。
つまらない本だってなんだって、私はとにかく本を読めさえすれば良いのだから。
(あ……)
『風の啼く町』
私はその本を手に取った。
まだ習ってない漢字だけど、多分、これは『なく』って読むんだと思う。
なぜかしらその本に惹かれて、私は素直にそれを借りることにした。
その本を読み終えるのに、一週間かかった。
本を読むのが早い私にしては、それはとても長い時間だ。
漢字や言葉の意味がわからないのではないけれど、意味が良くわからず、何度も読み返したから。
ある人物の生きざまみたいなものが書かれているのだけど、とにかく意味がわかりにくい。
実を言うと、まだ何回か読み返したい気分なのだけど、本の貸し出しは一週間が限度だから、とにかく一旦返さないといけない。
後ろ髪を引かれる思いで私が図書委員に本を返すと、その人が急に大きな声を上げた。
「待って、上里君!」
その声に、一人の男子生徒が反応する。
私は、振り返ったその顔に見覚えがあった。
小学校の時も、そして中学に入ってからも、何度か図書室で見たことのある顔だ。
「今、返って来たから。
ちょっと待ってて。」
図書委員は、手早く何かを書く。
上里という男子生徒は、私のことをちらちら見ていた。
そのことが少し気になりながらも、私がその場を離れようとした時…
「あの……どう思った?」
「え?」
視線から考えても、それは私に向けられた問いかけだと思う。
「その本…どう思った?」
「え?えっと…」
よくわからなかったなんて言ったら、馬鹿だと思われるかもしれない。
でも、だったらなんと言えば…
黙ってる時間に焦りを感じ、私は、衝動的に答えた。
「も、もう一度、読みたいと思いました!」
その言葉に、上里さんは目を大きく見開いた。
「君も…!?実は僕もそうなんだ。
一旦は返したんだけど、どうしてももう一度読みたくなってね…」
「そうなんですか?」
もしかしたらこの人も、よくわからなかったのだろうか?
それとも、私には理解出来ないこの本の面白さをわかって…?
どちらにしても、急にこの人への興味が強く感じた。
「君、良く図書室に来てるよね。
何年?」
「え?一年です。」
「そうなんだ。」
他愛ない会話から、私達はLINEの交換をした。
長年、図書室には通ってたけど、本の感想を話し合える人と出会えたのは初めてのことだった。
しょっちゅうやってる作業なのに、本を選ぶ時はやっぱりいつもわくわくする。
本を選ぶ決め手は、直感だ。
タイトルを見て気に入ったらそれで良い。
毎回、その方法で読む本を決める。
眠れなくなる程面白い本に当たる時もあれば、いまいちな本の時もある。
そりゃあ、面白い本の方が嬉しいけど、そうじゃなくても別に構わない。
つまらない本だってなんだって、私はとにかく本を読めさえすれば良いのだから。
(あ……)
『風の啼く町』
私はその本を手に取った。
まだ習ってない漢字だけど、多分、これは『なく』って読むんだと思う。
なぜかしらその本に惹かれて、私は素直にそれを借りることにした。
その本を読み終えるのに、一週間かかった。
本を読むのが早い私にしては、それはとても長い時間だ。
漢字や言葉の意味がわからないのではないけれど、意味が良くわからず、何度も読み返したから。
ある人物の生きざまみたいなものが書かれているのだけど、とにかく意味がわかりにくい。
実を言うと、まだ何回か読み返したい気分なのだけど、本の貸し出しは一週間が限度だから、とにかく一旦返さないといけない。
後ろ髪を引かれる思いで私が図書委員に本を返すと、その人が急に大きな声を上げた。
「待って、上里君!」
その声に、一人の男子生徒が反応する。
私は、振り返ったその顔に見覚えがあった。
小学校の時も、そして中学に入ってからも、何度か図書室で見たことのある顔だ。
「今、返って来たから。
ちょっと待ってて。」
図書委員は、手早く何かを書く。
上里という男子生徒は、私のことをちらちら見ていた。
そのことが少し気になりながらも、私がその場を離れようとした時…
「あの……どう思った?」
「え?」
視線から考えても、それは私に向けられた問いかけだと思う。
「その本…どう思った?」
「え?えっと…」
よくわからなかったなんて言ったら、馬鹿だと思われるかもしれない。
でも、だったらなんと言えば…
黙ってる時間に焦りを感じ、私は、衝動的に答えた。
「も、もう一度、読みたいと思いました!」
その言葉に、上里さんは目を大きく見開いた。
「君も…!?実は僕もそうなんだ。
一旦は返したんだけど、どうしてももう一度読みたくなってね…」
「そうなんですか?」
もしかしたらこの人も、よくわからなかったのだろうか?
それとも、私には理解出来ないこの本の面白さをわかって…?
どちらにしても、急にこの人への興味が強く感じた。
「君、良く図書室に来てるよね。
何年?」
「え?一年です。」
「そうなんだ。」
他愛ない会話から、私達はLINEの交換をした。
長年、図書室には通ってたけど、本の感想を話し合える人と出会えたのは初めてのことだった。
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