1ページ劇場③

ルカ(聖夜月ルカ)

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諦めなければ奇跡は起きる。

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「う、嘘だろ~!?」

 「……ん?な、なに?」

 健人の大声で、目が覚めた。



 「起きろ、美香!
 出掛けるぞ!」

 「は?で、でかけるって…」

 「いまむらに決まってるだろ!」



 (いまむら……)



その言葉で、私の頭は覚醒した。
そうだ…今日は1月1日で…



(え……?)



ふと見た柱時計は、12時5分を指していた。



 「健人!12時過ぎてる!」

 「だから、早く起きろって言ってんだよ!」

 私達は、大慌てで顔を洗い服を着替え…苛立つ健人をなだめながら、私は申し訳程度の化粧をした。
いくら急いでいても、すっぴんでは出られない。
かなり頑張ったけど、家を出たのは12時半を過ぎていた。
 寒い中、私達は必死で自転車を漕ぐ。
いまむらに向かって…



「売れるなよ…残ってろよ…」

 健人が、呪文のように呟いているのが、聞こえて来る。



 昨夜、お酒を飲んだのが失敗だった。
 年末の福引で日本酒が当たり、私達はお酒には強くないけど飲まなきゃもったいないからって飲んでたら、泥のように眠ってしまって…
まさか、こんなに遅くまで寝てしまうなんて思わなかった。



 元日は、いつも5時起きでいまむらの福袋を買いに行く。
これが、私達の唯一の贅沢であり、御褒美だから。



 私達は、今、結婚資金をためるため、節約生活をしている。
 今年で健人は38歳、私は36歳。
もうゆとりはない。
 結婚なんていつでも出来る…私はそう思っていたけれど、健人にはある強い想いがあった。
それは、親戚たちに恥ずかしくない豪勢な結婚式を挙げること。
 健人のお父さんは早くに亡くなり、お母さんが女手一つで育ててくれたから、ずっと貧しい暮らしをしていて…なのに、親戚たちはみな裕福で、健人は従兄弟たちに会う時も肩身の狭い想いをしていたのだとか…
だからこそ、結婚式は豪勢にしたいって…
私と健人は幼馴染だけど、さすがに親戚のことまでは知らなかったよ。



 以前はとってもお洒落に気を配ってた健人だけれど、最近は好きな服も買えなくて、年に一度、いまむらの福袋を買うことだけが楽しみなんだ。
なのに、今日はこんなに遅くなってしまった。
きっと、福袋はもうない…



「なんてことだぁ~!」



 私の予想通り、福袋は売り切れていた。



 「健人…今年は…」

 「美香!隣町のいまむらに行くぞ!」

 「えっ!?」

 健人はすでに自転車を走らせていた。
 私もそれを必死で追いかける。



 「なんでないんだ~!」



 隣町のいまむらも、またその隣町のいまむらも福袋は売り切れで…
そりゃそうだ。毎年、開店と同時にほぼ売り切れるんだから。
こんな時間に行ったって、残ってるはずがない。



 「健人…無理だよ。
 残念だけど、今年は…」

 「美香!行くぞ!……いまむらはまだある!」

 「……え?」



 朝から飲まず食わずで、自転車をぶっ飛ばし…
私は正直もうよれよれだったけど、健人が諦める様子はない。
 私は遠い目をしながら、懸命に彼に着いて行った。



 ***



 気が付けば、私達は隣の県まで来ていた。
 辺りはもう真っ暗だ。



 「健人…もうすぐいまむらの閉店時間だよ…」

 「そうだな…ここになければ、もう…」

 健人が悔しそうに唇を噛んだ。



ここまでどの店も売り切れだったんだ。
ここにも残ってるはずがない。



 「う、うぉーーーーーっ!」



 奇跡が起きた。
なんと、その店には、ひとつだけ福袋があったのだ。
 台に置かれた福袋がきらきらと輝いて見えた。
 私達はそこに向かって、最後の力を振り絞って駆けだした。



 「あっ!」



 福袋まであと20歩くらいに迫った時、ひとりの男性がその福袋に手を伸ばした。



 「が、がおーーーーー!」



 健人はショックのあまりその場にくずおれ、泣きだした。



 「……えっ!?」

 男性は、振り向き、健人を見ておびえたような顔をしていた。
そりゃあそうだろう。
 健人は疲れのせいで目は窪み、寒い中走りまくったせいで髪は逆立ち、真っ赤な顔をして泣いているのだ。
 私から見ても怖い…



「がおーーーーー!」

 健人は福袋を掴もうとするあのように片手を伸ばし、男性をみつめながら泣き続ける…



「あ、あの…よ、よかったらどうぞ……」

 男性は、福袋を健人に手渡し、その場から逃げるように去って行った。
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