394 / 401
僕はおじさん
1
しおりを挟む
「わぁ、すごいじゃない!綺麗だねぇ…」
リビングに飾られたものを見て、俺は思わずそう言った。
ごく素直な感想だった。
妻は、その言葉に機嫌の良い顔で微笑む。
「こ~れ~も、愛…あれも、愛、たぶん、愛、きっと愛…」
思わず口を突いて出た僕の鼻歌に、妻はきょとんとした顔をしている。
「あれ……?もしかして知らない?『愛の水中花』」
「知らない。なに、それ?」
出たよ、出たよ…ジェネレーションギャップっていうやつが。
妻は、僕より19歳年下で、今年30歳になったばかり。
この曲は、確か40年くらい前のものだから、知らないのも当然だ。
僕だって、当時はまだ小学生だったんだから。
大ヒットしたこの曲は、まるで女神様みたいに綺麗な女優さんが、なんと、バニーガールの格好で歌ってて…
その頃の僕は、バニーガールなんて知るはずもなかったけれど、滲み出る大人の色香のようなものにドキドキしたものだ。
もちろん、テレビを見る時は、興味のないような顔をして、まわりにいる家族に気付かれないようにちらちらとのぞき見ていた。
「ねぇ、どうしたの?この水中花。
もしかしてこれも手作りとか?」
そう、僕の妻はなにしろハンドメイドが好きなんだ。
家の中には、彼女が作った小物で溢れている。
今回のものは、ガラスの瓶に入れられた水中花だ。
「なによ、水中花、水中花って。
これは、水中花じゃなくて、ハーバリウム!」
「ハーバ…リウム??」
「そうよ、植物標本のことなの…」
彼女の蘊蓄が始まった。
ハーバリウムなるものについて、彼女は熱く語る。
「つまり…植物のオイル漬けってことだね?」
「もう~っ!鰯のオイル漬けみたいに言わないで!
ほら、見てよ。
下に入ってるのはパワーストーンなのよね。
夫婦の絆が深まるって石なのよ。
これは、私と淳ちゃんの幸せを願って作った、特別なハーバリウムなの。
わかった?」
「う、うん、わかった!
僕、毎日、この水中花…じゃない、ハーバ…えっと、ハーバ…」
「ハーバリウム!」
「そうそう、ハーバリウム!このハーバリウムを毎日拝むよ。」
「拝むって、淳ちゃん…
お地蔵さんじゃないんだから…」
呆れたような顔で、妻が小さな溜め息を吐く。
19歳の年齢差は確かに高い壁だけど…でも、これでも僕達はけっこううまくいっている。
リビングに飾られたものを見て、俺は思わずそう言った。
ごく素直な感想だった。
妻は、その言葉に機嫌の良い顔で微笑む。
「こ~れ~も、愛…あれも、愛、たぶん、愛、きっと愛…」
思わず口を突いて出た僕の鼻歌に、妻はきょとんとした顔をしている。
「あれ……?もしかして知らない?『愛の水中花』」
「知らない。なに、それ?」
出たよ、出たよ…ジェネレーションギャップっていうやつが。
妻は、僕より19歳年下で、今年30歳になったばかり。
この曲は、確か40年くらい前のものだから、知らないのも当然だ。
僕だって、当時はまだ小学生だったんだから。
大ヒットしたこの曲は、まるで女神様みたいに綺麗な女優さんが、なんと、バニーガールの格好で歌ってて…
その頃の僕は、バニーガールなんて知るはずもなかったけれど、滲み出る大人の色香のようなものにドキドキしたものだ。
もちろん、テレビを見る時は、興味のないような顔をして、まわりにいる家族に気付かれないようにちらちらとのぞき見ていた。
「ねぇ、どうしたの?この水中花。
もしかしてこれも手作りとか?」
そう、僕の妻はなにしろハンドメイドが好きなんだ。
家の中には、彼女が作った小物で溢れている。
今回のものは、ガラスの瓶に入れられた水中花だ。
「なによ、水中花、水中花って。
これは、水中花じゃなくて、ハーバリウム!」
「ハーバ…リウム??」
「そうよ、植物標本のことなの…」
彼女の蘊蓄が始まった。
ハーバリウムなるものについて、彼女は熱く語る。
「つまり…植物のオイル漬けってことだね?」
「もう~っ!鰯のオイル漬けみたいに言わないで!
ほら、見てよ。
下に入ってるのはパワーストーンなのよね。
夫婦の絆が深まるって石なのよ。
これは、私と淳ちゃんの幸せを願って作った、特別なハーバリウムなの。
わかった?」
「う、うん、わかった!
僕、毎日、この水中花…じゃない、ハーバ…えっと、ハーバ…」
「ハーバリウム!」
「そうそう、ハーバリウム!このハーバリウムを毎日拝むよ。」
「拝むって、淳ちゃん…
お地蔵さんじゃないんだから…」
呆れたような顔で、妻が小さな溜め息を吐く。
19歳の年齢差は確かに高い壁だけど…でも、これでも僕達はけっこううまくいっている。
0
あなたにおすすめの小説
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
帰国した王子の受難
ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。
取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
🥕おしどり夫婦として12年間の結婚生活を過ごしてきたが一波乱あり、妻は夫を誰かに譲りたくなるのだった。
設楽理沙
ライト文芸
☘ 累計ポイント/ 190万pt 超えました。ありがとうございます。
―― 備忘録 ――
第8回ライト文芸大賞では大賞2位ではじまり2位で終了。 最高 57,392 pt
〃 24h/pt-1位ではじまり2位で終了。 最高 89,034 pt
◇ ◇ ◇ ◇
紳士的でいつだって私や私の両親にやさしくしてくれる
素敵な旦那さま・・だと思ってきたのに。
隠された夫の一面を知った日から、眞奈の苦悩が
始まる。
苦しくて、悲しくてもののすごく惨めで・・
消えてしまいたいと思う眞奈は小さな子供のように
大きな声で泣いた。
泣きながらも、よろけながらも、気がつけば
大地をしっかりと踏みしめていた。
そう、立ち止まってなんていられない。
☆-★-☆-★+☆-★-☆-★+☆-★-☆-★
2025.4.19☑~
初恋が綺麗に終わらない
わらびもち
恋愛
婚約者のエーミールにいつも放置され、蔑ろにされるベロニカ。
そんな彼の態度にウンザリし、婚約を破棄しようと行動をおこす。
今後、一度でもエーミールがベロニカ以外の女を優先することがあれば即座に婚約は破棄。
そういった契約を両家で交わすも、馬鹿なエーミールはよりにもよって夜会でやらかす。
もう呆れるしかないベロニカ。そしてそんな彼女に手を差し伸べた意外な人物。
ベロニカはこの人物に、人生で初の恋に落ちる…………。
望まない相手と一緒にいたくありませんので
毬禾
恋愛
どのような理由を付けられようとも私の心は変わらない。
一緒にいようが私の気持ちを変えることはできない。
私が一緒にいたいのはあなたではないのだから。
背徳の恋のあとで
ひかり芽衣
恋愛
『愛人を作ることは、家族を維持するために必要なことなのかもしれない』
恋愛小説が好きで純愛を夢見ていた男爵家の一人娘アリーナは、いつの間にかそう考えるようになっていた。
自分が子供を産むまでは……
物心ついた時から愛人に現を抜かす父にかわり、父の仕事までこなす母。母のことを尊敬し真っ直ぐに育ったアリーナは、完璧な母にも唯一弱音を吐ける人物がいることを知る。
母の恋に衝撃を受ける中、予期せぬ相手とのアリーナの初恋。
そして、ずっとアリーナのよき相談相手である図書館管理者との距離も次第に近づいていき……
不倫が身近な存在の今、結婚を、夫婦を、子どもの存在を……あなたはどう考えていますか?
※アリーナの幸せを一緒に見届けて下さると嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる