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015:やがて全てが終わるけど

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「一つだけ…聞いて良いかな?」

「……どんなことでございましょう?」

「あれは…あの世界は、あそこでの出来事は…
現実だったの?それとも……?」

躊躇いがちに…言葉を選ぶように紡ぐフォルテュナに、男は言葉を返した。



「……大事なのはそのことでしょうか?」

フォルテュナの瞳は一際大きく見開かれた。



「……そうだね。君の言う通りだ。」

フォルテュナの表情が唐突に緩む。



その表情を見て安堵したかのように男が呟いた。

「……では、フォルテュナ様、私はこれで…」

「泉の水はいらないの?
今の僕なら機嫌が良いから、もらえるかもしれないよ。」

「……私は泉の水よりも良いものをいただきましたから…」

そう言う男の微笑みはとても穏やかで、皮肉なものは少しも感じられなかった。



「……そう…じゃあ、気を付けてお帰り…」

男は、最初にしたのと同じようにフォルテュナに向かって恭しく頭を下げると、そのまま静かにその場を立ち去った。



(綺麗なお月様だ…)



丸い月は、男がここを訪ねた時とほぼ同じ場所にいた。



(現実でも夢でも、そんなことはたいしたことじゃない…
あの出来事は、ほんの少し僕を変えてくれた。
それは紛れもない事実なのだから…)



丸い月を見上げながら、フォルテュナは白羽扇をゆっくりとした動作で仰ぐ…



(さて、明日はどんな人間達がやって来るのやら…)

フォルテュナの淡い碧色の瞳に映るのは空に浮かぶ丸い月…
だが、その心の中に浮かぶのは懐かしい友の顔…
ついさっき別れたばかりの人間の友の顔…



(またいつか会いたいね…)



 ~fin. 
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