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side フェルナン

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 (サキ……)



 今頃、サキはマリウスに事情を聞いているだろうか?
 聞いていたら、どんな気持ちになっただろうか?
 悩んだ末に出した結論のはずだったのに、私はすでに後悔し始めている。



サキに出会ってから、本当に楽しい時間を過ごせた。
 物静かな祖母との暮らしは、とても閉ざされたものだった。
 育ててもらったことに感謝はしているが、しつけが厳しいばかりで、特に楽しい思い出はなかった。
 当時は大きな口を開けて笑うようなこともなかった。



 祖母はとにかく私が外へ出ることを嫌った。
 私には、常に本を読むことを強いた。
 本が嫌いなわけではなかったが、何度も読むと飽きて来る。
そんなことよりは、外に出て体を動かしたかったが、私が許可されたのは家の前にある花壇の水やりくらいだった。
 祖母に反抗するのは悪いこと、我が儘なんて言ってはいけない。
 今にして思えば、私は『子供』という時代をずっと封印されていたようなものだ。



その封印を解いてくれたのが、サキだった。
 彼女は、私に何かを強いるようなことはない。
 祖母にはほとんど見られなかった笑顔を見せてくれた。



 彼女といると、必要とされているという気配を感じた。
それはとても心地良いことで…
私という存在が、意味のあることのように感じられた。
 生きている意義のようなものを見出せた。
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