Gift

ルカ(聖夜月ルカ)

文字の大きさ
上 下
27 / 697
004. 大神殿

しおりを挟む




 「おはよう、アラン!」

 「おはよう、レミラス。」



 僕が金星に暮らすようになり、早や30年の時が流れた。
 彼らは僕を地球に戻してくれるとも言ってくれたのだが、地球に戻ることよりも金星のことを知りたいと言う好奇心の方が優ったからだ。



やがて、金星で暮らすうちに、僕はレミラスという女性と愛し合うようになり、子供も生まれた。
その結果、ここに定住することになったのだ。



 金星人は、皆、穏やかで知的な人々だった。
だが、ごく稀に凶悪な人間もいる。
そういう者達は、地球に送られる…そう、地球は、金星人の流刑星だったのだ。
それを知った時はショックだったが、知ったところで僕には何も出来ない。



 金星人は、細胞活性技術のおかげで、地球人よりもずっと長く生きることが出来る。
 僕も、子供が出来た時に、その施術を受けた。
 金星に留まることを決めたからだ。
そのおかげで、僕の風貌はここに来た時とほとんど変わりがない。



 僕が最初に彼らと出会った場所はやはり神殿だった。
 彼らの信仰は地球人の信仰とは少しばかり意味合いが違うが、彼らは常に皆の安全と幸せを祈る。
 僕も、ここに来てから差別をされたり嫌な想いをしたことは一度もない。
 金星人とは、実に穏やかな種族なのだ。
あそこで彼らに出会えたこと自体、神のご加護のように思える。



そんな彼らのおかげなのか、最初のうちはハリーへの憎しみがまだあったが、そのうちにそんなことは気にもならなくなった。
 憎しみに心を曇らせていても何も良いことなどない。
いや、今はむしろ彼に感謝したいくらいだ。
 彼が、僕を金星に置き去りにしてくれたおかげで、僕は今、こんなに幸せに暮らしているのだから…







 「アラン…話したいことがあるのですがよろしいですか?」

ある時、いつになく深刻な表情をしたロシュが僕にそう言った。
その顔つきから、良くない話だということは察しが付いた。



 「なんですか?」

 「実は、あなたにとってはショックな出来事が起きたのです。」

 「何が起きたのです?」

 「……地球が、滅亡しました。」

 「えっ!?」

 「大規模な核戦争が勃発し、地球の生物はほぼ死滅したと思われます。
 今、生きている者達もおそらく長くはもたないでしょう…」

 「……そうですか。」



 確かに衝撃的なニュースではあったが、僕の心は意外な程、落ち着いていた。
なぜ、地球人はそんな愚かな道を選択してしまったのだろう?
 悲しいことだが、これも地球人のしでかしたことだ。
 僕は、遠い地球を想い、そっと空を見上げた。

 
しおりを挟む

処理中です...