31 / 697
005. 交易都市
2
しおりを挟む
私は、カウンターに腰掛け、温かい紅茶を頼んだ。
とても静かなその店では、自分が紅茶を飲む時の喉の音までが店内に響いてしまう。
そして、もう一人の客が新聞をめくる音…
静か過ぎるというのもあまり居心地の良くないものだ。
こんな場所では当然ながら話し声もまわりに筒抜けだ。
店のマスターに「糸たぐり屋」の話を聞きたいと思いつつも、もう一人の客のことが気になり声をかけあぐねていると、そのうち、その客が店を出て行った。
これ幸いに、私はマスターに声をかけ、「糸たぐり屋」のことを聞いてみたのだが、そんなものはまるで聞いたことはないということだった。
「この町には、あちらこちらから珍しいものがいっぱい入って来るからね。
その全部を知ることなんてとても出来やしない。
でも…そうだ!
夜になると大通りにいろんな占い師が出てくるから、その『糸たぐり屋」もその中にいるかもしれないよ。探してみてはどうだい?
……だけど、あんたみたいな人がなんだってそんなものに興味を持つんだい?
あんたほどの男なら、女には自由はしないだろうに…」
「そんなことはないですよ。
では、夜に探してみることにします。
どうもありがとうございました。」
私はマスターに礼を述べ、店を後にした。
暗くなるまではまだ少し時間がある。
町をぶらつくにも、さっきのあの状態を思い出すととてもじゃないが戻る気がしなかった。
裏通りを抜け、さらにしばらく歩いていくと住宅街に出た。
見るものは特にこれといって何もないが、静かなだけマシだ。
そのうち出くわした小さな公園のベンチに座り、私はそこで暗くなるのを待った。
太陽がやっと傾きかけた頃、私は立ちあがり大通りへの道を戻った。
昼間の喧騒がまるで嘘のように人影はまばらになり、店の片付けをする者や小さな台を持って商売の準備をする占い師がちらほら現れ始めていた。
私は早速その者達に、片っ端から「糸たぐり屋」の話を尋ねてみたが、誰もそんな話は聞いたことがないと言うばかりだった。
こんなことなら、あの酒場で噂話をしていた者にもっと詳しい話を聞いてくれば良かった…
しかし、今更そんなことを考えた所でどうにもなりはしない。
とても静かなその店では、自分が紅茶を飲む時の喉の音までが店内に響いてしまう。
そして、もう一人の客が新聞をめくる音…
静か過ぎるというのもあまり居心地の良くないものだ。
こんな場所では当然ながら話し声もまわりに筒抜けだ。
店のマスターに「糸たぐり屋」の話を聞きたいと思いつつも、もう一人の客のことが気になり声をかけあぐねていると、そのうち、その客が店を出て行った。
これ幸いに、私はマスターに声をかけ、「糸たぐり屋」のことを聞いてみたのだが、そんなものはまるで聞いたことはないということだった。
「この町には、あちらこちらから珍しいものがいっぱい入って来るからね。
その全部を知ることなんてとても出来やしない。
でも…そうだ!
夜になると大通りにいろんな占い師が出てくるから、その『糸たぐり屋」もその中にいるかもしれないよ。探してみてはどうだい?
……だけど、あんたみたいな人がなんだってそんなものに興味を持つんだい?
あんたほどの男なら、女には自由はしないだろうに…」
「そんなことはないですよ。
では、夜に探してみることにします。
どうもありがとうございました。」
私はマスターに礼を述べ、店を後にした。
暗くなるまではまだ少し時間がある。
町をぶらつくにも、さっきのあの状態を思い出すととてもじゃないが戻る気がしなかった。
裏通りを抜け、さらにしばらく歩いていくと住宅街に出た。
見るものは特にこれといって何もないが、静かなだけマシだ。
そのうち出くわした小さな公園のベンチに座り、私はそこで暗くなるのを待った。
太陽がやっと傾きかけた頃、私は立ちあがり大通りへの道を戻った。
昼間の喧騒がまるで嘘のように人影はまばらになり、店の片付けをする者や小さな台を持って商売の準備をする占い師がちらほら現れ始めていた。
私は早速その者達に、片っ端から「糸たぐり屋」の話を尋ねてみたが、誰もそんな話は聞いたことがないと言うばかりだった。
こんなことなら、あの酒場で噂話をしていた者にもっと詳しい話を聞いてくれば良かった…
しかし、今更そんなことを考えた所でどうにもなりはしない。
0
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ガチャから始まる錬金ライフ
あに
ファンタジー
河地夜人は日雇い労働者だったが、スキルボールを手に入れた翌日にクビになってしまう。
手に入れたスキルボールは『ガチャ』そこから『鑑定』『錬金術』と手に入れて、今までダンジョンの宝箱しか出なかったポーションなどを冒険者御用達の『プライド』に売り、億万長者になっていく。
他にもS級冒険者と出会い、自らもS級に上り詰める。
どんどん仲間も増え、自らはダンジョンには行かず錬金術で飯を食う。
自身の本当のジョブが召喚士だったので、召喚した相棒のテンとまったり、時には冒険し成長していく。
夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。
Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。
そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。
そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。
これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。
(1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる