Gift

046. 血の盟約

１

「よし、引き上げるぞ。」

「はっ！」

血溜まりに横たわる男を冷ややかな視線で一瞥した後、その男はくるりと踵を返した。
神話に登場する神を思わせる完璧な美しさに模られたその男は、全身に浴びた真っ赤な血さえをも自身を彩るものの一部としているように見えた。



（何人よりも気高く強く美しい我が主・ルシファー様…）



＊



アルヴィンとルシファーの出会いは、もう随分と昔のこと…
アルヴィンは、悪魔の中では特に高位ということもなく、さりとて三流という程でもない。
悪魔の階級ではごく普通ということなのだが、そんな立場にアルヴィンはなんとなく居心地の悪さを感じていた。
もっと強い力が欲しい…
他の悪魔から、一目置かれる存在になりたい。
常に心の底にそんな野望を抱きながら、アルヴィンはそのための方法がみつけられずにいた。

そんなある日、アルヴィンはルシファーと出会った。
ルシファーの名を知らない悪魔などいない。
どんな人物であるかは、あちらこちらから聞いていたが、本物のルシファーはその噂話を遥かに凌ぐものだった。
ルシファーと視線がぶつかった時、アルヴィンはそのまま息絶えてしまうのではないかと思う程の衝撃を受けた。
氷よりも冷たく、一瞬で潰されてしまいそうな威圧感にアルヴィンは身体を動かす事さえ出来なかった。
そのルシファーが、数人の悪魔達が見守る中をまっすぐにアルヴィンの方へ歩み寄って来る…
一歩…また一歩…
ルシファーを怒らせた覚えはなかったが、もしかしたら自分でも気付かないうちに何かしでかしてしまったのかもしれない…そんなことを考えると、アルヴィンは生きた心地がしなかった。
ほんの数秒の時間が、アルヴィンには何倍にも感じられた。



アルヴィンのすぐ前で、ルシファーの歩みが唐突に停まった…