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ルカ(聖夜月ルカ)

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050. 過去・現在・未来

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「あなたは本当に気の短い方だ。
そうお怒りにならないで下さい。」

「うるせぇ!
おまえの顔見てたら酒がまずくなる…向こうへ行け!」

「……わかりました。
では、お酒のお礼にこれを…」

男は、ビリーのグラスの脇に、3枚のカードをそっと置いた。
なんともよくわからない絵柄が描かれたカードだ。



「何なんだ、こりゃ?」

「……これは、あなたが望めば奥様と別れることが出来るカードです。」

「は?
何言ってんだ?
おまえ、頭がイカれてるのか?」

「信じられないのも無理はありません。
しかし、これは正真正銘、人生をやり直す事の出来るカードなのです。」

「人生をやり直すだと…?」

ビリーは3枚のカードを手に取った。
絵柄の裏は白紙になっている。



「信じるわけじゃないが…これがどういうものなのか一応話してみなよ。」

男はビリーのその言葉に微笑を浮かべた。



「このカードは、過去と現在と未来のカードです。
このカードが過去、そしてこちらが現在で、これが未来です。
使い方はとても簡単です。
裏に、願い事を書いて枕の下に置いて眠るだけ。
カードは、過去、現在、未来の順にしか使えません。
それから、なんでも具体的に書かねばなりません。
日時を間違えてもだめです。
もちろん、あなたが産まれる前のことも出来ません。
なぜなら、あなたの人生が始まっていないからです。」

「あぁ、まじないみたいなもんなんだな。」

「いいえ。まじない等ではありません。
ですからお使いになる時は極めて慎重に…
願い事次第では大変なことになるのですから…」

「大変なことにねぇ…
そういや、過去はわかる。
だが、現在や未来はどう使うんだ?」

つまらないことを聞いてるとは思いながらも、ビリーの口からはそんな質問が飛び出ていた。



「現在のカードは、その日1日のことがやり直せます。
そして、未来のカードは、何年後のいつ、こうなりたいという願望を書くのです。
さっきも申しましたが『幸せになりますように…』なんて曖昧な願い事は通りません。
とにかく具体的ではないとダメなのです。」

男はとても真剣にカードの事を説明した。




「もう他にご質問はありませんか?」

「で、願い事を書いて枕の下に置いて寝たらどうなるんだ?」

「願い事が叶っていれば状況が変わっていますからすぐにわかります。
カードも自然に消滅しています。
日付が間違っていたり、具体的ではない願い事を書いてしまった場合には、裏が白紙に戻っていますからまたあらためて書き直して下さい。」

男の口ぶりは頭がいかれているようでもなければ、冗談を言っているようでもなかった。
本人は至って真剣なようだ。
しかし、そんなカードがこの世にあるはずもない。

「あぁ、もう十分だ…
十分わかったから帰ってくれ。」

ビリーは、男の相手をするのに戸惑い、そう言って追い払おうとした。



「わかりました。
どうぞ、あなたが上手な使い方をなさって素晴らしい人生をやり直せますように…」

男は帽子を取って軽く挨拶をすると、店の外へ出て行った。

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