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082. 飛燕
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「彼女に限ってそんなことないさ。
きっと、彼女は待ってくれる…いつまでも…」
「……そんなの……可哀想じゃないか…」
「そう思うなら、今すぐ旅をやめて彼女の元へいかなきゃな。」
「そんなこと……無理だ!」
一際大きな声を上げたリュックは、不意にマルタンに背を向け、黙りこむ。
「リュック…」
マルタンの呼びかけにも、リュックは何も答えなかった。
リュックの心情を察し、マルタンはそれ以上声をかけることはせず、同じように黙りこむ。
二人の間には、ただ、あたりのざわめきだけが無為に流れた。
「あ……」
沈黙する二人のすぐ脇を、不意に黒いものがかすめ、二人は同時に声を上げた。
「マルタン、今のはなんだったんだ!?」
リュックはようやく身体を起こし、マルタンの方に向き直る。
「燕だな…」
マルタンは、燕の飛び去った方法を目で追う。
「燕か…あぁ、びっくりした。
ものすごい速さだな。
しかも、あんな低い所を飛ぶなんて…」
「明日は雨かもしれないぞ。」
「なんでだ?」
「燕が低く飛ぶと雨が降るって言われてるんだ。」
「へぇ…あんたは物知りなんだな。」
「リュックは燕を見た事がないのか?」
「う~ん…どうだったかな。
どこかで見たことがあったような気はするんだが、最近はないな。
今はちょっと考え事をしてたから、燕だってことにさえ気付かなかった。」
リュックは燕の姿を探すようにあたりを見まわしたが、そこにはもう先程の燕の姿はどこにもなかった。
「……リュック、そろそろ帰ろうか。
あんまり遅いとクロワさん達が心配するぞ。」
「そうだな…」
二人は、ゆっくりと立ち上がり、宿の方へ向かって歩き出した。
「……マルタン…あのさ、さっきは……」
「リュック、燕はな…」
リュックの言葉を遮るように、マルタンは言葉を重ねる。
「……え?」
「燕はな…渡る時期を日の長さで知り、渡る方向は太陽や星の位置で知るらしい。
……きっと、いつか……君にも感じられる時が来るよ。
帰る時期をな…」
「……そうだな。」
二人は静かに微笑み、リュックは青く高い空を見上げた。
~fin
きっと、彼女は待ってくれる…いつまでも…」
「……そんなの……可哀想じゃないか…」
「そう思うなら、今すぐ旅をやめて彼女の元へいかなきゃな。」
「そんなこと……無理だ!」
一際大きな声を上げたリュックは、不意にマルタンに背を向け、黙りこむ。
「リュック…」
マルタンの呼びかけにも、リュックは何も答えなかった。
リュックの心情を察し、マルタンはそれ以上声をかけることはせず、同じように黙りこむ。
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「あ……」
沈黙する二人のすぐ脇を、不意に黒いものがかすめ、二人は同時に声を上げた。
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「燕か…あぁ、びっくりした。
ものすごい速さだな。
しかも、あんな低い所を飛ぶなんて…」
「明日は雨かもしれないぞ。」
「なんでだ?」
「燕が低く飛ぶと雨が降るって言われてるんだ。」
「へぇ…あんたは物知りなんだな。」
「リュックは燕を見た事がないのか?」
「う~ん…どうだったかな。
どこかで見たことがあったような気はするんだが、最近はないな。
今はちょっと考え事をしてたから、燕だってことにさえ気付かなかった。」
リュックは燕の姿を探すようにあたりを見まわしたが、そこにはもう先程の燕の姿はどこにもなかった。
「……リュック、そろそろ帰ろうか。
あんまり遅いとクロワさん達が心配するぞ。」
「そうだな…」
二人は、ゆっくりと立ち上がり、宿の方へ向かって歩き出した。
「……マルタン…あのさ、さっきは……」
「リュック、燕はな…」
リュックの言葉を遮るように、マルタンは言葉を重ねる。
「……え?」
「燕はな…渡る時期を日の長さで知り、渡る方向は太陽や星の位置で知るらしい。
……きっと、いつか……君にも感じられる時が来るよ。
帰る時期をな…」
「……そうだな。」
二人は静かに微笑み、リュックは青く高い空を見上げた。
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