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093. 忘れられない
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次の朝…
私は、少し遅い時間に食堂に向かった。
朝食時だと混むと思ったからだ。
朝食時をはずしたことで、食堂は思った通り、がらんとしていた。
私は軽い食事を注文した後、店の主人にあの「記憶の泉」についての話を尋ねた。
「昨夜も少し言いましたが、そんなたいしたもんじゃないんですよ…
ただ…確かに少し不思議な場所ではあります。
行ってみればわかると思いますがね…」
「たいしたことがなくても知りたいのです。
どうか、教えて下さい!
『記憶の泉』のことを…」
「そうですか…それじゃあ…」
食い下がる私に根負けしたのか、主人はぽつりぽつりと話し始めた。
「あの泉は、別名を忘却の泉と言いましてね。
どうしても、忘れられない人やいやな出来事、悲しい出来事が忘れられると言い伝えられてる泉なのです。
あそこへは、胸に辛い想いやや悲しい記憶を一杯抱え持った人達が密かにやってきては、手や顔や足や全身を清めるのです。
一度では忘れられず何度も何度もあの泉を訪れる人もいます。
……言ってみれば禊の場所ですね…」
そういうことだったのか…
私は、忘れられないのは良い記憶だと思いこんでいた。
昔、愛した人のことや、楽しかった日々…
しかし、逆だったのだ…
忘れたくても脳裏にこびりついて忘れられないほど、辛い思い出、酷い仕打ちをうけ憎んでも憎みきれない相手…
そんな忘れられない人や出来事を忘れるための場所だったのだ…
今になってやっと私はあの女性の悲しそうな作り笑顔の意味を悟った。
「そうだったのですか…
では、不思議な場所だというのは?」
「それはあなたがご自分で確かめられると良い。
『記憶の泉』は、表のあの川をずっと遡った所にありますから…」
主人に言われた通り、私は川に沿って歩いて行った。
明るい時間に見た川は、昨夜よりもその水の濁りがはっきりとわかる。
川の流れは穏やかなのに、とても澱んだ茶色い色をしているのだ。
それは何度見ても不釣合いな光景で、言いようのない気持ち悪さを感じてしまう。
私は、少し遅い時間に食堂に向かった。
朝食時だと混むと思ったからだ。
朝食時をはずしたことで、食堂は思った通り、がらんとしていた。
私は軽い食事を注文した後、店の主人にあの「記憶の泉」についての話を尋ねた。
「昨夜も少し言いましたが、そんなたいしたもんじゃないんですよ…
ただ…確かに少し不思議な場所ではあります。
行ってみればわかると思いますがね…」
「たいしたことがなくても知りたいのです。
どうか、教えて下さい!
『記憶の泉』のことを…」
「そうですか…それじゃあ…」
食い下がる私に根負けしたのか、主人はぽつりぽつりと話し始めた。
「あの泉は、別名を忘却の泉と言いましてね。
どうしても、忘れられない人やいやな出来事、悲しい出来事が忘れられると言い伝えられてる泉なのです。
あそこへは、胸に辛い想いやや悲しい記憶を一杯抱え持った人達が密かにやってきては、手や顔や足や全身を清めるのです。
一度では忘れられず何度も何度もあの泉を訪れる人もいます。
……言ってみれば禊の場所ですね…」
そういうことだったのか…
私は、忘れられないのは良い記憶だと思いこんでいた。
昔、愛した人のことや、楽しかった日々…
しかし、逆だったのだ…
忘れたくても脳裏にこびりついて忘れられないほど、辛い思い出、酷い仕打ちをうけ憎んでも憎みきれない相手…
そんな忘れられない人や出来事を忘れるための場所だったのだ…
今になってやっと私はあの女性の悲しそうな作り笑顔の意味を悟った。
「そうだったのですか…
では、不思議な場所だというのは?」
「それはあなたがご自分で確かめられると良い。
『記憶の泉』は、表のあの川をずっと遡った所にありますから…」
主人に言われた通り、私は川に沿って歩いて行った。
明るい時間に見た川は、昨夜よりもその水の濁りがはっきりとわかる。
川の流れは穏やかなのに、とても澱んだ茶色い色をしているのだ。
それは何度見ても不釣合いな光景で、言いようのない気持ち悪さを感じてしまう。
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