Gift

ルカ(聖夜月ルカ)

文字の大きさ
662 / 697
095. 翼

しおりを挟む




「イアン牧師、もっとしっかり言ってやって下さいよ!」

オルジェがスプーンを握り締めながらトレルの方を睨む。



「しかし、トレルは昨日も教会の用で行ってもらいましたからねぇ…
この人は、こう見えてけっこうちゃんと働いてくれているのですよ。」

そう言って、イアンが穏やかに微笑む。



「おまえと違って、俺はやることはやってるんだよ。」

「なんだよ!」

子供の頃は一緒に住んでいたトレル達も、それなりの年齢になってからは、皆、一人で住むようになった。
しかし、イアン牧師の提案で、週に一度は皆で一緒に食事を採ることになっていた。



「オルジェ、そんなにむくれてないで早く食べなさいよ。
せっかくの料理が冷たくなるわ。」

「そうだぞ、せっかくおまえの大好きなケイトが作ってくれたんだからな。」

「だ、だ、誰が、大好きなんだ!
おかしなこと、言うな!」

「あれ~?オルジェ…
おまえ、なんでそんなに真っ赤になってるんだ?
おまえは本当に晩生だな。
今度、可愛い女の子でも紹介してやろうか?」

「もうっ!
トレルったら、オルジェをからかうのはやめて!」

「はいはい、わかりましたよ。」

そんなオルジェ達の様子を、イアン牧師は微笑みながらみつめている。



それぞれに不幸な事情を持った子供達ももう一人立ち出来る年齢になった。
今のイアン牧師の悩みは、オルジェがいまだコンジュラシオンになることを拒んでいることだけ。
特に何かやりたいことがあるわけでもないのに、オルジェは頑なにその職業を拒んでいる…
イアンには、オルジェが、ただ、自分の運命とも思える押し付けられた将来に懸命に逆らっているだけのように思えた。



(もう少し時間をかけねばならないようですね…)

オルジェの方を見ながら、イアン牧師は小さな溜息を吐いた。



トレルはそんなイアンの心の中を見透かしていた。

(心配しなくても、そのうち奴もやる気になるさ…
……いやでもなんでも、奴にはその道しかないんだからな…)

俯くトレルの表情に暗い影が差した。

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

魔の森に捨てられた伯爵令嬢は、幸福になって復讐を果たす

三谷朱花
恋愛
 ルーナ・メソフィスは、あの冷たく悲しい日のことを忘れはしない。  ルーナの信じてきた世界そのものが否定された日。  伯爵令嬢としての身分も、温かい我が家も奪われた。そして信じていた人たちも、それが幻想だったのだと知った。  そして、告げられた両親の死の真相。  家督を継ぐために父の異母弟である叔父が、両親の死に関わっていた。そして、メソフィス家の財産を独占するために、ルーナの存在を不要とした。    絶望しかなかった。  涙すら出なかった。人間は本当の絶望の前では涙がでないのだとルーナは初めて知った。  雪が積もる冷たい森の中で、この命が果ててしまった方がよほど幸福だとすら感じていた。  そもそも魔の森と呼ばれ恐れられている森だ。誰の助けも期待はできないし、ここに放置した人間たちは、見たこともない魔獣にルーナが食い殺されるのを期待していた。  ルーナは死を待つしか他になかった。  途切れそうになる意識の中で、ルーナは温かい温もりに包まれた夢を見ていた。  そして、ルーナがその温もりを感じた日。  ルーナ・メソフィス伯爵令嬢は亡くなったと公式に発表された。

処理中です...