上 下
8 / 201
彼の事情

しおりを挟む
「やっぱ、望結の料理はうまいな。
そこらへんのレストランより、ずっとうまい。」

 瑠威はいつもそんなことを言う。
 口がうまいっていうか、なんていうのか…
お世辞だろうとは思っても、それでも頬が緩んでしまう…



「サラダも全部食べなきゃだめだよ。」

 「はーい。」

 瑠威は、野菜があんまり好きじゃない。
だけど、瑠威は意外と素直で、食べなさいって言うとちゃんと食べる。
そこがまた可愛いんだけど…



それにしても、私がこんなことをしてることがバレたら、さゆみだけじゃなく、シュバルツのファンにどんなことをされるかわからない。
いや、それ以前に、一緒に住んでることがバレるだけでも相当まずい。
 瑠威は、今、ベースのクロウさんと一緒に住んでるってことにしてる。
クロウさんは実家がお金持ちで、広い、オートロックのマンションに住んでるから。



 「なぁ、望結…」

 「……え?何?」

 「昨日、もしかしてライブに来てなかった?」

 「えっっ!な、な、なんで私が……」

 「そうだよな…いや、なんか望結に似た子を見かけた気がして…」

 「わ、わ、私…ど、ど、どこにでもよくいるタイプだから…」

……ひきつった。
びっくりして焦って、頬っぺたの肉がぴくぴくしちゃった。
 私はホールの一番後ろにいたっていうのに、なんでこいつ気付いたんだ!?

 
しおりを挟む

処理中です...