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「良かったら、その役…僕にやらせて下さい。」

 「えっ…?」

 自分でもぞっとするような白々しさだった。



 「だから、僕があなたの好きな人だということにするんですよ。
 僕では役不足でしょうか?」

 「いえ、そんな…
でも、そんな面倒な事…本当にお願いして良いんですか?」

 「ええ、もちろんです。
 僕は、一昨年、ここに事務所を構えたころから、なんとなくあなたにひかれていた。
だから、あなたを食事にも誘いましたが、お付き合いしてる人がいるからってやんわりと断られましたよね。
だから、諦めていましたが、今、僕にはチャンスが訪れた。
それを不意にするほど、僕は馬鹿じゃありません。
もちろん、下心はありますよ。
これをきっかけに本当にあなたの恋人になれたら嬉しいと思っています。
でも、まずはこの役を努めあげ、あなたと彼が完全に別れられるように頑張りたいと思ってます。
……いかがでしょうか?」



まさに、私の願った通りに事が動いた。
 私にこの申し出を断る理由はない。



 「ありがとうございます。
 本当に厚かましいとは思うのですが…そう言っていただけてとてもありがたいです。
どうぞよろしくお願いします。」

 「任せといて下さい!
こう見えて、僕は演技にも自信があるんですよ。」

そう言って、藤堂さんは片目を瞑って見せた。
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