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side かおり

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「……ママ……どういうことなの?
ねぇ、ママ……」

望結の瞳はとても心細げで…動揺してることがよくわかる。
それも当然だ。
私はさっき、あんなことを言ってしまったんだもの…



「望結……あのね……」

言葉が出て来ない。
嘘を吐くのが辛すぎて…だけど、本当のことは言えなくて…



「かおり、はっきり言った方が良い。
瑠威君とは別れて、僕と結婚するってはっきり言うんだ。」

藤堂さんが真剣な眼差しで、私をみつめる。



そうだ…
私は、瑠威の未来のために、瑠威と別れる決心をして、そして、藤堂さんを利用した。
ここまで来てしまった以上、もう戻ることなんて出来ないんだ。
どんなに辛くとも、最後までこの芝居を続け、幕を降ろさなくてはならない。



溢れて来た涙をそっと指で拭い…私は顔を上げた。



「望結…心配かけてごめんね。
望結には悪いんだけど…私、瑠威とは別れる…」

「どうして?だ、だって、ママと瑠威はあんなにラブラブだったじゃない!」

「望結にはそう見えてたかもしれないけど…
ママの気持ちはもう瑠威から離れてたの…
瑠威とママでは年も違うし、元々合わなかったの…
お互いに、無理してただけなのよ…」



「無理なんかしてない!」



瑠威の大きな声に、背中が波打った。



「俺は、そんなこと少しも気にしてなかったし…無理なんてしてない…」



(瑠威……!)



瑠威の瞳には涙が溜まってた。
瑠威の涙を見たのは初めてだ。
その涙を見た時、私は胸が詰まって鼓動が速くなった。



もういやだ。
瑠威のそんな姿は見たくない…
だけど、目を逸らすわけにはいかなかった。
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