お題小説2

ルカ(聖夜月ルカ)

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026 : 光の地平

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「ローブ、君は平気なのか?!
あんな所に閉じ込められて、家族と会うことも叶わない…そんな暮らしがこれから先もずっと続くんだぞ!
 君はそれに耐えられるのか!」

ローブはピーターのその言葉に、なお激しく声を上げて泣きじゃくる。



 「……ごめんよ、ローブ、酷いこと言って…
でも…それが現実だ!
だから、僕は君を助けに来たんだ。
な、逃げよう!ローブ!」

 差し伸ばされたピーターの手を、ローブは振りほどいた。



 「駄目っっ!
そんなことしたら……そんなことしたら、母さんや父さん達が…」

 「え……」

ピーターの手から力が抜けた。
ローブの家族は、現在は元の実家の近くに移り住んで、とても快適な暮らしをしている。
ローブ程ではないにしろ、庭付きの屋敷に住み、使用人も一人いる。
 生活に必要なものは常に支給され、今までのように生活に困る事はなくなっていた。

ローブの父親は、足が少し不自由だった。
そのため、父の稼ぎだけでは食べていくことが出来ず、ローブの母親もずっと外で働き、弟のことは幼いローブが面倒をみていた。
そんな暮らしもローブのおかげで一変した。
ローブのおかげで、家族が人並み以上に楽に暮らしていけるようになったのだ。



 「私が逃げたら、皆は……」

 「……ローブ……」

ピーターは、ローブの苦しい胸の内にやっと気付いた。
まさか、家族が処罰を受けることはないとは思いつつも、ローブの家族が今の生活を失ってしまうであろうことはおそらく間違いないと思われた。



 「……じゃ、じゃあ、家族も皆、呼んで…」

 勢いでピーターはそう言ったものの、現実にそんなことが出来るとは思ってはいなかった。
ピーターの祖父もそれほど裕福なわけではない。
 家もそれほど広くはない。
ローブの家族を全員引き取るということは、祖父にとっても大きな負担になるどころか、不可能なことのようにピーターには思えた。



 「……あんなことさえしなければ…」

ローブの呟きにピーターははっとしたように顔を上げた。



 「私が、あんなことさえしなければ…」

ローブはついにその場に座りこんで、泣き崩れた。



 「ローブ…」

ピーターは、背中からローブを抱き締め途方に暮れた。
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