お題小説2

ルカ(聖夜月ルカ)

文字の大きさ
321 / 506
052 : 風を追い越して

しおりを挟む




 「じゃあ、行って来るね!」

 「あぁ、楽しんでおいで。
マルタン、リュック…ディヴィッドのこと、よろしく頼んだよ!」



あれから、エヴァはまるでリュックとは何事もなかったかのように振る舞い、それでリュックも安心したのか、彼らの間にぎくしゃくしたものは少しも感じられなくなった。
 町の復興も思った以上に順調に進み、今では燃えた商店の大半が元の場所に建ち並び、そのうちの半分以上がすでに商いを始めている。
アーノルドの家も修繕され、つい先日、ナンシーとイーヴが戻り、アーノルドも私達の宿舎を出て行った。
それなりに状況は落ち着き、私達だけではなく、クロワやクロードもようやく忙しさから解放された。

そんなある日、リュックがいきなりディヴィッドを連れてちょっとした旅行に行こうと言い出した。
なんでも、ディヴィッドはあの町を出たことすらほとんどないとのことで、リュックは、この町を離れる前にディヴィッドに楽しい思い出を作ってやりたいと考えたのだろう。
しかし、それなら二人の方が良いのではないかと思ったのだが、リュックは私にもぜひ一緒に来てほしいと引かなかった。
そして、不思議なことにリュックは旅の目的地を話さない。
 気の向くままに進むだけだと口では言っているが、リュックは何度も地図を見ては道を確かめ、とてもあてのない旅だとは思えない。



 *




 「ディヴィッド、疲れただろう?
おまえ、こんなにたくさん歩いたことはないんじゃないか?」

 「うん、でも、すっごく楽しいよ。
だって、こんな遠くに来たのは初めてだし、こんな宿屋に泊まるのも初めてだし、さっきみたいなお店でごはんを食べるのも初めてだし……
何もかもが初めてのことなんだもん!」

 「おいおい、ここはまだおまえが住んでた町の隣の隣だぜ。
それに、ここには特に面白いものもないじゃないか。」

 「でも、僕、本当に楽しいんだもん!」

ディヴィッドは、興奮気味にそう話し、無邪気な笑顔を見せた。



 「明日はもっと面白いものを見せてやるからな。
さ、明日の朝も早いぞ。
 早く寝るんだ。」

 「僕、まだ眠くないよ……」

 「良いから横になってろ。」

リュックに促され、渋々横になったディヴィッドだったが、すぐに規則正しい小さな寝息が始まった。



 「……やっぱり疲れてたんだろうな。」

 「そうだろうな。」

リュックは明日は面白い物を見せるとディヴィッドに言った。
 彼は明らかに行き先を決めている。
なのに、なぜ、それを私に隠す……?
 喉元まで出かかった疑問を私は無理に飲みこみ、リュックの企みをこのまま見届けようと思った。

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

お姫様は死に、魔女様は目覚めた

悠十
恋愛
 とある大国に、小さいけれど豊かな国の姫君が側妃として嫁いだ。  しかし、離宮に案内されるも、離宮には侍女も衛兵も居ない。ベルを鳴らしても、人を呼んでも誰も来ず、姫君は長旅の疲れから眠り込んでしまう。  そして、深夜、姫君は目覚め、体の不調を感じた。そのまま気を失い、三度目覚め、三度気を失い、そして…… 「あ、あれ? えっ、なんで私、前の体に戻ってるわけ?」  姫君だった少女は、前世の魔女の体に魂が戻ってきていた。 「えっ、まさか、あのまま死んだ⁉」  魔女は慌てて遠見の水晶を覗き込む。自分の――姫君の体は、嫁いだ大国はいったいどうなっているのか知るために……

婚約者が隣国の王子殿下に夢中なので潔く身を引いたら病弱王女の婚約者に選ばれました。

ユウ
ファンタジー
辺境伯爵家の次男シオンは八歳の頃から伯爵令嬢のサンドラと婚約していた。 我儘で少し夢見がちのサンドラは隣国の皇太子殿下に憧れていた。 その為事あるごとに… 「ライルハルト様だったらもっと美しいのに」 「どうして貴方はライルハルト様じゃないの」 隣国の皇太子殿下と比べて罵倒した。 そんな中隣国からライルハルトが留学に来たことで関係は悪化した。 そして社交界では二人が恋仲で悲恋だと噂をされ爪はじきに合うシオンは二人を思って身を引き、騎士団を辞めて国を出ようとするが王命により病弱な第二王女殿下の婚約を望まれる。 生まれつき体が弱く他国に嫁ぐこともできないハズレ姫と呼ばれるリディア王女を献身的に支え続ける中王はシオンを婿養子に望む。 一方サンドラは皇太子殿下に近づくも既に婚約者がいる事に気づき、シオンと復縁を望むのだが… HOT一位となりました! 皆様ありがとうございます!

【完結】 嘘と後悔、そして愛

月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
伯爵令嬢ソニアは15歳。親に勝手に決められて、一度も会ったことのない10歳離れた侯爵リカルドに嫁ぐために辺境の地に一人でやってきた。新婚初夜、ソニアは夫に「夜のお務めが怖いのです」と言って涙をこぼす。その言葉を信じたリカルドは妻の気持ちを尊重し、寝室を別にすることを提案する。しかしソニアのその言葉には「嘘」が隠れていた……

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

【完結】瑠璃色の薬草師

シマセイ
恋愛
瑠璃色の瞳を持つ公爵夫人アリアドネは、信じていた夫と親友の裏切りによって全てを奪われ、雨の夜に屋敷を追放される。 絶望の淵で彼女が見出したのは、忘れかけていた薬草への深い知識と、薬師としての秘めたる才能だった。 持ち前の気丈さと聡明さで困難を乗り越え、新たな街で薬草師として人々の信頼を得ていくアリアドネ。 しかし、胸に刻まれた裏切りの傷と復讐の誓いは消えない。 これは、偽りの愛に裁きを下し、真実の幸福と自らの手で築き上げる未来を掴むため、一人の女性が力強く再生していく物語。

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?

水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。 日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。 そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。 一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。 ◇小説家になろう、ベリーズカフェにも掲載中です! ◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています

処理中です...